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第三章  過去2年前

2  視察とある事件

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 ラファエルは政務の合間に少しでも時間があると単身で視察へ赴いていた。
 これは彼が王太子時代より変わらぬ行動でもある。
 幾度も周囲の臣下達より危険だから供を増やすか、視察を見合わせる様忠告をされるのだがこれだけは頑として聞き入れない。

 理由は単純である。
 大勢で仰々しく視察を行っても何も意味をなさないからだ。

 用意された舞台を観賞する為ではない。
 ラファエルが単身で赴くのは国民のありのままの生活を実際に見て、触れる事が出来るからこそをする意味がある。
 戦が長期に渡り続いたからこそ国民がどの様に疲弊し、またどの様な政策を練れば国民の生活が潤っていくのかを、実際に目で見るものと紙切れだけの報告書では微妙にズレている時があるのだ。

 ラファエルの国王像とは王たる者は常に国民の声を聞き、貴族だけではなく平民の暮らしと安全を護り得るもの。

 確かに臣下の意見も貴重ではある。
 それと同時にラファエル自身自分が完璧な為政者と思ってはいない。

 人間とは過ちを犯す生き物だからと言って彼自身がそれに胡坐を掻く事は許されない。

 それに全く臣下達の話を聞かない訳でもない。
 単身とは言え全くの一人ではない。
 ラファエルの視察へ常に同行をするのはマックス同様彼の数少ない親友であり臣下の一人。

 ブレーメンタール公爵 リチャード・ロドリック・アントワーヌ。

 金色の髪に青い瞳を持つ知的なイケメン。
 ラファエルの亡くなった母の姉がリチャードの母と言う従兄弟関係に当たる男だ。
 今回二人が訪れた街は王都よりそう遠くない場所にあるデスタという街。
 デスタの街を超えればシャロンと国境を隣接しているルートレッジ侯爵領がある。


 現当主であるルートレッジ侯爵はまだ若干24歳という若さだが、既に重臣の一人としてその才能を遺憾なく発揮している。
 だがこのルートレッジ侯爵家は昔より兎角噂の絶えない家でもあった。
 今回の視察もここ最近デスタの街の周辺で勃発している人攫いの一件だ。
 この事件の裏にシャロンと何か繋がりはないかという目的でやってきたのである。

 ルートリッジ侯爵はラファエルの信任も厚い……と言うかだ。
 今回はその彼を信じるに足る人物なのだと確証を得たいが為にここへやってきたと言ってもいい。
 皆ラファエルを冷酷非道で非情な人間と言っているが、何も彼は好き好んで人を切り捨てている訳でもなければ裁いているのでもない。
 裁かれるにはそれなりに理由が存在するのである。


 
 話は戻りこの一件で今現在五人の娘が姿を消している。
 然もその特徴として赤毛交じりの金色ストロベリーブロンドの髪若しくは緑色の瞳持つ若い娘らしい。
 ラファエルがこのデスタへ到着するまでに潜ませていた間者より取り敢えず現状の報告を聞く。

 何れ娘達揃いも揃って皆攫われた痕跡は全く残されてはいない。
 そして今何処に連れ込まれたのかもだ。
 この手際の良さを鑑みて出た結論は……。


「シャロン……彼の者達が関係していると見て問題ないでしょうエル?」
「あぁそうだな。奴らは証拠を一切残さない様に仕込まれているからな」

 あの時もそうだったからな……ラファエルは小さく呟く。
 今日はそのままデスタの街にある宿屋で宿泊する予定だったのだが、ラファエルの『気が変わった』と言う一言で消えた娘達の捜索へと加わった。

 ブレーメンタール公爵リチャードことチャーリーは『相手はあのシャロンですから中々尻尾は出してくれませんよ』と軽く両肩を竦め、そのままラファエルの後へ続く。
 チャーリーにしてみれば一番捜索したい場所はデスタの先にあるルートレッジ侯爵領だ。
 だがこの国の法律によって伯爵以上の領地は例え国王と言えど、確たる証拠がなければおいそれと闇雲に捜索は出来ない。

 ルガードとシャロンが決定的に違うのはこの国が独裁国家ではないという事。

 如何にラファエルの性格が冷酷非情で非道と言われようが、彼自身独裁政治を行ってはいない。
 最終的判断は王であるラファエルだが、それまでの過程に置いて重臣達と何度も協議を行い彼は裁可を下す。
 その為にも視察はラファエルが政治を行う上で重要なものとなってくる。

 ラファエルと彼に仕える者達の信頼は厚い。
 最近加わった若手で然も有能な臣下を正しく見定める為に彼は今ここにいる。
 そんなラファエルの考えを理解しているからこそチャーリーは何時もの様に同行するのだ。
 危険だとわかっていても……。
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