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幕間 三国の過去
5 ルガートの氷帝
しおりを挟むラファエルはマックスの助言を受けると一計を案じそれを直ぐ暗号文へと認める。
疲れている鳩には申し訳ないが書簡を足元の筒へと入れるとまた大空へと解き放つ。
ルガートとライアーン、両国とまだ見ぬ幼いエヴァンジェリンを含む未来の一種の賭けに等しかったのかもしれない。
もし何か一つでも失敗すれば自分は自国と国民、また兄の様な存在でもある友だけではない。
友の大切な国と国民更には彼の愛すべき娘の命にも係わってくるのだ。
決して容易な策ではない。
だがどの道を選ぶとしても何らかの犠牲を伴うだろう。
そしてシャロンの呪縛より解き放たれる為には必要な策とも言えた。
決して後悔をしない訳ではない。
しかしラファエルとギーそれぞれに国の頂点へ座する王。
国と国民の安全を最優先に考え護らなければいけない存在。
ルガートの氷帝。
冷酷無情……国を護る為に出来得る事は何でも行ってきた。
周辺国家よりそう揶揄されようとも構わなかった。
確かにその通りだ。
今もまた10歳にも満たない幼い姫を大人達の卑劣な争いの中へ巻き込んでしまうのだからな。
彼の姫を巻き込む事でルガートとライアーン、この二国がシャロンを出し抜くには必要な策なのだ。
そして彼の姫を護る為にも……な。
ラファエルは鳩が飛んで行った青空の向こうを、鳩の姿が見えなくなるまで見つめていた。
ルガート王ラファエル・アルステア・ルティエンス。
銀色の髪に深い湖の様な蒼い瞳、ギリシア彫刻の様に美しい顔立ちをした長身痩躯の男性である。
身体は細身だが決して痩せ細ってはいない。
ほどよくきたえられた筋肉は服の上からでもわかるくらい素晴らしい体躯を持つ美の化身とも言える。
ラファエルは王太子時代より常に血塗れの戦場若しくは王宮内の執務室で執務をこなし少し時間があれば軽装で国内を自由に視察を行っていた。
まさに仕事大好き人間。
ラファエル程この言葉に似合う者はいないだろう。
また常に暗殺される可能性を孕んでいた……ではなく現実に数え切れない程の襲撃を受けていた。
彼はその暗殺者を悉く撃退していたのである。
この世に生を受けておよそ三十年、狙われなかった日はないと断言も出来る過酷な人生。
それでも幼い時より尊敬する父王の背中を追い、危険な戦場へ身を置きつつ為政者として勉学を惜しむ事はなかった。
全ては何時の日かルガートが掴み取る平和の為!!
苦労はラファエルにとって何の重荷にもならなかったのである。
王としては上等な部類に入るのだろうがただ一つそんな彼に問題があった。
無類の女好き……ではなく女嫌い。
仕事上では特に男女差別をする訳ではない。
ラファエルにとって仕事を完璧に且つ迅速に行う事が出来れば女性だろうと構わない。
当然騎士団には高い能力を持った女性騎士も他国に比べ多い。
しかし一旦プライベートまたは社交場ともなれば事態は一変する。
ラファエルより極端に女性を寄せ付けないオーラが半端なく放たれるのだ。
とは言えルガートは大陸中央にある恵まれた土地で、然も王は涎をだらだらと垂らしたくなる程の美形とくれば世の女性達が放っておく訳はない。
ラファエルの女嫌いは有名だが自分こそは彼に受け入れて貰えると言う美女猛者達が我先にと、露骨に嫌な顔をするラファエルへ突進する。
姫君や令嬢達は未度とに撃沈見事に撃沈した。
深い湖の様な蒼い双眸で冷たく一瞥からの完全無視。
ラファエルの周囲は氷点下-60度の世界を思わせるくらいの冷気を纏わせ、凡そ半径2m以内に女性は一人として近づく事が出来なくなる。
今では決して手に入る事のない冴え凍る月の王と皮肉を含めラファエルをそう呼んでいる。
現状未だ独身を貫き、ラファエルの懐へ潜り込める勇者は訪れない。
彼に仕える者達は何度も苦言を呈するが、彼自身としては外面だけに群がる害虫を駆除出来て幸いだと豪語していもいた。
だがそんなラファエルも少なくとも十五年前まではここまで女嫌いではなかった。
少なくともあの時までは……。
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