56 / 122
第三章 過去2年前
2 視察とある事件
しおりを挟むラファエルは政務の合間に少しでも時間があると単身で視察へ赴いていた。
これは彼が王太子時代より変わらぬ行動でもある。
幾度も周囲の臣下達より危険だから供を増やすか、視察を見合わせる様忠告をされるのだがこれだけは頑として聞き入れない。
理由は単純である。
大勢で仰々しく視察を行っても何も意味をなさないからだ。
用意された舞台を観賞する為ではない。
ラファエルが単身で赴くのは国民のありのままの生活を実際に見て、触れる事が出来るからこそ視察をする意味がある。
戦が長期に渡り続いたからこそ国民がどの様に疲弊し、またどの様な政策を練れば国民の生活が潤っていくのかを、実際に目で見るものと紙切れだけの報告書では微妙にズレている時があるのだ。
ラファエルの国王像とは王たる者は常に国民の声を聞き、貴族だけではなく平民の暮らしと安全を護り得るもの。
確かに臣下の意見も貴重ではある。
それと同時にラファエル自身自分が完璧な為政者と思ってはいない。
人間とは過ちを犯す生き物だからと言って彼自身がそれに胡坐を掻く事は許されない。
それに全く臣下達の話を聞かない訳でもない。
単身とは言え全くの一人ではない。
ラファエルの視察へ常に同行をするのはマックス同様彼の数少ない親友であり臣下の一人。
ブレーメンタール公爵 リチャード・ロドリック・アントワーヌ。
金色の髪に青い瞳を持つ知的なイケメン。
ラファエルの亡くなった母の姉がリチャードの母と言う従兄弟関係に当たる男だ。
今回二人が訪れた街は王都よりそう遠くない場所にあるデスタという街。
デスタの街を超えればシャロンと国境を隣接しているルートレッジ侯爵領がある。
現当主であるルートレッジ侯爵はまだ若干24歳という若さだが、既に重臣の一人としてその才能を遺憾なく発揮している。
だがこのルートレッジ侯爵家は昔より兎角噂の絶えない家でもあった。
今回の視察もここ最近デスタの街の周辺で勃発している人攫いの一件だ。
この事件の裏にシャロンと何か繋がりはないかという目的でやってきたのである。
ルートリッジ侯爵はラファエルの信任も厚い……と言うかだ。
今回はその彼を信じるに足る人物なのだと確証を得たいが為にここへやってきたと言ってもいい。
皆ラファエルを冷酷非道で非情な人間と言っているが、何も彼は好き好んで人を切り捨てている訳でもなければ裁いているのでもない。
裁かれるにはそれなりに理由が存在するのである。
話は戻りこの一件で今現在五人の娘が姿を消している。
然もその特徴として赤毛交じりの金色の髪若しくは緑色の瞳持つ若い娘らしい。
ラファエルがこのデスタへ到着するまでに潜ませていた間者より取り敢えず現状の報告を聞く。
何れ娘達揃いも揃って皆攫われた痕跡は全く残されてはいない。
そして今何処に連れ込まれたのかもだ。
この手際の良さを鑑みて出た結論は……。
「シャロン……彼の者達が関係していると見て問題ないでしょうエル?」
「あぁそうだな。奴らは証拠を一切残さない様に仕込まれているからな」
あの時もそうだったからな……ラファエルは小さく呟く。
今日はそのままデスタの街にある宿屋で宿泊する予定だったのだが、ラファエルの『気が変わった』と言う一言で消えた娘達の捜索へと加わった。
ブレーメンタール公爵リチャードことチャーリーは『相手はあのシャロンですから中々尻尾は出してくれませんよ』と軽く両肩を竦め、そのままラファエルの後へ続く。
チャーリーにしてみれば一番捜索したい場所はデスタの先にあるルートレッジ侯爵領だ。
だがこの国の法律によって伯爵以上の領地は例え国王と言えど、確たる証拠がなければおいそれと闇雲に捜索は出来ない。
ルガードとシャロンが決定的に違うのはこの国が独裁国家ではないという事。
如何にラファエルの性格が冷酷非情で非道と言われようが、彼自身独裁政治を行ってはいない。
最終的判断は王であるラファエルだが、それまでの過程に置いて重臣達と何度も協議を行い彼は裁可を下す。
その為にも視察はラファエルが政治を行う上で重要なものとなってくる。
ラファエルと彼に仕える者達の信頼は厚い。
最近加わった若手で然も有能な臣下を正しく見定める為に彼は今ここにいる。
そんなラファエルの考えを理解しているからこそチャーリーは何時もの様に同行するのだ。
危険だとわかっていても……。
0
お気に入りに追加
244
あなたにおすすめの小説
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
エルネスティーネ ~時空を超える乙女
Hinaki
ファンタジー
16歳のエルネスティーネは婚約者の屋敷の前にいた。
いや、それ以前の記憶が酷く曖昧で、覚えているのは扉の前。
その日彼女は婚約者からの初めての呼び出しにより訪ねれば、婚約者の私室の奥の部屋より漏れ聞こえる不審な音と声。
無垢なエルネスティーネは婚約者の浮気を初めて知ってしまう。
浮気相手との行為を見てショックを受けるエルネスティーネ。
一晩考え抜いた出した彼女の答えは愛する者の前で死を選ぶ事。
花嫁衣装に身を包み、最高の笑顔を彼に贈ったと同時にバルコニーより身を投げた。
死んだ――――と思ったのだが目覚めて見れば身体は7歳のエルネスティーネのものだった。
アレは夢、それとも現実?
夢にしては余りにも生々しく、現実にしては何処かふわふわとした感じのする体験。
混乱したままのエルネスティーネに考える時間は与えて貰えないままに7歳の時間は動き出した。
これは時間の巻き戻り、それとも別の何かなのだろうか。
エルネスティーネは動く。
とりあえずは悲しい恋を回避する為に。
また新しい自分を見つける為に……。
『さようなら、どうぞお幸せに……』の改稿版です。
出来る限り分かり易くエルの世界を知って頂きたい為に執筆しました。
最終話は『さようなら……』と同じ時期に更新したいと思います。
そして設定はやはりゆるふわです。
どうぞ宜しくお願いします。
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる