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第四章  現在

11  チャーリーの願い

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 翌朝エヴァはアナベルより昨日の一件についてこってりと絞られた。

 危機管理意識が低すぎると……。

 言われるまでもなくエヴァは自身の立場や狙われている事実を思い出す。
 マックスの所で働き始めてからの毎日が楽しくて、つい幸せな日々を送り過ぎていたのかもしれない。
 またこの三年間は今まで生きてきた中で本当に幸せだったのである。
 自身の置かれている現実より目を背けてしまう程に……。

 王族というしがらみや何もない一個人として自由でいられる事への素晴らしさに我を忘れてしまっていた。
 エヴァは恐らくこの国で誰よりも自分を心より心配し、今目の前で彼女を怒りつつもその澄んだ水色の瞳に薄っすらと涙を浮かばせているアナベルを見て彼女は猛省する。

「ごめんなさい。もうこれからはこの様な無謀な行動はしないわ。だからもう泣かないでアナベル」

 そう言ってエヴァはアナベルをそっと抱き締め、もう二度と大切な彼女を悲しませる様な行動はするまいとエヴァは固く誓う。

 一方エヴァ命の脳筋令嬢アナベルにしてみればだ。
 心酔してやまないエヴァに抱き締められ、至福の時を味わうと共に形の良い唇は三日月の様に弧を描けばである。   
 左手には小指大くらいの小瓶が彼女に知られないようしっかりと握りしめられていた。

 勿論その小瓶の正体はである!!
 

 私の大切なエヴァ様。
 貴女を護る為でしたら私はどの様な姑息で卑怯だと言われようとも手段は選びません。
 でもこの様子でしたらまだそのお美しいお心の中にあの馬の骨男は存在を主張していないでしょう。
 いえほんの一時でも存在する等この私が認めませんわ。

 ですからエヴァ様どうかこのままをお忘れ下さいませ。
 とは申せあぁ、今の私は何と幸せなのでしょう!!
 あぁお願いですからエヴァ様、どうかもう暫くだけ私を抱きしめて下さいませっっ!!


 残念過ぎる脳筋令嬢もとい脳筋侍女の雄叫びともとれる願いより早三ヶ月が経過した。
 あれからアナベルの監視はより一層厳しくなり、エヴァの勤務の日には必ず彼女が番犬宜しくと言った具合に診療所の前でエヴァを待ち、そうして一緒に買い物をして帰路へ着く。

 当然アナベルの勤務日はフィオを一切外出はさせない。
 何か足りないものがあれば帰りにアナベルが超特急で買い物をして帰宅をする。
 当然護衛の警戒レベルもアナベルが言う前にラファエルの指示にて引き上げられていた。
 ラファエルに出し抜かれた形となった事にアナベルは多少苛ついたのは言うまでもない。

 まるでヤンデレだと思うかもしれない。
 
 だがあの夜フィオを、エヴァを離宮へ完全に閉じ込めた方がより安全ではないかという意見もあった。

 元々

 ラファエル自身もその意見に同調していた。
 これ以上あの煌めくエメラルドグリーンの瞳に自分以外の男を映して欲しくはないとどす黒い嫉妬と言う名の男の欲望である。
 だがそれは意外にもマックスではなくアナベルの一言によって封じられてしまった。

「エヴァ様が診療所で働く事を生き甲斐とされています。もし何もお知らせもせず突然離宮へ押し込めてしまえばまた心の病が再発するかも知れません」

 それを言われてしまえばラファエルそして後の二人もこれ以上強く押す事は出来なかった。
 特にマックスは何時も傍近くでエヴァの生き生きとした表情かおを見ているのだ。
 そうあの明るい笑顔を消す事は誰にも出来ない……とは言えだ。
 このまま何もしなければエヴァとジェフリーの仲を認めた事にもなりかねない。

 エヴァにとって初恋?かもしれないが、ジェフリー自身もイケメン眼鏡男子で将来有望なのに婚約者もいなければ浮いた噂の一つも聞かない。
 仕事大好きな文官として密かに令嬢達より人気はあるのだが、如何せん本人に言わせれば色恋より仕事の方が何百倍も楽しいと豪語していると言う。
 同じ共通点を持つ故にラファエルもつい目を掛けてしまったのかもしれない。

 だが現在は微妙な恋敵ライバル関係。
 幾ら憎い恋敵だからとは言えオーバーワークをさせたりはしない。
 またラファエルもそこまで愚かではない。

 そう公と私は別。

 ただジェフリーを快く思っていないチャーリーは更に一層目を光らせているには間違いない。
 真実裏でシャロンのアーロンと繋がっているのであれば、ラファエルは勿論彼の妃であるエヴァンジェリンにも危険が及ぶのは想像に難くない。

 しかし口惜しい事に何時もその証拠が掴めない。

 先王の一件やラファエルの襲撃にもジェフリーが何か画策しているのは間違いない。
 とは言え彼も由緒正しい侯爵家の当主でありこのルガート王国の重臣。

 ジェフリーを追い詰めるには確実な証拠が何としても必要となる。

 この国を、ラファエルとエヴァを護る為にチャーリーは譬え憎まれ者になろうともだ。
 何かを仕掛けなければ、証拠を掴まなければ近い将来全てを脅かされる何かが起ころうとしているのではないかと危機を抱く。

 手遅れになる前にこちらより仕掛けなければならない!!


 もうシャロンは事実上この大陸には存在しない。
 あるのは嘗てのシャロン再興を願う亡霊のみ。
 日の光に照らされているルガートには悪しき闇の住人である亡霊は必要ない。

 我が命を懸けてでも大切な親友であり主君を護る為ならば……!!
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