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第四章 現在
27 始まりは終わる為にそれとも終わりは始まりの為にあるもの? Sideジェフリー
しおりを挟む二年前の朔の夜アーロン様は慰み用にと集められた乙女達の命を代償に、夢の中で姫へ呪印を施されました。
呪印の方法もその解呪法の全てを私は知っておりますし、今直ぐにでも解呪を行う事も可能です。
えぇ、ここにいるマックスやチャーリーよりも私は彼らの用いる光魔法ではなく、アーロン様と同様の闇魔法を嗜んでおりますので……。
ただ解呪を行った時点で私はアーロン様を裏切る事になりますね。
まぁですがここにラファエル陛下とマックスにチャーリーがいるという事は、もう私の自領にも捜索の手が及んでいると見て間違いはないでしょう。
ここでアーロン様を護りつつアーロン様と共に闇へと下るか、それともアーロン様を逃がす為の盾となり果てるのか、はたまたアーロン様を裏切りラファエル陛下に許しを請う……ふふ、それはあり得ませんね。
ここへきて自慢をする心算はありませんが、私は今まで私自身の意思で行動をした事はないのです。
幼い頃より何時も父や周りの大人達、またアーロン様の指示によって敷かれたレールの上で私は脱線する事等許されずただ只管に、相手を喜ばせる為だけに生きてまいりました。
あ、いえ一つだけ……そうあの日姫の前に現れたのは間違いなく私自身の意思、でしたね。
あの時だけは私自身の意思で姫と出逢い姫を、ただの街娘のフィオ嬢を心から護りたいと思ったのですよ。
ですのでこの想いは私だけのものなのです。
アーロン様もラファエル陛下も関係のない、私個人が抱いた想いなのですよ。
二十四年生きてきて初めて知り、抱いた大切なる想い。
ふふ、私の逝く先は決まったも同然。
どうせ決まったのであれば私は誰の命令をも受けず、己の信じる道を選んで逝きたいものです。
最期くらい――――私の望む道を選んでもよろしいでしょう。
「クスクス、可愛いくて愛しいエヴァンジェリン。君の泣き顔は本当に他の女達とは比べられないくらいにゾクゾクするね。本当に何とも形容し難いこの世でたった一つの至宝としか思えない」
「えっ!?」
アーロン様の愉悦に満ちたお顔と悲壮感を露わにさせた姫の、フィオ嬢の表情。
怯える彼女の白い項を蛇の様にねっとりとした長い舌をねろりと這わせられるアーロン様のお姿が視界に入りました。
白い項を舐めあげられた瞬間フィオ嬢は軽くピクピクと身体を小刻みに震えさせると、静かにアーロン様の腕の中で意識を失われたのです。
当然と言えば当然の結果。
アーロン様は自身の舌に魔力を集中させマックス達が一時しのぎに過ぎない封呪を解呪したのですからね。
そして本来……呪印を付けた目的を発動させたのです。
アーロン様は本当に恐ろしい御方です。
二年前に付けた呪印は100%直ぐに彼らによって封呪される事を最初から読んでいらっしゃったのですからね。
予め呪印を付け、理解した上でそれを封呪させ、次にアーロン様自らその風樹を解呪する事により呪印を完成させる。
何も知らずに目覚めたフィオ嬢が初めて自身の瞳に映る人物を永遠に、そうですね彼女の死が訪れるその瞬間まで最初に見た人物を盲目的に愛すると言う古より伝わる強固な呪いなのです。
そしてマックス達はアーロン様の目論見通り呪印を封呪しました。
そのままラファエル陛下に恋をさせる事も出来たと言うのに、恐らく彼らもここまで強固な呪いだとは理解していなかったのでしょう。
本当に愚かにも程があるっ!!
またアーロン様はそれをよく理解されていらっしゃるからこそ罪のない乙女達の命を贄とし、フィオ嬢へ呪印を施されたのです。
何時か再び巡り合うこの瞬間まで!!
仕える者としてはこれ程頭の切れる御方を尊敬致しますが、一人の男としては……承服致しかねます。
私はフィオ嬢の花が咲き誇る様な美しい笑顔が好きなのです。
それが私に向けられなくとも、呪いや柵のないフィオ嬢の心の底から溢れ出る喜び、笑顔を見たいだけなのです。
アーロン様、貴方にはこれまで色々と、本当に沢山の事を教えて下さりとても感謝をしています。
ですがっ、幾ら主である貴方と言えどもです。
私が心より惹かれた女性の運命を弄ぶ事だけは許せない。
貴方がフィオ嬢へ付与した呪印を消し去るには命を代償にする必要があります。
勿論フィオ嬢の幸せを護る為ならば喜んでこの命を差し出しましょう。
そうして私は静かに胸の内で詠唱を始めた瞬間――――!?
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