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第四章  現在

6  初めて抱く想い Sideエヴァ

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 時間にすればほんの数秒。
 でも何故か彼と視線を逸らす事が出来ない。
 こんな事は初めて……だわ。

 
 理由はわからない。
 わからないのに私は私へ差し伸べられた手を少し躊躇いながらも手を重ねた――――。

「きゃ⁉」

 見る間に私は彼に引き寄せられればあっと言う間に馬上の人となったわ。

 馬に乗るのは初めて。
 想像以上の高さに吃驚してしまう。
 怖くはないけれども不安定さは否めないわね。

「申し訳ありませんが男が起きない間にこの場を駆け去りますので、どうか私にしっかり掴っていて下さい」
「はっ、はいっ」
「それでは動きます」

 彼そう告げたと同時に馬は走り始めた。
 私は揺れる身体と不安定さに何処へ掴まればいいのかわからなくて、結局言われるままにその青年の胸へしがみ付く形となる。

 先程は怖くないと思ったけれど、馬って思った以上に速く走るのね。
 走り始めは本音を言うと恐怖を感じたわ。
 もしかしてここより落ちればどうしようってね。
 
 でも今は……怖くない。
 理由ははっきりとわかない。
 ただこうして青年の腕の中へ身体を預けていると耳から聞こえてくるの。
 気付けば青年の規則正しい心音がとても心地いい。

 今までこの様に異性と触れ合った事何てなかったわ。
 何て言うのかしら。

 彼の心音を聞いているだけで不思議と落ち着くの。
 叶うならばずっとこのままでいたい。
 でも同時に胸の中が何ともむず痒くて、甘酸っぱい様な胸がどきどきしてしまう。
 
 彼と触れ合っている部分が何気に熱を持っている?
 
 変……だわ。
 
 私どうしてしまったのかしら。
 マックスやエルさんとも違う。
 ましてや陛下と何て比べようもなくてよ。 
 彼と陛下を譬えるならば月と鼈……かしら。
 
 ふふ、本当に今日の私は変だわ。

 

「お嬢さん、貴女のお宅までお送りさせて頂く栄誉を私に与えて下さいますか?」

 気づけば見知った通り迄私達は戻っていたの。
 人の往来もあるから自然と馬もゆっくりと歩いている。
 慣れ親しんだ風景を見てほっとした時に彼は背後より優しくそう囁いたの。

「は、あ、あのっ、お、お気持ちは凄く嬉しいのですが……」

 一晩中ダンスが出来るくらい嬉しくなってしまった。
 でも同時に、えぇ物凄く怒った顔をしているアナベルを思い出してしまったわ。

 そう私の

 何があろうとも口にする事は許されない。
 それと同時にふわふわと浮かれていた心が急激に冷え込んでいく。
 浮かれてはしゃいで何をしているのエヴァンジェリン。

 紙切れ上とは言え私は王妃。

 陛下に、いえ国民より完全に忘れられようとも彼の紙切れがある限り私は既婚者。

 だから己を強く律しなければいけない。
 彼の仕草や言葉に耳を、心を決して傾けてはいけない。


「……貴女を困らせようと思ってはいません」

「はい?」

 俯いてしまった私と私の心へ彼は優しく囁くの。
 彼の言葉を聞いてはいけないと思いつつも私の心は素直に彼へと急速に傾いていく。

「些か時期尚早……と言ったところでしょうか?」

「え……と」

 何をどう返答すればわからない。
 今まで誰も、アナベルヤマックスはこういう場合どう人と接すればいいかだ何て教えてはくれなかった。

「私は貴女を一目見た時より柄にもなく浮かれてしまいましたが貴女はそうではなかったよう……ですね。いや失礼、これはなかった事に致しましょう」

 私が困っているのを理解した上で自分に非があると謝罪をするなんて⁉

 違うの。
 貴方は少しも悪くはないわ。
 男より助けて……確かに攻撃をしたのは私よ。
 
 あの時の彼はその様子を見て大層驚いていたもの。

 でもその後は私を連れてあの場所より逃げてくれた。
 何処の誰かもわからない私を連れて助け出してくれた貴方は間違いなくヒーローだわ。 
 
「だ、違、その私は……」

 一体何をどう彼へ伝えればいいのか皆目見当がつかない。
 私はただその、愁いを帯びた彼の双眸にどうしようもなく惹かれている。

 ねぇどうすれば貴方は明るく微笑んで下さるの。
 貴方は一体何処のどなたなのかしら。
 今度また、貴方に逢える機会は訪れるのかしら。

 私はそっと手を伸ばせば彼の滑らかな頬へと手を伸ばし――――。

「フィオっ、遅いですよ!!」

 初めて体験する不思議な時間は唐突に終わりを迎えてしまった。
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