上 下
98 / 122
第四章  現在

23  始まりは終わる為にそれとも終わりは始まりの為にあるもの?  Sideラファエル

しおりを挟む

 午前の政務が終わりこれから平服に着替えエヴァンジェリンの許へ行こうとしていた矢先だった。
 その知らせを聞いたのは――――。

『陛下、シャロンの残党を王都内で発見致しました。またルートレッジ侯爵も同行しております』      
『陛下っ、王妃様がシャロンの残党と接触します!!』

 ほぼ同時に二つの伝達魔法が入ってきた。
 幾つもの伝達が入るのは常の事。
 だが今回のものは内容が内容だけに驚愕を禁じ得なかった。
 
「チャーリー聞いていたな。第一騎士団を王都へっ、エヴァンジェリンの許へ直ぐに向かわせろ!! 第二騎士団はルートレッジ侯爵領へ向かいシャロンに関する捜索を行え!! 俺はこのままエヴァンジェリンの許へ行く!!」
「陛下秘密が色々と露呈する事になっても宜しいのでしょうか? 王妃様は未だ何もご存じない筈……」
「愚問だな。秘密とは何れにしろ時が来れば明らかとなるものだ。それよりも今はアーロンにエヴァンジェリンを奪われるくらいならば秘密等幾らでも明らかにしてやるっ!! 俺はもう二度と大切なモノを失いはしない」

 俺達は、いや俺はエヴァンジェリンの元へ向かうと共に伝達魔法でマックスへエヴァンジェリンの危機を伝え、そして彼女を護る様に命じた。
 マックスからも今彼女の元へ向かっていると返事がきた。
 チャーリーは俺が指示している間に騎士団への指示は済ませていた。
 相変わらず根回しの早い奴だ。

 昔から変わらない。
 チャーリーといいマックスも良くも悪くも俺を理解してくれている。

 俺がここまで早く国内を安定させる事が出来たのは多くの臣下の功績は勿論の事だが、幼馴染でもある彼らの力があればこそ……だ。

 そうして俺達は影が知らせてきた場所へ、エヴァンジェリンの許へと馬で駆けて行く。
 馬上で身体強化や防御呪文を施しながら……。

 到着早々きっと戦闘状態になるのは想像に難くないからな。


 アーロンと言う男は俺の妃であるエヴァンジェリンへ過剰なまでに執着をしている。
 あいつに比べればストーカーなんてモノはまだまだ可愛いのかもしれん。
 何しろエヴァンジェリンが誕生して八年もの間、アーロンは苛烈な、いや異常としか言えない程のストーキング行為を行っていた。

 そうアーロンの精神は根底から病んでいる。

 昔からそれは変わらない。
 戦場で幾度相まみえようともそれは変わらなかった。
 己の命令を少しでも遂行出来なかったであろう自国の兵士を敵国の、俺達の目の前であいつはその兵士を愉しそうに悦に入りながら嬲り殺していた。

 その兵士が事切れる刹那、俺達は背筋に悪寒が走ったのを今も覚えている。

 あいつは、アーロンは危険な男だ!!

 アーロンは狂気の中で鮮やかに狂い咲く血の様に赤黒い薔薇の様な魅力を秘めた男。
 あの男の前に連れて来られた……中には愚かにもあいつの持つ危険極まりのない妖しげな魅力に吸い寄せられた者も多くいる、がな。
 己の持つ猛毒を染み込ませた棘で相手を刺し、毒に犯されて死ぬかその棘に刺され血の一滴まで身体より出し切り恍惚の中で奴に命を捧げるかの何れかだ。

 それがアーロン・レジナルド・シャクルトンという男の愛し方なのだっ!!

 そいつが今、あの疑う事を知らない無垢で美しくも心優しいエヴァンジェリンの傍近くにいる!!
 狂気を孕んだ猛毒の棘が、エヴァンジェリンを今にも突き刺そうと両翼を広げ構えている。

 エヴァンジェリンだけはっ。
 エヴァだけはっ、あのあどけなくも少しはにかんだ柔らかい笑顔を見せてくれる彼女だけは何としても護り抜く!!
 二年と言う時間を掛けて漸く彼女の素の笑顔を垣間見る事が出来たのだ。
 後少し、もう間もなくすれば彼女の許へと駆けつけられるっ。
 俺は逸る気持ちを抑えつつ更に第三騎士団へ近隣住民の避難指示を出す。


 アーロンは闇魔法の遣い手だ。
 目の前に愛おしい存在が手に入るかもしれないと知れば奴の事。
 周りの被害も考えず……いや、奴の魔法の影響で苦しむ国民を見て大いに愉悦するだろう。

 アーロンにしてみれば民達の苦しみ死にゆく姿は、あくまでもエヴァンジェリンを手に入れる為の余興に過ぎない。

 だが俺はお前ではない。
 幾ら姿形は似ていようとも俺はお前とは違う。
 お前の下らない快楽の為にエヴァンジェリンを含め我が民一人とてお前の好きにはさせない!!

 そうして漸く俺の視界に彼女の姿を捉えた時だった。
 アーロンは舐め回す様に執拗な視線でエヴァンジェリンを捉えながら彼女の左手首を掴んでいた!?

「――――そこまでだアーロン、の手を離して貰おうかっ!!」

 アーロンと戦うに関し常に冷静を保たなければいけない事を十分に理解をしてはいてもその光景を見た瞬間、本能の赴くまま声高に叫んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

エルネスティーネ ~時空を超える乙女

Hinaki
ファンタジー
16歳のエルネスティーネは婚約者の屋敷の前にいた。 いや、それ以前の記憶が酷く曖昧で、覚えているのは扉の前。 その日彼女は婚約者からの初めての呼び出しにより訪ねれば、婚約者の私室の奥の部屋より漏れ聞こえる不審な音と声。 無垢なエルネスティーネは婚約者の浮気を初めて知ってしまう。 浮気相手との行為を見てショックを受けるエルネスティーネ。 一晩考え抜いた出した彼女の答えは愛する者の前で死を選ぶ事。 花嫁衣装に身を包み、最高の笑顔を彼に贈ったと同時にバルコニーより身を投げた。 死んだ――――と思ったのだが目覚めて見れば身体は7歳のエルネスティーネのものだった。 アレは夢、それとも現実? 夢にしては余りにも生々しく、現実にしては何処かふわふわとした感じのする体験。 混乱したままのエルネスティーネに考える時間は与えて貰えないままに7歳の時間は動き出した。 これは時間の巻き戻り、それとも別の何かなのだろうか。 エルネスティーネは動く。 とりあえずは悲しい恋を回避する為に。 また新しい自分を見つける為に……。 『さようなら、どうぞお幸せに……』の改稿版です。 出来る限り分かり易くエルの世界を知って頂きたい為に執筆しました。 最終話は『さようなら……』と同じ時期に更新したいと思います。 そして設定はやはりゆるふわです。 どうぞ宜しくお願いします。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...