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第三章 過去2年前
1 懲りない男と宣誓文 ※加筆しました。
しおりを挟む「お早うフィオちゃん、今日も笑顔が眩しいぜ」
「お早う御座いますジェンセンさん。今日はどうされましたか?」
「あぁ胸が苦しいんだ。食事も喉に引っ掛か……」
「はぁまたですか。あなたも諦めないの悪い人ですね」
盛大に溜息を吐くフィオに対しジェンセンはと言えば特に堪えた様子もなく、甘く蕩けきった笑みを浮かべている。
「う~んそのクールな所もいいな。俺は本当にフィオちゃんにゾッコンなんだよ。第一騎士が一度宣言した事をそう簡単に破る訳にはいかない」
「いやいやそこは私の場合だけ特例と言う事で何時でも止めて頂いてもこちらとしては一向に構わないのですが……」
「こらこら。相変わらずの塩対応っぷりなんだから……とは言ってもジェンセンさん、ここはそういう類のお店でなくれっきとした診療所なんですよ。然もフィオは僕の大事な助手ですからね。くれぐれも約束通り変な真似はしないで下さいよ」
「わかってますよ俺と先生との男の約束だからな。勿論愛するフィオちゃんの為って言うのが大前提だからな。勿論騎士として恥ずべき行いはしませんよ」
今から半年程前になる。
あの突撃公開処刑的なプロポーズをしたジェンセンははっきり言って諦めてはいなかった。
あれから毎日何かと理由を付けてはフィオのいる診療所へと訪れる。
好き勝手な言葉を並べて最後には必ず『惚れているから結婚してくれ』と婚姻証明書を片手にやってくるのだ。
最初はフィオ自身惚れたと言う言葉の意味を知らなかった。
だから『愛しています』とか『好きです』と言う愛の告白もなく、ただ結婚してくれと言うジェンセンのムードも何もないプロポーズに少々腹も立てていた。
当然彼に対して好意の欠片もない。
またフィオは既婚者である。
ひらひらと舞う紙切れ婚だとしても……。
最初こそ夢や希望もない結婚を強いられた幼い少女だったとしてもだ。
年齢を重ねる毎に少しずつその世界が広がっていく。
15歳になる頃には離宮内の図書室にある書物を読み、書物より得た知識で以ってその可愛らしい胸を膨らませていた。
書物の中でも特に多かったのは女性に読みやすい詩集や恋物語だった。
そこで初めて結婚というものに至るまで夫となる人物より、甘い囁きやロマンチックな告白等盛大に盛り書かれているだろう夢物語を何も知らない少女が鵜呑みにするのは想像に難くない。
なのにそんなフィオへこれまた夢の要素が一欠けらもないジェンセンからのプロポーズを好意的に捉えられる筈もない。
そう彼女は実質まだ夢見る乙女のお年頃なのだから……。
宣誓文
1つ フィオの意思を絶対に尊重する。
1つ 診療所では仕事の邪魔及び患者さんを困らせない。
1つ フィオの後を付ける様なストーキング行為は一切しない。
そしてフィオがこのプロポーズを拒否している現実を忘れてはならない。
以上を踏まえた上で騎士道精神に則りトーマス・ジェンセンはフィオ嬢に少しでも好意を持って頂く為に努力を惜しまない事を誓う。
これはジェンセンのやらかしに耐え兼ねたフィオとマックスが提示した打開案である。
抑々プロポーズを全面否定しているのが大前提で始まった、然も圧倒的にジェンセンの勝算は0に等しいのにそれでも彼は諦めきれなかったらしい。
告白してひと月の間これでもかと付き纏いからの診療所へ押し掛け、事実患者さんにもかなり迷惑を掛ける日々が続いていた。
その間フィオはジェンセンの人となりをそれとなく観察していた。
確かに彼は物語に出てくる様な麗しい王子様ではない。
背は高く筋骨隆々な身体をしている。
きっと頭の中も筋肉で出来ているだろうとフィオは思う。
認めたくはないが誠実な青年だとも思えた。
それだからこそ中途半端な態度は相手を傷つけると悟った。
第一フィオ……エヴァは敗戦国の王女であり現在はこの国の王妃。
重婚は認められてはいない。
ジェンセンが誠実だからとは言え本当の身分を明かす事は出来ないし、勿論既婚者である事も明かす事は出来ない。
昨今何処でどの様に情報が漏れるかもわからない……と、アナベルより常に言われていた事。
だからせめて親から決められた婚約者がいるという設定で結婚は出来ないとフィオはジェンセンの誠意に応えようとした。
とは言え夫以外の男性と二人きりで話をする事は流石に憚られるだろう。
譬え紙切れ上の夫だとしても……だ。
フィオはマックスへ仲介に入って貰えないかと相談した。
マックスにしてみればこれこそ渡りに船とばかりに一つ返事で了承した。
そうして今より二ヶ月前、診療時間が終わりフィオとマックス、ジェンセンの三人で話し合いが行われ上記の宣誓が交わされたのである。
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