25 / 122
第二章 過去から現代へ向かって ~過去二年半前
3 噂の二人 Sideエヴァ
しおりを挟む外で働いてわかったもの。
それは人間とはつくづく噂が好きな生き物だって事。
然も男性よりも女性の方が恋愛関係等の噂が大好物らしい。
だがこの診療所では老若男女を問わず噂が大好物。
またこの噂が現時点私の悩みの種だったりする。
何を隠そう私とマックスの関係についてね!!
早いもので診療所へ勤めてもう一年が経ったわ。
最初の半年くらいまでは彼の事をマックス先生と呼んでいたのだけれど、もう最近ではお互い同じ職場で働く者だからと言う理由で彼を継承なしに名前呼びに変えたのが抑々事の発端だったのかもしれない。
「フィオそこの包帯出しておいてくれる?」
「包帯も今の処置に必要な物は全て用意出来ていますよマックス」
「うん流石は僕の大切な右腕だね」
「……そんな事を言っても何も出ませんよ」
とまぁこんな感じで何時もの様に軽口を言い合っているのはお互いを信頼しているからこそ。
阿吽の呼吸とでも言うのかしら。
最近では私も診療所の仕事に慣れてきたのでしょうね。
マックスが次にどの様な行動をするのか……と理解出来る様になってきたからこそ、準備や介助も行える様になったの。
ただそんな私達の様子を実際に目の前で見ているギャラリー、つまりは患者さんね。
彼らからすれば私達の会話や行動を見る限りどうやら仲の良い恋人、若しくは夫婦にしか見えないらしい。
私にすれば何処をどうすればその様な関係に見えるのかは――――謎。
それに私はこれでも紙切れ上とは言え立派な人妻らしいしね。
勿論生まれてから今この瞬間に置いて異性に対し特別な感情と言うものを抱いた事はないわ。
だから16歳にもなって恋とはどの様なものかもわからない。
以前患者さんより恋とはドキドキわくわくするものだと聞いた事はある。
そのどきどきワクワクが恋なのだろすれば、私は毎月月末に恋をしている事になるわね。
因みに月末のお給料日の夜にアナベルと一緒にお金が幾ら貯まったかを計算する時はもうドキドキ何てものではなく、ワクワクの余り背中に羽が生えればよ。
これから先の自由な未来へ向かって羽ばたいていく気持ちがそれなの。
え?
それは恋ではない?
それなら初めて菜園で育てたものが立派に成長して無事に収穫する時の瞬間もドキドキしたわ。
後掃除や洗濯も失敗なく出来た時も嬉しくってドキドキしたわね。
あぁパンが失敗せずに美味しそうにふっくらと焼けた時もドキドキ……。
何れにせよ異性が絡んでこない時点で全て恋ではないのかもしれない。
「せんせー、もうそろそろ身を固める年齢だろう?あぁその~何だねぇ、わしらが言うのも何だがね。先生とフィオちゃんは何と言うかいやぁお似合いだと思うんだがなぁ……」
「あぁフィオですか?確かに良い娘ですよね。仕事も出来て家事もこなせておまけに料理も美味しいしね」
「だろ。先生が気に入ってるんならわしらでフィオちゃんを説得してやるからよ。先生にはこれまで十分世話になっとるからな。きっちりと結婚まで話を付けてやるよ」
「う~ん確かにフィオは僕の大切なパートナーですよ。でも僕自身まだまだ身を固める心算はないんですよね。さ、出来ましたよ。次回来られる時は採血をしましょうね。フィオ~次の患者さん宜しく」
「はい、ではお大事にして下さいねデイルズさん。お酒は飲み過ぎちゃダメですよ」
「……あぁ有難うフィオちゃん」
とまぁこんな感じで今日も朝からずっとこんなやり取りを私とマックスは患者さんから受けている。
最近気が付けばこの話題が本当に多い。
一体何の公開処刑なのかと思ってしまうのだけれど患者さん達に悪意がないのはわかるわよ。
でもこれはこれで精神的に……辛い。
別にマックスが嫌いではないのよ。
寧ろ彼には感謝をしているくらい。
それにしてもマックスはデイルズさん達から突かれ、私は最寄りの女性陣がね。
それぞれ何処の何が気に入らないのかと詰め寄ってくるものだからこちらとしては居た堪れない。
でもスティアおばさんだけは何も言わず普通にその場の雰囲気を楽しんでいる様にも見えるのよね。
抑々『恋』と言うものがわからない私にどうしろと言うのかしら。
わからない者に答えを求めるのもどうかと思うのだけれど……。
しかしそんな噂を立てられている最中に月末のお給料日にマックスはやらかしましたよ。
私達にしてみれば恒例行事でも、周囲からすればそれは全く違う意味にとられるって事をね。
恒例行事のケーキとお花は退屈なギャラリーを十分に楽しませる事となったのは言うまでもない。
「いや~困ったものだね~」
「いやいやマックス、貴方全く困ったお顔をしていませんよ」
「そうかな。僕は兎も角フィオは相当困っているでしょ?」
「えぇいえ、マックス個人に対して好意を抱いてはいますがでもそれはお兄様の様な感じなのですもの」
それに私は既婚者だから余計にマックスに悪いもの。
「そうだね。僕もフィオみたいな妹がいたらきっと毎日楽しいだろうね」
「ふふ、マックス目当ての患者さんが聞けばきっと皆さん即貴方の妹になるって志願してきそうですね」
「あ〰〰〰〰それだけはちょっと困るかな」
「では妹として皆さんには内緒にしてあげますね」
「助かるよ。それでなくとも少々困っているからね」
何に困っているのかはわからないけれど、私達は家族みたいな穏やかな関係なの。
だから私はマックスへドキドキと言う感情を抱いてはいない。
こうして診察が終わり昼食後のほっこりとしたお茶の時間を二人でまったりと過ごすのは、アナベルや故国の両親と同じ温かい感情。
きっとマックスもそうなのでしょう。
しかしこの20分後私達の穏やかな時間に思わぬ邪魔が入ったわ。
まさしく珍客到来と言う奴がね。
0
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
常世の守り主 ―異説冥界神話談―
双子烏丸
ファンタジー
かつて大切な人を失った青年――。
全てはそれを取り戻すために、全てを捨てて放浪の旅へ。
長い、長い旅で心も体も擦り減らし、もはやかつてとは別人のように成り果ててもなお、自らの願いのためにその身を捧げた。
そして、もはやその旅路が終わりに差し掛かった、その時。……青年が決断する事とは。
——
本編最終話には創音さんから頂いた、イラストを掲載しました!
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない
結田龍
恋愛
「君との婚約を破棄する!」と六人目の婚約者に言われた瞬間、クリスティーナは婚約破棄の成就に思わず笑みが零れそうになった。
ヴィクトール帝国の皇女クリスティーナは、皇太子派の大きな秘密である自身の記憶喪失を隠すために、これまで国外の王族と婚約してきたが、六回婚約して六回婚約破棄をしてきた。
悪女の評判が立っていたが、戦空艇団の第三師団師団長の肩書のある彼女は生涯結婚する気はない。
それなのに兄であり皇太子のレオンハルトによって、七回目の婚約を帝国の公爵令息と結ばされてしまう。
公爵令息は世界で初めて戦空艇を開発した天才機械士シキ・ザートツェントル。けれど彼は腹黒で厄介で、さらには第三師団の副官に着任してきた。
結婚する気がないクリスティーナは七回目の婚約破棄を目指すのだが、なぜか甘い態度で接してくる上、どうやら過去の記憶にも関わっているようで……。
毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。
恋愛小説大賞にエントリーしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる