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第三章 過去2年前
3 駆ける
しおりを挟む「何時もながら見事なまでに痕跡を消していますね」
「あぁ憎らしい程にな。これだけ完璧に仕事をするのならば国政も真面に取り組んでおれば良かったものを……。さすれば百年前シャロンは分裂する事もなく今も国として存続していただろうな」
「そうですね。これだけの事を教え込むにも骨が折れますしね」
半分以上は嫌味なのだがな……と小さく呟いてからラファエルは、グラスに残っている琥珀色の液体を喉の奥へと一気に流し込む。
昨日より一日半を掛け周囲の調査を行ったラファエル達の予想通り事件の痕跡は何も見つかっていない。
だが実際にルガート国内だけで既に五人の娘が攫われている。
また周辺国も同様の被害が出ている可能性はないとは言い切れない。
攫われた娘達に共通する特徴は赤毛交じりの金色の髪と緑色の瞳の二点。
この二つの共通点は何を意味するものの意図が偶然なのかはたまた故意なのか。
そう彼らは忘れていたのだ。
赤毛交じりの金色の髪と緑色の瞳の両方を併せ持つ乙女の存在を……。
攫われていた娘たちそれぞれがそのどちらかを有している者ばかりだった為に、ラファエルはそれを併せ持つ者の存在をしっかりと忘れていたのである。
今回だけでもチャーリーではなくマックスが同行していたのならば、きっと直ぐにエヴァンジェリンの存在を察したであろう。
マックスはエヴァの治療兼護衛関係の責任者として、またチャーリーはエヴァとは関係のない政の方を携わっていた。
いやそれだけではない。
ラファエルだけでなくチャーリーも八年前のあの一度しかエヴァとは対面してはいない。
それ故直ぐ彼女の存在を思い出せなくても仕方がなかったのかもしれない。
おまけに相手はあの頃はまだ8歳の少女だったのだから……。
とは言え何時までも国王が王宮を留守にしている訳にもいかない。
先に捜査をさせていた数名の間者達へシャロン領と周辺国に同様の事件が起こっていないかを調査する旨を指示したラファエルは王宮へと帰路に就く。
馬で飛ばせば約三時間の行程、遅くとも夜には王都へ到着する。
余り遅くなるとそれこそ暗殺集団が何処から襲ってくるかもわからない。
用心に越した事はない。
だが少し帰路に就くのは遅かったかもしれない。
そう不穏な気配を察したのはデスタの街を出て暫くしての事だった。
「はっ、ついてきているな!!」
「そうですね五、六名といった具合でしょうかね」
「たった二人の為にご丁寧に六人も送り込むとは恐れ入ったな」
「まぁそれだけ敵に恐れられている……と言ったところではないしょうか?」
「――――ふ、物は言い様だな」
ラファエルは軽く舌打ちし背後を一瞥した。
「ま、今は余り笑っている場合でもないでしょう」
「そうだな。兎に角王都へ入る手前まで引き摺り回してから始末をするしかないな!!」
「そう……ですね。その方が周囲への被害も少ないでしょうから」
後方より聞こえてくる馬の蹄や走る音を冷静に捉えていたラファエル達は、それらが自分達の愛馬とする軍馬とは程遠い種類の馬だと理解と共に少し安堵した。
耐久性や速度を誇る軍馬。
相手の馬がそれでないのならば、可能な限り引き摺り回し馬を疲れさせる事に徹したのである。
相手に追いつかれる事もなくラファエル達の戦い易い場所まで引き摺り回し、そこで始末をすればいいだけの事。
二人は手綱を握り直し全速力で駆け抜けた事約2時間半後、場所は小高い丘である。
そしてその丘を越えれば王都があるのだ。
本来ならば王の取るべき行動ではない。
まだ相手に追いつかれていないのであればそのまま丘を越え城門を潜り、騎士団へ直ぐ指示し兇者を向かい討てばいいだけの事。
何も王自身が自ら危険に身を晒すべきでないという事はラファエルもチャーリーも十分に理解していたのだが、それではきっと王都にいる民達が何かしら巻き沿いを喰う可能性が否めない。
今彼らがいる所は丁度村や街も何もない開けた場所。
また騎士を呼びに行くには少々時間はなさ過ぎた。
迎え撃つ場所を確保し呼吸を整えるのが精々。
それでも相手にはその一時さえも与えず迎え撃てるだけこちらには分があるのだから……。
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