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第三章  過去2年前

18  印

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『あぁこの屑達は抑々君がいけないのだよ。君が素直に僕の元へ来てくれないから、僕はこんな模造品で耐えなければいけなくなったのだからね。しかし今回の模造品は本当に最悪だよ。こうして君を目の前にすると何とも醜悪な粗悪品にしか見えない。こんなモノでは到底君の足元にも及ばない。今夜は夢の中だけれどねエヴァ、そう遠くない未来君は僕の腕の中にいる事になるからね……さぁもう時間だ。今日この瞬間を君が忘れない為に僕はこいつ等の命を対価に君へ特別に僕の印をつけてあげる。エヴァンジェリン君は僕が長い時をめぐって漸く見つけた、僕だけのモノなのだよ。だから絶対に忘れないで……』

 甘く切なげな声でそっとエヴァへ囁いた。
 その声に彼女は出来るだけ身体を小さく縮めるしかなかった。
 今一言でも声を出せばきっとこのアンバランスな力場は、完全に一つの空間として繋がってしまう可能性がある!!
 
 つまりそれは相手の術を受け入れるという事。

 何をどう囁かれ、またどの様に心の中が恐怖で一杯になったとしても決して一言も発してはならない!!

 ただそれだけが今エヴァに出来るもの。
 そして一刻も早く誰かが彼女を強制的に目覚めさせてくれればこの悪夢は終了する。
 その誰かをエヴァは必死に心の中で呼び掛ける。




 アナベルっ、アナベルお願い気がついて……っっ!!


 チュッ!?

 それは突然の事だった。
 小さなリップ音と共にエヴァの項へチクリと小さな痛みが走る。
 それと同時に背筋に掛けて何とも言えない悪寒が走る。

 直接触れる事何て出来ないのではなかいのでは……っ!?

 だが実際自分の項には冷たくも悍ましい感触が残っている。


『不思議そうだね。これは特別。だよ。君が僕のモノである正式な証だ。洗っても消えない。だからこの美しい肌を傷めない事』


 印――――っ!?


 そう告げられたと同時に一条の光が差し込んできた。
 
『――――さまっ、……ヴァ様!!』


 遠くでアナベルの声が聞こえるわ。
 あぁ漸くこの禍々しい所より抜け出せる!!


 エヴァの心が喜びに打ち震えている時だった。

『ふふ今回は帰してあげるよ愛しいエヴァ。だけど次はない。この次は君が僕の腕の中にはいる時だか……』

『エヴァ様、起きて下さいエヴァ様っ……』

 恐ろしい声の者とアナベルの声が交互に聞こえている。
 エヴァはうずくまったまま彼女の周囲の景色がグルグルと回り出す。

 術によって無理に繋げた空間なのだろう。
 背景は酷くあらゆる角度に歪んでおり、見ているだけで船酔いの様な錯覚を覚えてしまう。
 これ以上負荷を掛けたくなかったエヴァはギュッと硬く目を瞑る。


「エヴァ様しっかりなさって下さいませ!!」
「――――ベル? アナ……ベ、ル?」

 身体を強く揺さぶられハッとを開くとそこには良く見知ったアナベルの顔があった。

「姫様何やら禍々しい気が立ち込めてきたのでもしやと思いお部屋にきたのですが……」
「あ、あ、ア、アナベル……こっ、こわっ、怖かったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 エヴァは全身をガタガタと震わせ彼女を心配そうに窺うアナベルの胸へと抱きついた。
 今まで恐怖で声を我慢していた分彼女は暫くの間泣きやむ事はなかった。

 それから2時間後少し落ち着いたエヴァは泣き疲れるとそのまま眠りに就いた。
 最初は眠るのが怖いと泣いていたのだが、アナベルは幾重も結界を張りエヴァに知られない様に眠りの魔法を掛けて眠らせたのである。

 疲れ果て顔を横にして眠っているエヴァの首筋へ視線を落としたアナベルは、一瞬悲鳴をあげかけたが何とか声を出さずに自分の心の中に留めた。

 アナベルが見つけたもの。
 それはエヴァの白磁の様な白い項に小さく赤い痣が一つ。
 その形は紛れもなくあの血塗れの女神へ絡みつくバジリスク。
 間違いなくシャロンの紋章だったのである。
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