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第二章  過去から現代へ向かって ~過去二年半前

20  覚醒 Sideエヴァ&アナベル

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「う……んっ」
「……ま、エヴァ様」

 んん……も、凄……く頭と身体が重、い。
 まるで私の身体とは思えない程に怠くて……しんどい。
 だけど遠くで呼んでいる声はきっと……アナベル。
 そうアナベルは出会った時より何時も、どんな時も変わらず私の事を一番に心配してくれる。

 ルガートへ来た時も彼女だけ。
 私が心より頼れるのは……。
 今も心配そうに呼んでくれているもの……ね。


「エヴァ様お気がつかれましたか?」
「ん、んん?ア……ナベル?」


 ゆっくりと少しずつ開かれていくエメラルドグリーンの瞳には、エヴァを心配そうに覗き込むアナベルの姿が映り込んでいた。
 エヴァは未だ状況を把握する事は出来ていない。
 何と言っても三日間薬で強制的に眠らされていた彼女の華奢な身体に見えない部分で相当負担を強いていたのだ。
 兎に角エヴァは現在全身の倦怠感は勿論、食事は眠らされている間は点滴が行われていたから大丈夫とは言い難い。

 当然喉はカラカラだしお腹も空いている。

 それと睡眠薬の後遺症か頭痛もあると訴える。
 目覚めたばかりのエヴァがたどたどしく、何とか今の状態を纏めればざっとこの程度である。

 だがエヴァ命のアナベルにしてみれば大事であるのは言うまでもない。


 あの似非藪えせやぶ医者め!!
 私の大切なエヴァ様にはただ少しお眠り頂くだけでお身体には何も害はないと言っていたと言うのにです。
 あのいとけない御身体は現在悲鳴をあげておられるではないか!!

 頭痛に倦怠感?
 これだけでもあの者は万死に値します。
 あぁそれにしても私の大切なエヴァ様をこの様な目に合わせたのは他でもないこの私なのです。

 どうぞ一日もお早くご快癒して下さいませ。
 そして仔細があるとは言えエヴァ様へ偽りを吐きくすっりを持ってしまった私へ罰をお与え下さい。


 自らの罪を反省?
 いや多少斜め上を突き抜けようとするアナベルは今己が心の中でマックスを最でも十回は首を絞めていた。
 だがそれはあくまでも心の中であり、その様な考えは1㎜たりとも主であるエヴァには決して見せない。
 あくまでもアナベルの心の奥底にある闇の中で……だ。

 そんな頼りになるアナベルの心の闇を一切知らないエヴァは、彼女に心配させまいと頭が痛むのを我慢しつつ出来るだけ笑顔に徹していた。
 その涙ぐましい努力が更にアナベルの心を鷲掴みにしているとはエヴァ自身全く気がついてはいない。
 おまけに目覚めて暫くするとエヴァは、今更ながら自分が今何処にいるのかが無性に気になってもいた。

 本当に今更である。

 まぁ目覚めて直ぐは薬の加減もあってはっきりしなかったのもあるが、エヴァ自身少し天然な所も理由の一つだろう。


「ねぇアナベル……ここは一体何処なのかしら?」
「は、はいそうで御座いますね」

「離宮でないのはわかるけれど私達確か……そう馬車に乗っ、て南のレクサー村へ向かっている筈?」


 さぁここが正念場です。
 気を引き締め質問されるエヴァ様へ納得の出来るいい訳をしなければいけません。

 疑惑を持たれない様に、そしてしっかりとエヴァ様ご自身ご納得の出来る様に!!

 そして何よりもエヴァ様に拒絶されない様にしなければいけないのです。
 いい事アナベル・ベイントン。
 自身の首を絞めるか否かはこれからに掛かっているのですからね。


 アナベルはゆっくりと深呼吸をする。
 そして下腹へ力を込めるとエヴァへ説明と言ういい訳を語り始めたのだった。

「エヴァ様、実はここはレクサー村ではなく王都にある私の職場を御存知でしょう?」

「え、えぇ……」

 アナベルは一言一言を慎重に言葉を選びゆっくりと話し始める。
 しかし今ここにいるのが乗合馬車の目的地であるレクサー村ではなく王都だと言う現実にエヴァ自身驚愕の色を隠せなかった。

「どう、して?何故王都にいる……の?アナベルの働いていた食堂って……」


 やはりエヴァ様は動揺されている。
 あぁでも何なのでしょう。
 逼迫した状況にも拘らずにです。
 この小動物の様にわらわらと落ち着きのないご様子が何とも堪らない!!
 感情の乏しかったお人形時代のエヴァ様も捨て難いけれどもです。
 今の私の一言に一つ一つ反応される御姿はもっといい!!

 
 何やら心の声が駄々洩れ状態のアナベル。
 エヴァの反応に悶絶寸前へと陥るも皮一枚で何とか耐え凌ぎ、アナベルは表情筋に喝を入れ、動揺するエヴァと反対に感情を完全に抑え込みつつ話を続けた。

「ここはその食堂の二階に併設されている宿屋の一室です」
「な、何故、どうして宿屋に私達がいる……あ!?」

 驚いたエヴァは急に上体を起こした為にで目の前が真っ暗になってしまった。
 一過性の眩暈を起こしたのだろう。
 ふらつき前傾姿勢となるエヴァへアナベルは慣れた様子で身体を支え、ゆっくりと寝台へそのまま横たえさせる。

「急にお起きになられてはいけませんよエヴァ様」
「……ごめんなさい。でも、でもどうしても納得がいかなくて」
「お気持ちは十分にお察しますが、今はエヴァ様のお身体を癒す方が最優先です」

「身体、を癒す……とは?」

 
 特に健康状態に問題はなかった筈。
 馬車へ乗るまで私は健康だった……でも今は少しの事で眩暈や頭痛に、そう言えば身体も何処となく気怠い。
 もしかして馬車に乗っている間に気分を悪くしたのかしら。
 でもそうであれば王都ではなく何処か最寄りの宿場町の宿屋なら理解も出来るのだけれど……。

 まさかアナベルが私に嘘を吐く何て事はないって、私は今なんて愚かな事を考えたの!?

 アナベルを少しでも疑うだなんて!!
 彼女だけ、そうアナベルだけが私にここまで尽くしてくれているの。

 私にはアナベルしかいないの。
 きっと体調が優れない為につい変な事を考えてしまったのだわ。
 ごめんなさいアナベル。
 少しとはいえあなたの信頼を疑ってしまう何て私私は何と愚かな人間なのだろう。


 はああぁぁぁきっとエヴァ様の事です。
 今頃色々後悔なされているに違いないですわ。

 ですが今は敢えてこの可愛らしく動揺なされている間にを擦り込まさせて頂かなくては!!

 誠に申し訳ありませんエヴァ様。
 ですがこのアナベルは貴女様のお傍を離れる訳にはいかないのです。
 全てが終わった時にはこの私目を如何様にも処分して頂いて結構です。
 ですのでエヴァ様、今はどうか騙されて下さいませ。


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