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第二章  過去から現代へ向かって ~過去二年半前

2  新たな決意 Sideエヴァ

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「あぁだが結婚は難しいかもしれねぇぞ」
「……やっぱりアレか」
「アレだな。アレがなければ直ぐにでも嫁さん何かホイホイ見つかるんだがなぁ」

 ホイホイって一体何が?
 別に陛下へ特別な感情なんてないわよ。
 でも何となく話の続きが気になった私はお二人の会話へと割り込んでしまった。

「バヌロさん、どうして国王様の結婚が難しいのですか?」

 何気なく放った私の一言に二人のジジイ様達は私をじっと見つめ……。

「フィオちゃんはこんな有名な話を知らんかったんかい?」
「いや~やっぱりフィオちゃんは何処までも無垢な娘っ子だよなぁ」
「あぁそうだよなぁ。フィオちゃんはやっぱこうでなくちゃあいけないよなぁ」

 いやいやそんなお話しは本当にどうでもいいのですから続きを!!
 二人で満足するまで頷いた後、アルノ―さんはその理由を教えてくれたわ。

「何しろ我が国の。少しでも近寄ろうとする女を視線で射殺さんばかりに睨みつけるって話だからなぁ。あれじゃあどんなに男前でも結婚は当分無理じゃろう」

 極度の女嫌い……か。

 暫く他愛のない話をしてからジジイ様達とお別れをし、残りの買い物を済ませて帰宅した。
 そして翌日、つまり今ね。
 家事を済ませてからオーク肉の赤ワイン煮込みをコトコトと弱火でじっくりと煮込みながら昨日聞いた話を思い出していた。
 

 ルガート王○○陛下?
 あれから七年と半年。
 たった一度きり、然も殆ど陛下の顔を見ていない。
 今お会いした所で誰が陛下かなんてわからないわね。
 それに一度しか聞いていない名前さえも忘れているわ。
 元々覚えたいとも思わなかったというか、そんな感情さえあの時は存在しなかったわ。

 声?

 顔も名前も覚えていないのに声なんて覚えようがないでしょ。
 あの時は本当に何も分からず何も知らず、私は結婚証明書にサインを済ませた後この離宮へ押し込められたという事実だけ。

 まぁ偶然にも昨日結婚して七年も経過し初めてこの国や陛下について少しわかったわ。
 この国はほんの二年前まで厳しい戦争状態であった事。
 またシャロンとの因縁めいた関係もあるからこそ、ライアーンの選んだ行動は許せないのでしょうね。
 それが私を思う親心から取った行動だとしても……。

 だからあの時お父様は私をお捨てになればよかったのよ。
 そうすればライアーンはルガートと今までの様な関係であった筈。
 とは言えこの七年の間両国間が今どの様な関係になっているのかさえ今の私には知る術はない。
 ただわかるのは買い物へ出た際に市場で売っている品物の中にの小麦やその他の品物が出回っている。

 少なくともライアーンは国としてまだ存在しているし、国民や家族が元気でいるのだと信じたい。

 何故なら私はその為にこの国へ来たの。
 敗戦国の人質……とは言え余り後ろ向きに考えてはいけないと最近になり少しずつそう思えるようになったわ。
 でもあの時お父様が私を捨ておいて下されば被害は私一人だけだったのも事実。
 その結果故国や国民、そしてアナベルの人生も変わらずにすんでいたでしょうね。

 あの頃はまだ8歳だったとはいえ私は王女。

 国の為ならばとるに足らないこの命、喜んで国へ捧げられた。
 抑々国や国民を護る為に王族は存在する筈。
 あの時そうしなかった時点で私は王族として失格なのかもしれない。

 何故なら私の存在故に愛する故国を危機に晒してしまった。
 私の本意ではないにしろお父様へきちんと説得出来なかった事が私の罪。
 とは言えこの国に一生……それこそ骨になるまでいる心算はない。
 陛下も七年前の戦争で先の陛下であられた父王陛下を亡くされ即位したばかりの22歳だったとか。
 そう後二年半もすれば私なりの贖罪は終わるわ。

 完全に一方的なものだけれど余り深くは考えない事にするわね。

 食材を終えれば晴れて私達は、私は第三国へ脱出するの。
 紙切れ上の忘れられた王妃がいなくなればよ。
 今は物凄く女性が嫌いだと言うけれど王たる者、子を成し次代へ引き継ぐ事も大切なお仕事の一つだもの。
 即位して十年も経てばもう女性が嫌いだなんて我儘も言っていられない筈。

 そこで陛下の足枷ともなっている邪魔な私がいなくなれば、陛下にとっても最良の王妃を娶る事も可能でしょう?
 有り難い事に私の存在は国内では全く知られてないみたいだし、まして王宮内でも忘れられた存在に等しいと言うか実質そうなのだもの。

 後は結婚証明書と言う証拠を竈の火の中にでもくべて燃やしてしまえば問題なし。


 そうすれば誰も何も困らない。
 陛下も幸せになれるし私達も自由になる。

 譬え私達がいなくなってもライアーンには戻らないから問い質した所で祖国は何も知らないとしか答えられない。
 その為に私は祖国には私達の境遇について何も伝えてはいないし、手紙や物も送ってこない様にとちゃんと言い含めてある。

 今まで出来るだけこの国で私達の存在を知られない様に暮らしてきたのだもの。
 だから後二年半絶対に上手くやって見せるわ!!

 私達がいえ、ひいては皆が幸せになる為に何としてもやり遂げてみせる!!

 そうして一人台所で小麦粉塗れになった手に力を込め、私ははしたなくもガッツポーズをしていたの。
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