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第三章 過去2年前
7 繋がる
しおりを挟む「マックスか」
「お加減は如何ですか陛――――」
ラファエルは手を上げマックスの言葉を制した。
「ここでその呼び方はよせ。誰に……先程の娘は確かお前の助手だと言っていたな。あの者に俺の正体を知られるのは色々と不味いだろう。何処にシャロンの残党がいるやもしれぬからな。お前の事だからあの娘の身元は全て把握しているとは思うが用心に越した事はない」
ラファエルは寝台の上で上体を起こし送られてきた書簡へ目を通していた。
だがマックスはラファエルの様子に戸惑いを隠しきれない。
ラファエルが身体へ負担を掛けない様に仕事をするのは構わないとしてだ。
あぁ何か可笑しくないだろうか。
いや可笑しい!!
絶対可笑しいに決まっているだろうが!!
マックスは不躾だと咎められるくらいにラファエルを凝視する。
可笑しい。
可笑し過ぎるよ二人共!!
抑々フィオの態度といい、今のラファエルとの会話と態度は普通に可笑しいだろう。
心の中でマックスは盛大に突っ込みを入れていた。
しかし同時にある一つの可能性にも気づいてしまったのである。
そう賭けてもいい。
また100%言い切れる。
この夫婦はお互いの正体に全く気付いていない!!
フィオはまだ幼かった故に理解は出来る。
それにあの頃はまだ心が病んでいた分仕方はないだろう。
だが夫であるラファエルまでもがフィオに気付かないとは思いもしなかった。
幾ら女性が嫌いだとは言え一応、いや正式な自分の妃でしょう。
無関心もここまでくれば一種の才能かもしれない。
とは言えこのまま知らせない訳もいけない。
いやいや去年フィオが働き始めた頃にこの診療所にいると報告した……よな。
それすらも政務に忙殺の果てに忘れたのか。
元々興味がない故に記憶より消去したのかの何れかだろう。
八年ぶりの夫婦の再会とは言え、ラファエルにとってやはりフィオは形だけの妻なのでしょうかね?
マックスは心の中で独り言ちる。
さてどの様にフィオの事を主であり親友でもある男へ伝えればいいのかを考えあぐねていればだ。
マックスの想いが伝わったのか、ラファエルの方より彼女に関する話題を振られたのである。
ただし余り有り難くない内容だったのだが……。
「マックス、彼女……フィオか。その彼女の事なのだがな」
ラファエルは読んでいたであろう書簡より顔を上げる。
「あの娘は赤毛交じりの金色の髪と緑色の瞳を持っているな?」
「それがどうしたのですか?フィオの瞳は単なる緑ではなく美しいエメラルドグリーンですよラファエル」
「あぁ今はそんな色の説明はどうでもいい。問題はその特徴だ」
自分の妃をどうでもいいって事はないだろうとマックスは心の中で突っ込んでみるものの、だが何やら妙に苛立っているラファエルへ違和感を覚えた。
「その特徴に何か問題でもあるのですか?」
「あぁ大アリだな。俺が今回視察に出た目的は知っているよな?」
「え、えぇ確か人攫いの一件ではありませ――――って、いやまさかっ!?」
マックスは何とも言えない厭な感じが拭いきれない。
出来ればこの話の続きを聞きたくはないと言うのが正直な思い。
だがそうも言ってはいられない。
フィオの、エヴァンジェリンに関わる事ならばなおの事話を聞かねばいけないのだ。
「デスタ近郊で把握しているだけで現在五人の娘が攫われている。目的はまだわからないがその何れの娘達にも二つの内どちらかの特徴があるのだ」
「それが#赤毛交じりの金色__ストロベリーブロンド__の髪と緑の瞳なのですか?」
「あぁそうだ。あの娘の様に両方を併せ持つ条件の娘ではなく、今の所どちらか一方なのだがな」
「そしてその視察の帰りにラファエルは襲撃にあったのですね、シャロンの残党に……」
「そうだ」
あぁ……やはりそうか。
敵の、シャロンの王太子は今もまだエヴァンジェリン様を狙っているのですか。
マックスにはラファエルが気付いていないモノに気づいてしまった。
何故なら敵の探し物は診療所にあるからだ!!
「ん、どうしたマックス。顔色が悪いぞ?」
そりゃあ顔色の一つや二つ悪くなりますよ……とマックスは心の中でぼやくが今はそれも言ってられない。
マックスは静かに深呼吸をしラファエルへ敵の目的を告げる。
勿論フィオの事も……。
「ラファエル覚えておいでですか王妃様の事を……」
「行き成り何を?」
ラファエルは怪訝な面持ちでマックスを軽く睨む。
今はお飾りの王妃の事等言っている場合ではないと言いたげだが、マックスはそのまま話を続けた。
「王妃様の容姿を覚えておいでですか?」
「はぁまだ、子供だったな」
ラファエルもしつこいとは思いつつもマックスが意味もなく言葉遊びをする男でもないのは十分わかっていた故にそのまま訊かれる事に答えていた。
「えぇ当時8歳の少女でしたがそれはもう見事な――――赤毛交じりの金色の髪ですた。おまけに王妃陛下の金の色は珍しい白金でしたしね。また瞳の色はライアーン王家所縁のエメラルドグリーンでしたよ」
「――――マックスっ!?」
「ねぇラファエル僕は去年報告しましたよね。僕の診療所に王妃様が働いておられる事を……」
「ではっ!?」
「はい先程のフィオは僕の優秀な助手である前にラファエルの唯一の妃エヴァンジェリン様ですよ」
「――――っ!?」
「まさかお忘れになられてはいませんよね。何故王妃様がこのルガートへお輿入れになったのかを……。さすれば今回の件も自ずと繋がるものと思われます」
「アーロンかっ!!アーロンがまだ姫に恋情を抱いていると?」
「それしか……恋情かはたまた執着と申しますかこの際どちらでも宜しいでしょう。彼の者は確実に王妃様を狙っていると思われます」
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