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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
21 診察
しおりを挟む「エヴァ様が驚かれるのは無理もありません。ですが私達はエヴァ様もご存じの通りレクサー村へ向かったのです。しかしレクサー村へ向かう途中隣国へベロンと何やらあったようでレクサー村近くより騎士の数が多くなり、検問も強化され馬車はそのまま元へ戻るしかなかったのです。またエヴァ様ご自身も馬車に御乗車なされて間もなくご気分を害されたのです。私が何処かで休みましょうとお声をお掛けしても『大丈夫』と申されましたが、王都へ着く頃にはお熱も高く意識も失われておしまいになられました。誰にも知られず離宮へお連れする事も叶わず、女将さんに事情を説明しこのお部屋を用意して頂いたのです。それから二日2日余りエヴァ様はお眠りになったままで……えぇ勿論マックス先生にも診察して頂きましたよ」
はいその後……つまり王都へ帰ってから互いの話しを擦り合わせる必要があったので、その際にエヴァ様への賭けとやらを持ちだした件も全て聞き出しましたわ!!
ですがどうかご安心下さいませ。
ちゃんと死なない程度にお仕置きはしておきましたので……。
アナベルの黒い……真黒な微笑みを心の中で湛えている事も知らずにエヴァは乾いた砂地に水を流し込む様に、そして面白いくらいアナベルの言葉を信じていく。
まぁそれが約十年以上共にいた信頼関係だからでもあるのだが、それにしても重ねて言うがエヴァは聡明なのだが性格はかなりの天然としか言いようがない。
おまけに生まれが世間知らずな王女様。
どの様な窮地に陥ろうとも根本的に人を信じて疑わない。
その素直で優しい心根でからこそ皆に心配を掛けまいとし自らを強く追い込み過ぎてしまった。
結果幼くして失感情症と言う心の病に罹ってしまったのだ。
心の病に罹って以降エヴァは生ける人形と化してしまったのだが今の彼女その様子は見られない。
様々な助けを経てその病を克服し社会生活も出来ている。
何もなければ……シャロンの亡霊がいなければエヴァは真の意味で自由を得られる。
「アナベルや女将さんにマックスにも心配掛けてしまったわね。そんなに眠っていた何て私は少しも気づかなかったわ」
「少しお仕事も無理をなされていたのでしょう。今晩はここで休み明日離宮へ戻りましょうエヴァ様」
「そう、ね。ふふ失敗してしまった……わね、私達は漸く自由になれると……」
「こ、今回だけですよ。また何れ機会は訪れます。それまでまた頑張りましょう?」
「……っふ、ぅはぁぁ、少し悔しいけれども、楽しみが少し先に延びたと思えばいいのよ……ね」
「そうですわエヴァ様。さぁもう少し休みましょう」
「ええ有難うアナベル。何時も私の傍にいてくれて……」
エヴァは泣き出したい気持ちをぐっと堪え儚げに微笑む。
勿論アナベルはその様子に悶絶したのは言うまでもない。
エヴァの笑顔を見た瞬間、それまでアナベルの心に大きく締めていたであろう彼女を騙してしまったという良心の呵責が、宇宙の遠く彼方へ吹っ飛ぶ程アナベルは心の中で盛大に悶絶していた。
コンコンコンコン
「あ……!?」
ノックと共に部屋へ入ってきたのはマックス。
彼の服装は診療所で見る白衣姿だ。
確かに外見は何時もと何ら変わらな……い?
いやいやある部分が、エヴァが驚くくらいにはしっかりと変わっていた⁉
優男風のイケメンの筈なのにこうも歪な程に顔が変形出来るのかと思える程に、顔面の至る所が皮下出血の跡が半端なくある。
いや皮下出血だけではない。
イケメンの顔の輪郭も何カ所も凹んだり腫れ上がってもいる。
今どちらが先に診察が必要なのかと問われれば問答無用でマックスだとエヴァは心の中で即答した。
多分推測に過ぎないけれども顔だけでなく身体のあちこちも痛めてそうだ。
だがこの部屋に漂う雰囲気が何故かその理由問うのを拒んでいる。
然もエヴァは何気にマックスとその背後で控えているアナベルへと視線を向ける。
エヴァは想像もしないだろう。
マックスの変貌の一切にアナベルが関与していた事を……。
そうエヴァの前でのアナベルは何時も優しくて少し厳しい姉の様な存在なのだからね。
「フィオ気分は少しましかな?」
マックスは声を掛けてからフィオの傍にある椅子へと腰を掛ける。
「あ、すみませんマックス。忙しいのに往診までして頂いて……それに……」
一方的に退職したのに……と彼女は心の中でそう思っていれば、彼はそれを察した様にエヴァの言葉を遮った。
「往診は当然だよ。僕は医師なのだから患者さんがいれば何処へでも行くよ」
「〰〰〰〰でも先日のウェイスティアの犯人さんは……」
「そうだね。あの場所にいた僕や騎士達も感情的になり過ぎてというかだ。きっと繰り返されていた戦争で少し可笑しくなっていたんだよ」
「マックス……」
「……でその事に気づかせてくれたのはフィオ――――君なんだよ。君のあの一言で僕は医師である意味を思い出したんだからね。まぁそれだけこの国の人間も長い間の戦争やら何だかんだで心が疲弊しきっていたんだ。だから今君に辞められると僕達は物凄く困ってしまう。フィオ、君にはちゃんと元気になってからしっかり僕の助手として傍にいて欲しいんだ。僕も人間だからね。間違える事もいっぱいある。そんな時はこの前みたいに臆せず意見してくれると助かる。それに僕よりももっと……そうとても病んでいる人がいてね。何時か君にも引き合わせて、フィオの明るさでその人の病も治してくれる事を僕は願っている」
「マックス……ほ、本当に私でいいのですか?」
「うん僕はフィオが良い」
「〰〰〰〰私、甘ちゃんだって言われましたよ」
「そうだね。でもその甘ちゃんのフィオだから患者さん達だけでなく僕も君が好きなんだよ」
「〰〰〰〰⁉は、はい、またお世話になります」
「良かったぁぁ、これで僕も安心したよ。君が戻ってきてくれて本当に嬉しいよ」
「でもマックス、この場合賭けはどうなるのですか?」
その瞬間、フィオに気取られない様にマックスの背中へ殺気と言う鋭利な刃がぐさりと彼に突き刺さる。
「ぐふぉっ⁉」
殺気は勿論アナベルだ。
彼は現実に刺されてはいない旨を抑え、青い瞳を泳がせつつもその顔はじっとりと脂汗が噴き出していた。
「大丈夫ですかマックス?」
「い、いやか、賭け何て初めから冗談というかだね。そ、そう言えばきっと君が診療所へ戻ってきやすいかな~ってあはは、本当に他意はないから!!」
「うーんでも結構怪しさ満載でしたよマックス。でも、もういいです。では明日か……」
「い、いやいや明後日からでいいよ。今日はゆっくりして明後日からまた来てくれると嬉しいね」
「いいのですか?」
「言いも悪いも病人に無理はさせられないし、この状態の君を見れば患者さんも心配してしまうからね」
フィオのファンは多いから……と言ってそそくさと診察を済ませるとマックスは逃げる様に診療所へと戻った――――と言うよりはだ。
単にアナベルから逃げたかっただけである。
あの夜マックスの心の中にライアーンの姫将軍は決して怒らせてはいけないと深く深~く刻まれたのだから……。
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