87 / 122
第四章 現在
12 始まりは終わる為にそれとも終わりは始まりの為にあるもの?
しおりを挟むその日は水曜日でフィオは診療所で忙しなく働いていた。
ジェンセンは治療目的で診療所いや、怒られるのを十分承知の上でフィオへ会いに飽きもせず日参していた。
もう彼女に怒られる事を一種の喜びと思っているのかもしれない……。
「はいはい今度は何処ですかジェンセンさん。指の擦過傷程度なら自分で舐めて治して下さいね」
「ひ、酷いよフィオちゃん。今日はちょっと風邪気味でこれでもれっきとした病人なんだからさ、せめて今日だけでも優しくしてくれよ」
ややオーバーリアクション気味に片手を自身の額に当て、もう片方の手で口元に手を当てれば「ごほ、ごほっ」と態とらしく咳をして見せる。
如何にも自分は熱があり、咳も出ている病人だとフィオへ見せつける。
「……ではお熱を測りましょうか。そ・れ・か・らっ、咳をする際は手拭き若しくは肘を当ててして下さいね。万が一他の患者さんへ感染してしまうといけないので」
「あれ?フィオちゃん直々に熱を測ってくれるんじゃないのか」
差し出された体温計をムスッとした表情でジェンセンは受け取りながら、無駄だとわかりつつも彼女へ測ってくれと強請てみせる。
「はぁ……」
深く嘆息するフィオ。
「何を言っているんだい。そんなでかい図体の男が甘ったれた事を言うんじゃないよ!!」
フィオが腰に手を当てジェンセンへ文句を言おうとした瞬間、割って入ってきたのは常連患者のスティア。
ラファエルとフィオの仲を取り持ちたいスティアにしてみればだ。
邪魔なジェンセンを何とかフィオより引き剥がしたいのだが敵も中々としぶとい。
だがそこはスティアも負けてはいない。
「さっきから聞いてりゃ情けないと思わないのかい。王国の騎士様がでかい図体して私らのフィオちゃんへしな垂れかかるなんて100万年早いってもんだよ!!大体あんたの風邪だって大したことはない筈だろ。抑々騎士様ならここへ来なくても騎士団に併設されている立派な医療室があるだろう。ここは私らの様な街に住むもんのオアシスなんだ。関係ない奴はとっとと騎士団へお帰り!!」
「す、スティアおばさん……」
スティアがジェンセンへ放った言葉と同時に右手で追い払う様に「しっしっ」と手を振っていた。
流石のフィオも少し酷過ぎるのではとスティアとジェンセンの間へ割って入る。
「スティアおばさんも少し言い過ぎですよ」
「フィオちゃん」
「ジェンセンさんも患者さんなら患者さんらしくして下さい。それが出来ないのであればスティアおばさんの言う通り騎士団の中にある医療室へ行って下さい」
「フィオちゃ〰〰〰〰ん」
フィオは情けない声で叫ぶジェンセンを軽く一瞥すると、彼より体温計を受け取り受付へと戻る。
本当にこのお二人とも寄ると触ると口論ばかりね。
少しは仲裁するこちらの立場というものを理解して貰いたいです。
フィオは心の中でそっと独り言ちる。
診察後ジェンセンは軽い風邪だった故マックスは彼へ薬を処方した。
フィオは何時もと変わらず塩対応だ。
「ジェンセンさんのウィルスは凶悪そうなので、一般の患者さんに病気がうつったら大変ですので早々に宿舎へ帰って下さいね。それからちゃんとお食事をして水分も十分に摂ってしっかり休んで下さい」
何を言われてもめげないジェンセンは自身の瞳に診療所が映らなくなるまで「フィオちゃん俺の看病をしてくれよぉ〰〰〰〰」と、喉が腫れているのも構わず大声で叫んでいた。
これにはスティアだけでなく他の間者達も呆れていた。
そうして何とか正午過ぎには診察を終えたのである。
何時もの様にマックスがカルテ整理をしている間にフィオは診療所を片づけていると、待合室によく見知った茶色を基調とした三色の赤色の糸で綺麗に編まれたスティアの膝掛けが置いてあった。
『よく足が冷えると痛むんだよ』
そう言って温かい季節となった今でも常に持ち歩き、待ち時間の間彼女は膝へ掛けていた大切なもの。
夕方になれば更に気温下がる。
そうすればきっとスティアの身体は辛い思いをするだろう。
「マックス、スティアおばさんの忘れ物を届けてきます。直ぐに戻ってきますから……」
「あぁわかったよ。十分気を付けて行くんだよ」
フィオは診察室を覗くとマックスへ声を掛け、そのまま診療所を後にした。
マックスもスティアの家は知っている。
診療所から5分くらいしか離れていない一筋向こうにある所。
フィオは知らないが彼女には影も数名つけているから大丈夫。
だからマックスは安心していた。
慢心とも言うが……。
しかしそんな目と鼻の先で誰が予測しただろう。
残酷なまでの運命の再会。
そしてこれから訪れる悲しい瞬間が訪れる事を……。
0
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
常世の守り主 ―異説冥界神話談―
双子烏丸
ファンタジー
かつて大切な人を失った青年――。
全てはそれを取り戻すために、全てを捨てて放浪の旅へ。
長い、長い旅で心も体も擦り減らし、もはやかつてとは別人のように成り果ててもなお、自らの願いのためにその身を捧げた。
そして、もはやその旅路が終わりに差し掛かった、その時。……青年が決断する事とは。
——
本編最終話には創音さんから頂いた、イラストを掲載しました!
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない
結田龍
恋愛
「君との婚約を破棄する!」と六人目の婚約者に言われた瞬間、クリスティーナは婚約破棄の成就に思わず笑みが零れそうになった。
ヴィクトール帝国の皇女クリスティーナは、皇太子派の大きな秘密である自身の記憶喪失を隠すために、これまで国外の王族と婚約してきたが、六回婚約して六回婚約破棄をしてきた。
悪女の評判が立っていたが、戦空艇団の第三師団師団長の肩書のある彼女は生涯結婚する気はない。
それなのに兄であり皇太子のレオンハルトによって、七回目の婚約を帝国の公爵令息と結ばされてしまう。
公爵令息は世界で初めて戦空艇を開発した天才機械士シキ・ザートツェントル。けれど彼は腹黒で厄介で、さらには第三師団の副官に着任してきた。
結婚する気がないクリスティーナは七回目の婚約破棄を目指すのだが、なぜか甘い態度で接してくる上、どうやら過去の記憶にも関わっているようで……。
毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。
恋愛小説大賞にエントリーしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる