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第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
5 厳しい現実 Sideエヴァ
しおりを挟む「「「「ふ、副団長⁉」」」」
「フィオ?」
「…………」
な、なぁに?
大の男が六人揃いも揃ってその情けない表情は?
ただこのお酒臭い騎士の言葉が許せなかっただけ。
私は思い切り背伸びをしまだ茫然自失状態の騎士のマントをぐいっとこちらへ引き寄せ、彼へ説教をしたわ。
「酷くて可笑しいのは貴方です。一体何なのですか。先程より黙って聞いていれば治療の順番も守れないなんて情けない。いい年齢をした大人が、然も国を護る立派な騎士たる者が待つ事も出来ないなんて。治療を受ける順番何て小さな子供でも出来る事です。ましてや今マックスが助けようと一生懸命治療していると言うのになんて貴方何て言いました?あぁそうね。確か貴方は『こんな所で手当てをせずともこいつには取り調べという拷問が待っている』と仰ったわね。でもこれって大変失礼ではなくって?この患者さんがどの様な罪を犯したのかは私もマックス知りません。ですが一旦この診療所へ入った瞬間、この患者さんも貴方方騎士も皆同じ患者さんでしかないのです。然も一番許せないのは私が何時も綺麗に掃除をしているこの診療所をこんな所ですって?よくここでその様な言葉を言いましたわね!!」
「フィ、フィオもう、それくら……」
「マックスは黙っていて下さい!!」
「はいぃぃぃぃ!?」
「私は今本当に怒っているのです。この世界で生きる全ての者の命の重さは皆等しく平等な筈。なのに、なのに幾ら罪を犯したとは言え治療もそこそこで後は拷問ですって?信じられない。そんな扱いを受けてしまえば話したくてもぜーったいに貴方へ話したくはなくなるでしょうね!!万が一自分達が同じ様な立場になった時、貴方はそうされたいのですか?」
「フィオもうそのくらいでいいよね。君も少し冷静を欠いているよ。さぁこの患者さんの治療は終わったから次の患者さんを連れて来てくれるかな?」
マックスは穏やかに優しい声で私を窘める。
私はと言えばマックスに諭され我に返ると、己のはしたなさに顔より火が出そうになってしまう。
本当ならばもう余りの恥ずかしさに直ぐにでも離宮へ帰りたい。
でも今は残念ながら仕事中。
頭を切り替えマックスの治療の介助に専念したわ。
マックスは傍でボーっと立ち尽くしている騎士へ、怪我をしている仲間を連れて来る様に指示を出す。
若い騎士達は慌てて寝台の上で座っている犯人さんを立たせると、残りの騎士達は遠巻きに私の様子を窺いつつ怪我をした仲間をそっと寝台へと寝かせた。
先程までの横柄な態度とは打って変わって騎士全員が何だかとても他所他所しい。
ほんの少し文句を言っただけなのに……。
犯人さんは自決をしない為に猿轡を咬まされてはいるけれどもう暴れる事もなく、静かに二人の騎士によって連れだされようとしていた。
私はマックスの指示で犯人さんのお薬の準備をし騎士へと渡す。
そうしている間に二人目の治療も終わり残りはこの……今も茫然自失で微動だにしない紅い髪の騎士だけ。
これまでこれまでより文句を言われた事がないのかしら。
固まったままの身体を若い騎士達に抱えられる様にして寝台へと連れてこられる。
そんな彼の怪我ははっきり言って打ち身と擦過傷と言う軽度なもの。
打ち身とは言えこれだけ筋骨隆々で鍛えていれば多分大丈夫とは思うけれど、一応マックスの指示で膏薬をぺたぺたと貼っていく。
ハプニング的な治療も終わったしもうこれで大人しく帰って貰えればいい。
さぁ帰れ。
とっとと帰れ。
もたもたせずに速攻で帰ろうね。
心の中でつい毒を吐いていればよ。
紅い髪の騎士は去り際ににやりと口角を釣りあげ、地を這う様な声と共に言い放つ。
「甘ちゃんの答えだな」
「っ――――!?」
甘ちゃん?
酷い。
何故その様な言われ方をされなければいけないの?
命の重さは皆等しく平等……でしょう?
「…………」
余りの悔しさに思わず涙を滲ませかける。
そしてマックスは何も言わない。
そう彼は何も言わないのだ。
否定も肯定もしない。
その事に私ははたと気付かされる。
あぁ私は何と愚かなのだろう。
先程のウェイスティア王国の間者と私はこの国にしてみれば同じ立場でしかない。
彼と私はこの国の敵でしかないという現実。
私は七年半もの間この国で暮らしていて未だ気が付いていなかっただけ。
愚かなエヴァ。
本当に愚か、愚か過ぎる。
一体何を勘違いしていたのだろう。
マックスや患者さん達と仲良くなっても、それはあくまでもフィオでしかない。
そして彼らにエヴァンジェリンが受け入れられる日は永遠に来ない。
しっかりしなさいエヴァンジェリン。
フィオは何れこの場所よりいなくなるのよ。
そう現実世界にフィオは存在しないのだから……。
そう理解すると私は処置で使った器材を洗浄し消毒を行う。
それから素早く台所へ行って昼食の後片付けをし仕事が残っていないかを確認すると、マックスに挨拶を告げて診療所を後にした。
背後よりマックスが制止をする様な声が聞こえたけれども、私は敢えて振り向かなかった。
ううん、今は振り返りたくなかったの。
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