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第四章  現在

17  始まりは終わる為にそれとも終わりは始まりの為にあるもの? 

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「アーロン様っ、その者はただの街娘です!! どうかお早く馬車にお乗り下さいませっ」

 アーロンが彼女を自身の天色あまいろの視界に入れるや否やジェフリーの胸の中は激しく動揺する。
 そして何としても一刻も早くフィオを彼の視界の届かない所へと逃がしたかった。

「そこのっ、邪魔ですからさっさとこの場より立ち去りなさい!!」
「ジェ……は、はい、申し訳ありません」

 そう命じられたフィオの胸の中も激しく動揺していた。 
 あの優しいジェフリーがこんなにも語気を強めて発した言葉に最初はショックの方が大きかった。
 だが少し冷静になればジェフリーの話し方はまるで自分をこの場より逃がそうとする様にも取れるのだとフィオはそう捉える事にした。

 出逢ってまだ二度目。
 常の彼女ならば絶対に他人に対しここまで好意的に捉える事はなかった。
 なのに何故ジェフリーにだけ、突然頭ごなしに命じられたのにも拘らずそう捉えてしまうのだろう。

 残念ながら今のフィオにその答えはわからない。
 ただこれにはきっと何か理由があるのだろうと、そう察したフィオは驚愕したと共に震えそうになる声を何とか抑えながら、少しこうべを垂れつつこの場を後にした方がいいと判断し行動をする。

 まさにその時だった。
 アーロンがフィオの前に現れたのは……。

 フィオの前には顔なじみで患者だったエル。
 思わず「エルさん」と声を発しようとして寸前で止めた。
 
 
 どうして私はエルさんより逃げなければいけないのかしら。
 ただ本当にこの男性ひとは私の知るエルさん、なのかしら?

 
 漠然とした二つの疑問を抱いてしまった。
 そうフィオの良く知るエルさんならば逃げる必要は全くない。

 まして今日は水曜日。

 恒例となったエルさんとマックスの三人でこれから食事をする予定である。
 でも何故なのだろう。
 フィオは目の前にいるへほんの僅かながらも違和感を抱いたのである。
 何を……と問われればまだフィオは答えられないだろうがしかし、彼女の心の奥底より何かが訴えかけてくる。

 目の前の人間を信じるな――――と。

 確かに姿形はフィオの知ると同じもの。
 とは言え一度抱いてしまった違和感と疑問。
 フィオはジェフリーに促されるまま後退したのだが――――!?

「ダメだよ、僕の愛しいエヴァンジェリン」
「えっ!?」

「……エヴァンジェ、リン?」

 アーロンが素早くそして滑らかにフィオの左手首を掴んだのと――――。
 フィオが目の前の人物にエヴァンジェリン真実の名を告げられ。
 そしてジェフリーの形の良い耳にフィオの真実の名が届く。
 
 フィオとジェフリーの二人それぞれが違う意味で驚愕をしたのはほぼ同時だった。


「――――そこまでだアーロン、の手を離して貰おうか!!」

「えっ!?」
「陛下っ!?」
「それまでですよアーロン殿。フィオ大丈夫かい?」
「アーロン殿我が国の王妃陛下のお手を速やかにお放し下さい」

 そして王宮のある方角より現れたのは漆黒の滑らかな肢体を有する馬へ騎乗している、これまた漆黒の騎士服に身を包んだ『エルさん』事ルガート王ラファエル。
 その隣には栗毛の馬に騎乗した文官装束のチャーリー。
 反対側にある診療所からはマックスが剣を持って現れたのである。
 また気がつけば周囲はラファエル達を護る騎士達とフィオの護衛の影達にずらりと囲まれていた。

「え、エルさんが!?」

 前後交互に視線を向けるフィオは同じ顔を持つ人物の登場に当然驚いたがそれよりも何よりも……。


 今、って――――っ!?


 フィオの混乱が収まる前に彼女の腕を捉えていた2とはフィオが心の中で付けた名前である。

 そのエルさん2号は本家エルさんに向かって舐める様な視線を向けにこやかに語りかけた。

「これはこれは何年振りだろうね、我が殿?」
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