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第三章 過去2年前
4 死闘
しおりを挟む程なくして東の方角より夕闇に紛れて奴らが追いついてきた。
ラファエルとチャーリーは剣を鞘より抜きとり臨戦態勢へと入る。
「エルは王様なので二人くらいでいいですよ。後の残りは私が引き受けますので……」
「いや反対だろう?それに俺の方が剣の腕は上だからな」
「またそんな無茶ばかり仰る。少しは周りにいる我々の事も考えて下さいよ」
「そうか。俺はお前達も楽しんでいると思っていたのだがな?」
そう言ってラファエルは喉をくつくつと鳴らし三日月の様な笑みを湛えた。
その様子にチャーリーはやれやれと言った具合で両肩を軽く竦める。
「来るぞ!!」
「了解です」
カキィィィィン!!
ガン!!
「うっ!?」
一見にして旅人風……だが、カーキーグリーン色の外套を目深に被りその上この夕闇である。
外灯何てない場所故に当然視界はウロである。
しかしラファエルより放たれし光魔法によって周囲は昼間の様に明るい。
兇者五人の顔の細部まではわからないが、いやわかった所で既に身元は抹消されている。
闇の世界で生きる者達とは明るい表の世界で自らを証明するもの等何一つ存在しない。
今彼らの事で判明しているとすればだ。
五人中三人は男で残る二人が女。
とは言え性別がわかった所でそれぞれ五人の力量に然程違いはないらしい。
おまけに彼らの身体能力は思っていた以上に高く上で戦うのを不利だと判断したラファエル達は、繰り出される攻撃を交わしつつ軽やかに馬より降りて地上での攻撃へと転じる。
「雷獣トニテュルスよ我が剣に纏え」
チャーリーは一瞬の隙を作り自身が握る剣へ魔唱を行う。
彼がその言葉を唱え終わると握っていた剣の刀身は雷そのモノの様に眩しく神々しいまでに光を放っていた。
兇者達は一瞬その閃光に怯むがチャーリーは迷わず雷光を纏う剣を兇者へ向かって振り下ろす。
ババババババババババババババババババババババババっっ!!
叩きつける様な轟音と共に軽く10mは地面がぱっくりと裂けていた。
兇者とチャーリーの間合いは2~3mくらい離れていたとはいえ、その衝撃に一人は気を失……いや感電している。
「もう少し力を押さえろ。少し離れているとはいえ王都は近い」
「それは言い過ぎでしょう。これでも十分加減はしたのですから……」
咎めるラファエルの言葉にチャーリーは冷静に手加減したと言い切る。
そしてラファエルもまた自らの剣へ魔唱を唱える。
「凍れる女神スティーリアよ我が剣にその力を纏え」
ラファエルも相手の攻撃を交わしつつ、青白くも鈍い光を放つ剣を兇者へ向けて振り下ろす。
するとその剣からは凄まじいスピードで直径約20㎝の、長さは約1m弱の氷柱が彼の周囲を囲むように出現すればだ。
四人の兇者達へ襲い掛る様に降り注ぐ。
「ぐふぁっ!?」
「がひっ!!」
「ぐあぁぁっ!?」
降り注がれた氷柱は容赦なく兇者達の身体を次々と貫いていく。
そうして瞬く間に残っていた兇者全てが地面に転がっている。
おまけに周囲は氷柱で貫かれた兇者達の血の海と化していた。
「あーあ誰かさん言ってませんでした。力を押さえろって……。この皆殺し状態ではどちらにその言葉が相応しかったのでしょうね?」
「――――無論私だろう。これでもほんの少ししか力を出してはいない。それに皆殺しではないからな」
あれをみろ……とややバツが悪そうにラファエルはチャーリーへと声を掛ける。
「あぁ確かに……」
確かに皆殺しではないなという証拠に一人だけ瀕死状態だが兇者は生きていた。
だが流石に無傷ではない。
腹と足に氷柱を貫通させてはいたのだが……。
ラファエルはゆっくりと瀕死の兇者の元へと近づいた。
息の根を止める為だったのか、或いは無駄だと理解しながらも今回の一件で得られただろう解決への糸口になるのか……。
「エル、陛下、後始末は私がしますよ。貴方は何時も必要以上現場に首を突っ込み過ぎです。少しは統治者としての自覚が――――っ!?」
兇者の元へ近づくラファエルをやんわりと制止しようとするチャーリーの声が早かったのか?
「おい、お前は――――あ、マ、リ……っ!?」
それともラファエルの身体が一瞬自身の放ったであろう氷柱の様に硬く固まってしまったのはわからない。
ずぶり……。
「エルっっ!!」
チャーリーは何時ものポーカーフェイスを投げ捨てればだ。
ラファエルの名を叫びながら彼の元へ駆け寄っていく。
ラファエルは身体を揺らしながらも目の前にいる女の兇者の胸に剣を突き立てた。
紫の瞳をした兇者は苦しげな表情をしているも、一瞬弧を描いた艶やかな笑みを浮かべるとそのまま息絶えていく。
「まさ……か、また、同じ過ちを、犯すとは……な」
そう呟きながらも自嘲めいた笑みを浮かべ、ラファエルはゆっくりと体勢を崩していく。
目の前で息絶えた兇者の最後の足掻きが、胸に潜ませていただろう暗器を用いてラファエルの肩に突き立てたのだ。
またそれは思ったより深く刺さっているのかそれとも暗器に毒を染み込ませていたのだろうか。
ラファエルは顔を歪ませ粒上の脂汗を大量に滲ませながらも激痛に耐えていた。
「エル、陛下っ、大丈夫ですか!!」
「あぁ、今の……ところはな」
肩の傷からの出血が酷い。
だが今直ぐ暗器を抜く訳にはいかない。
医師の下で抜かなければ、万が一心臓に近い動脈を傷つけでもしたらそれこそラファエルは一貫の終わりだ。
しかしここから王宮までは早くとも一時間は掛るだろう。
その間ラファエルの身体が耐えられるのかが問題である。
「っう、落ち着け。ここからならマックスが……今、ならあの場所にいる可能性がある。そこまで連れて行ってくれ。出来るだけ穏便に……な。くっ、可能な、限り俺が負傷した……事をっ、シャロン側は元より……うっ!?」
「余りお話しにならないで下さい陛下。皆まで申さずとも十分心掛けていますよ。兎に角マックスの元へ急ぎましょう」
チャーリーは囁く様にラファエルへ声を掛けてから彼を馬に乗せ自らもその後ろに跨る。
そうしてもう一頭の馬の手綱を握り一路王都へと、マックスがいるだろう診療所へ逸る気持ちを抑えつつ彼は出来るだけ平静を保ちながら馬二頭を含め転移した。
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