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第三章 過去2年前
9 夫婦の会話?
しおりを挟むコンコンコンコン
「あぁはい、いやどうぞ」
カチャ
「ごめんなさい休まれていましたか?」
「いや、起きていたから大丈夫だ」
「良かったです。えーっと着替えはお済みですか?」
「あぁ、ありがと……ってっ!?」
「ん?どうかしました?あ、これはお水ですよ。それからこれは痛み止めと炎症を抑える薬湯です。苦いからと言って残してはダメですよ。ちゃんと残さず飲んで下さいね」
そう言ってフィオは寝台横にある小さなテーブルへトレイを置くと、床に脱ぎ散らかしてある彼の寝衣と下着を抱えそのまま部屋を後にしようとした。
フィオの一連の動作を何気に見つめていたエルは慌てて彼女へ声を掛ける。
「きっ、君はそれをどうするのだ!?」
至極真面目な顔をして何を訊くのかと思えばそんな事……と言わんばかりの顔をでフィオは完結明瞭に説明した。
「どう……って普通にお洗濯をします。今日は良く晴れていますからまさに洗濯日和ですね」
「それはきっ、君が洗う……とか、いやいやそれはあり得ないだろう。そ、そうだ下女が洗う……」
「はい?先程より一体何を仰っているのですかエルさん?抑々ここは私とマックス以外の従業員はいませんよ。そして家事一切は私が行っておりますが何か?」
家事を行う事に何か問題でもあるのか……と煌めくエメラルドグリーンの瞳を三角にしてフィオはエルを軽く睨んでいる。
彼女にしてみれば家事は自分に与えられた仕事の一つ。
またこのルガートに置いて漸く見つけたフィオとして新たに生きていく大切な場所なのだ。
それを目の前の男性は一体何を言いたいのだろうかと考える。
一方エルにしてみればだ。
仮にも一国の王妃が診療所の助手だけでなく、この家の家事一切をその細腕でこなしていいものかと思ったのである。
決してフィオを卑下する心算はない。
女嫌いと言われても仕事に関してだけは性別等関係ないと思っていたのだが、どうやらそれは少しばかり違うかもしれないと心の隅っこで抱いてしまった。
「あ、いや君の仕事がどうとかではないのだ。ただあれもこれもと君が大変だと思って……ね」
いい年齢をした大人の男が何故こうも情けない言い訳をしているのだとエルは自身が情けなく思う。
だがそんな彼を見てフィオは零れんばかりの優しい笑顔で話す。
「大変ではないですよ。本当に大変なのはここを少しでも放置した時が本当に大変ではなく悲惨なのです」
「何故?」
「それは……マックスは確かに腕のいい意志ですが、残念な事に彼には片づける才能が皆無なのです。少し前ですがその時の後始末は本当に大変でしたもの。それに比べれば毎日のお掃除何て楽なものですよ」
「そう……か」
「はい、だから何も気にしないで下さいね。あ、それからちゃんと薬湯は飲んで下さいね。では失礼します」
そうしてフィオは洗濯物を抱え部屋を後にした。
窓からは心地の良い風と診療室より聞こえる患者さんらしき者達とフィオの笑い声が時々エルの耳にも届いてくる。
ただし患者に男性が多いのは気の所為なのか?……とエルは何気に思ってしまった。
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