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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
19 計画終了?
しおりを挟むそして命じられた騎士達は与えられた仕事を迷う事なく粛々とこなしていく。
自ら握る剣や鎧を血に染めつつも、逃げまどう貴族達を追い詰め鋭い刃で彼らの身体を貫いていく。
最後の仕上げとばかりにその持ち主達を惨殺した後、主のいなくなった館へと火を放つ。
騎士達とて心が痛まない訳でもない。
また彼らの心は石で出来ている訳でもなければ分厚い氷で覆われてもいない。
騎士達一人一人は温かい心を持った人間。
渡されたリストを見て知り合いもいただろう。
心が揺るがなかったと言えば嘘になる。
だがそれ以上にシャロンという国より受けた憎悪が勝っていただけ。
以前は一国家としてシャロンは戦を仕掛けてきた事もあった。
でも半分は周辺諸国へルガートの内情を流しその結果周辺国がルガート国内を何度も蹂躙していく様を高みの見物としてほくそ笑んでいたのである。
嘗ては一つの国であったもの同士だと言うのにだ。
全く悪趣味としか言いようがない。
また騎士達の中にもシャロンの間者や暗殺集団を色々手を変えて忍ばせればだ。
騎士達を大いに疑心暗鬼へと導き困惑させた事もある。
仲間だと信じていた友が実はシャロンからの刺客――――等という事は、この100年もの間常態化していたのだ。
だからこそラファエルへ心より忠誠を尽くす彼らは迷う事なくシャロンに傾倒した貴族達を殺す事に対し何の躊躇いもなかった。
そうラファエルこそはこの地獄に終止符を打ってくれる者だと信じていたのだから……。
因みにラファエルへ忠誠を捧げる騎士達の中には、先日エヴァと出会ったジェンセンも含まれていたのは言うまでもない。
こうして二日に渡り行われた血みどろの宴は終焉を迎えた。
この二日間で約180名の命がこの世から姿を消したがまだ全ては終わっていない。
今より二年前の戦でルガートはシャロンを打ち破り王と王妃、側妃とその子供達や親族等は城を落とすと共に王族関係者の全てを処刑した。
しかしただ一人、王太子アーロン・レジナルド・シャクルトンだけがラファエル達の手を逃れ、城内より一足先に姿を消したのである。
それ以降シャロンが仕切る裏社会の何処かで亡霊の様にラファエルとエヴァンジェリンを執拗に、また虎視眈々と今も狙っている。
アーロンと亡霊の蔓延る裏社会を完全に崩壊する日まで戦いは終わらないし、真の平和はやってこない。
エヴァが眠らされて三日目の朝にレクサー村へ一羽の伝書鳩が飛んできた。
ラファエルである。
水晶魔鏡をという魔道具を用いれば時間も手間も関係なく何時でも連絡は出来ただろう。
しかしそれをしなかったのは偏にエヴァンジェリンの安全の為……。
この世界にも魔法は存在するがそれは貴族や正騎士しか魔力は存在しない。
一般の平民は魔力がない為伝達手法も伝書鳩や手紙が重用されていた。
ラファエルは国王であるからしてその魔力はケタ外れと言ってもいい。
なのに何故大事な所でアナログ的な手法を利用するのかと問われればだ。
魔力を行使した際同等の魔力のある者とは波長が合い易い。
はっきり言えばその気があってもなくても盗聴し易いのである。
勿論透視等あらゆるものも例外ではない。
だからエヴァの父であるライアーン王との連絡もその理由で態と伝書鳩を使い続けている。
王族や貴族では決して用いないだろう方法。
ルガートだけでなくライアーンも何処にシャロンの目と耳があるのかはわからない。
また敵を欺くには先ず味方からである。
そして今回その鳩を受け取ったのはマックスだった。
内容は見なくとも彼にはわかっていた。
「陛下より連絡があったのですか?」
「ええ、宴は無事終わったそうです。要所要所に陛下直属の騎士達が護衛として配備されていますので僕達も王都へ戻りましょう」
「〰〰〰〰私は今からが大変ですわ。エヴァ様へ何と申し開きをすれば良いのかを考えただけでも頭が痛いです」
そうアナベルはエヴァ命。
今回そのエヴァを完全に騙しこんな辺鄙な村で隔離しただけでなく、おまけに彼女を薬で眠らせている。
蛮行へ加担をしたのでなくアナベル自らの手で主に薬を盛ってしまったのだ。
普通ならば潔く責任を取り自害して果てるか、軽くてもエヴァの傍を辞さなければいけないだろう。
だがこんなにも可愛くて美しいこれぞお姫様なエヴァの傍より離れるのは死を賜るよりも辛過ぎる!!
エヴァと離れる事は実質彼女にとって文字通りの死刑宣告と同じだとアナベルはそう捉えている。
でも今回ばかりは幾ら心優しいエヴァであろうとも自分へ薬盛るだけではない。
一生懸命立てた逃亡計画すらもなかった事……と言えば流石に笑顔で許しては貰えまい。
譬えエヴァ自身を護る為……でも当のエヴァには何も知らされる事はない。
また今回ルガート国内のドブネズミの駆除があらかた終わったとは言え完璧ではない。
おまけに抑々の元凶が、生まれたての可愛いエヴァへ懸想した元シャロンの王太子がこの世にいる限りエヴァの安全は保障されない。
強引に逃亡を図ったとしてもせ牡蠣各地に散らばっているだろうシャロンの手の者によってアーロンに捕まればだ。
それこそ死んだ方がましという思いを大切なエヴァに強いてしまうのが手に取るようにわかってしまう。
だから今はまだエヴァの望みを叶える時ではない。
それにエヴァは自分自身の幸せよりもアナベルに幸せになって欲しいと願っている。
「――――私等の幸せよりも貴女様の幸せこそが私の幸せでもあるのですよ、エヴァ様」
アナベルはそう呟くと、馬車に揺られて眠る彼女の額に掛る髪をそっと触れた。
今は夕暮れ。
連絡を受け直ぐに出発したエヴァ達を乗せた馬車は間もなく王都へと入ろうとしていた。
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