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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
12 計画実行 Sideエヴァ
しおりを挟む空が白み始めた頃に私は目覚めた。
何時もより少し目覚めるのは早い……けれども今日は特別。
そう今日は待ちに待った計画実行の日なのですもの。
アナベルは何処に?
この時間であれば何時もは眠っている筈のアナベルの姿はなく、彼女が眠っていたであろうシーツも時間が経っているのかひんやりと冷たい。
きっとアナベルも今朝は早くに目が覚めてしまったのね。
私は寝台より降り、そっと窓ガラスに手を当て生い茂る木々を見つめる。
ドキドキドキドキ
不安と期待が綯い交ぜ状態。
落ち着こうと深呼吸をしてみるもドキドキは止まらない。
まるで皆が話していただろう恋をした感じね。
あぁそうね。
私は自由というものに恋をしているのだわ。
でなければこんなにもドキドキ何てしないもの。
だからとは言え何時までも浮かれていてはダメよエヴァンジェリン。
しっかりと落ち着いて行動しなければね。
この国へ嫁して七年半。
とても長くて短い時間だったわ。
でもそれも今日でお終い。
私は自由……いえ、少なくともアナベルを先に自由にしなければ!!
私はアナベルが無事第三国へ行きその後頃合いを見て故国へ、伯爵家へ帰る事が出来てからでいいの。
たった一人だけの臣下と言う名の親友を護る事が、今の私にとって王族として残された矜持。
絶対に成功させてみせる。
マックスの賭けに勝ってみせるわ。
「お早う御座いますエヴァ様」
「お早うアナベル」
ほら、やっぱり彼女は私より早く目覚めていたわ。
どんなに私が早く目覚めてもアナベルは先に目覚めている。
離宮へ来てそれは一度も変わらない。
私達は朝食を食べそして立つ鳥跡を濁さずの言葉通り、台所をサッと片づければフード付きの外套を羽織る。
そうして用意していた茶色の旅行鞄を持ち隠し通路の中へと姿を消したの。
ゴゴゴ……。
森の中は仄暗い。
真っ暗ではないが程々に薄暗い状態が返って余計な幻覚を見せられる様に、木々の形や草木の茂みが恐ろしい魔獣へと姿を変えようとする。
初めて森のもう一つの姿を目の当たりにしてしまい身体が自然と委縮すると同時に、最初の一歩が中々踏み出せなくなっていた。
「さぁエヴァ様、行きましょうか?」
全身を強張らせている私の様子に気付いたアナベルは、そっと私の手を握って声を掛けてくれた。
「……っ、そ、そうね。有難うアナベル」
私はアナベルに促され自由への一歩をゆっくりと歩き出す。
不思議なものね。
最初の一歩が踏み出せれば後は何の問題もなくサクサクと歩く事が出来るのだもの。
仄暗い森の木々達のもう一つの姿に恐れを抱いていたというのによ。
森を抜ける頃にはそんな恐れは何処にもなく、まるでピクニック気分でアナベルと二人陽気に歩いていたの。
王宮横にある森を抜けて振り返ると王宮はまだ暗闇に支配された黒いイメージでしかないのに対し、私達の進む道の向こう……東の通りには遠い山の頂より少しずつにお日様が顔を出していたわ。
まさに自由への夜明けって感じだった。
そうこの時の私は期待に胸を膨らませていたわ。
まさか掌の上で踊らされているという事も知らずに、またそれがどの様な理由であったとしてもね。
それだけ私はまだまだ子供だったみたい。
大通りへ出た私達は30分程歩いて乗合馬車の停留所へと着く。
私の髪は少し目立つ色合い故に今はしっかりフードを被っている。
赤毛交じりの金色の髪は東北部より北に多い色。
その中でも私の髪は金色がやや白金という本当に珍しい色合いの髪なの。
ぱっと見た感じはそんなに違和感を感じないのかもしれない。
とは言えこれから私達は南へと向かう。
南にはない毛色なのだから用心はするにこした事ないでしょ?
「フィオこちらです」
「えぇ」
外ではアナベルも私の事をフィオと呼ぶ。
下手に本名で呼ばれ身元がバレても困るけれども、目的地とするカルタン王国に入れば私はエヴァンジェリンと言う名を捨てようと思っている。
両親より頂いた私をたらしめる名。
だけどこれより先は平民としてひっそり生きていく為にも捨てなければいけない。
ごめんなさいお父様お母様。
どうか親不孝な娘の事はお忘れ下さいませ。
程なくして私達は目的の馬車へと無事のる事が出来たわ。
黒い大型の馬車。
乗り心地はもっと悪いものかと思っていたけれど案外とクッション性は良いみたい。
これなら長時間の旅も然程苦痛ではないのかもしれない。
私は窓際でそっと外を眺めているとアナベルが耳元で囁いてきた。
「もう間もなく出発です」
「えぇ国境のレクサー村までこの馬車で行くのね」
「はい、村へは少し大変ですが山越えとなります。ですので今の間に十分休息を取って下さいませ」
「えぇでもアナベルは?あなたも休息を取らなければいけないでしょう?」
これから大変な思いをするのはお互い様。
なのに私だけのんびり旅行気分何て出来はしないわ……と意見したけれどもアナベルは納得してくれない。
「フィオお忘れで御座いますか?私の生家は武芸を尊ぶ家柄です。それは女であっても同じ事、私は幼い頃よりその様に躾けられましたので多少の事は大丈夫です。それよりも心配なのは貴女ですよ。ちゃんと休息を取って元気でいて貰わなくてはならないのですから……」
それからアナベルは水筒よりカップへお茶を注ぎ私へ飲む様に促したの。
私は渡されたカップに入っているお茶を何も考えず普通に飲み干したわ。
十人乗りの馬車には八人が乗車しており比較的ゆったりとしている。
気付けば私は窓際に凭れながら知らず知らず静かに眠りへと誘われてしまった。
「エヴァ様……?」
アナベルが声を掛け私がしっかり眠ったのを確認すると自分の膝に私の頭を置き、身体を外套で包む様に寝かせてくれた。
その行為はまるで誰の目にも触れない様にしてくれたと言ってもいいのだろう。
そうして乗合馬車は一路南へと向けて出発した。
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