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第三章 過去2年前
11 親友二人の切なる願い?
しおりを挟む「狙いは王妃様でしたか。いやいやすっかり我々も失念していましたね。敵の狙いがまさかこちらの手の内にいようだなんて……ですが今更ながらに彼の者の執念深さには驚きが隠せません」
十六年もの間未だに一人の少女を求め続ける根性、然も自国が滅亡し様ようと関係なく彼の姫へ執着する気持ちが私には到底理解が出来ない……と日付が変わった頃、そっとマックスの診療所へ訪れたチャーリーはブルっと肩を震わせる。
「そう……だな。俺も姫の容姿を完全に失念していた。今朝姫を見て驚いたのもだがその奴らの狙っている者がちょこまかと周りで動いて……」
「「――――で如何でしたか久しぶりのご対面は?」」
マックスとチャーリーはにまにまと顔を緩ませながら書簡を読んでいたラファエルへ突っ込んできた。
「はあ?お前らいい加減にしろ!!一体何を考えているのだ!!」
「何をって我がルガートの明るい未来……しかないでしょう」
「そうです。現在我がルガートの王族はラファエル、貴方お一人だけ。本来ならば正妃だけでなく側妃や愛妾をお好きなだけ召し抱えられればです。今頃は何人もの子宝に恵まれ王家は安泰だった筈」
多少苛立つラファエルを余所に二人は意気投合し好き勝手な事を言い始める。
冗談ではなく本当にいい機会なのだ。
彼の姫は名実ともにラファエルの妃になるのに十分成長した。
もうあのビスクドールの様な幼い少女ではない。
ラファエル自身過去に囚われてたまま女嫌いを貫く訳にはいかない。
二人の臣下は心の中で切に願う。
過去と決別しエヴァと共に明るい未来を歩いて欲しいと。
エヴァとラファエルは14歳もの年の差はある。
だがラファエルは年相応よりも若々しくまた精悍さも合わさり、同性から見ても十分魅力的な色香を纏った男性である。
それ故にラファエルが女性を嫌っていると知りつつも数多の女性より熱烈なアプローチは今も現在進行形で続いている。
「しかしだな俺もマックスに言われるまで姫の正体を気付かなかったが、姫もまた俺には気づいておらぬ。それに何度も言うが全てが終われば帰国する予定の名ばかりの妃でしかない」
「そんな事は今更貴方より言われるまでもありませんよ。確かに最初の経緯はどうであれあの方は貴方の最初にして唯一の王妃陛下なのです」
「だが名ばかりだからこそ俺は姫を王妃として一切遇してはいなかった。そう幾ら姫を護る名目があったにせよだ。あの扱いは王女として、また王妃としても頂けないだろう」
ラファエルは今朝よりずっと自身の行った方法を反省していた。
幾らその後戦や政務に明け暮れ、加えて女性嫌いと相まってエヴァの存在を蔑ろどころかずっと忘れていたのである。
ただ言い訳をするならば完全には忘れてはいない。
何故なら定期的にアナベルよりエヴァに関する報告を受けていたのは誰であろうラファエル自身なのだ。
しかし健やかに暮らしていると言う報告に胡坐を掻いていたのは否めない。
なのに八年の歳月を経て行き成り自分の前に今を盛りにいや、これから先もずっと咲き誇るだろう可憐で清楚な百合の花の様に柔らかな、それでいて気品漂うその笑顔と姿が現れたのだ。
冴えない黒縁眼鏡で素顔を隠していようともエヴァの持つ本来の美しさは到底隠せないだろうとラファエルは思った。
然もその八年振りの再会ははっきり言って最悪であったとしか言いようがない。
一昨日ラファエルは襲撃を受け事によりいつも以上に用心をしていたのだ。
それに診療所にはマックスしかいないと勝手に思い込んでもいた。
だからマックス以外の気配を持つ者が部屋の扉がゆっくりと開いた瞬間、ラファエルは間違いなく兇者と思えばだ。
エヴァの姿も確認しないまま問答無用で羽交い絞めにしてしまったのである。
その後の経緯は割愛しよう。
マックスよりエヴァの正体を聞いた際はラファエル自身自分は何と言う愚か者だと正直思った。
今日はずっとそれからのエヴァの働く姿を注視……いや凝視していたと言っても過言ではない。
幸せそうに働く彼女を見ている間にラファエルは改めて決意を新たにした。
フィオをいや、エヴァンジェリンをアーロンには絶対渡すまいと。
エヴァが自分の妃だからとは言わない。
ただその姿を見つめていれば漠然とラファエルの心の中で、彼女を何があっても護り抜かなければいけないと純粋に思ったのだ。
しかしこの件はまだ自分の前でにやけている二人の親友という臣下には、暫くの間内緒にしようと心の中で決めたラファエルであった。
「兎に角姫の安全を最優先にするのだ。あぁアーロンの件もアナベルへ伝えておけ。きっと離宮内では彼女が姫を護ってくれるだろうからな。それから王都内にも姫の容姿に見合う同じ条件の娘がいるか速やかに把握すると同時にその対象者となる者達を警護するのだ。それからアーロンの潜伏先を可能な限り探ってくれ。これ以上アーロンの好きにはさせない。必要とあらば色々好きに動かしても構わないチャーリー」
「御意。そうですね出来ればルートレッジ侯爵へ探りを入れたいのですがね」
チャーリーは間髪入れず以前より懸念していた事案をラファエルへ確認する。
彼自身昨日までならばきっと二の足を踏んでいたのかもしれない。
ルートリッジ侯爵は確かに重臣として優秀な男ではある。
だがエヴァンジェリンへ危機を孕む可能性があるのならば……と考えに至ったのであろう。
暫し悩んだ末に『好きにしろ』とラファエルは許可を出した。
それから少し彼らは言葉を交わしチャーリーは夜の闇へと紛れ診療所を後にした。
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