上 下
23 / 122
第二章  過去から現代へ向かって ~過去二年半前

1  本当に知らない? Sideエヴァ

しおりを挟む


 素敵な第一回目のお給料日より時は駆け足で過ぎていく。
 気づけば勤め始めて半年が経過していたわ。

 毎日が本当に楽しいの。
 月、水、金曜日は診療所で働き、火、木、土曜日は仕事の帰りに購入した食材で料理の下拵したごしらえや菜園の手入れ等をして過ごしている。
 そして日曜日はアナベルと二人一緒にお休みの日。

 アナベルと共に過ごせる貴重な時間。

 一緒に家事をし終われば我が家唯一の贅沢品でもある紅茶と自家製クッキーで、この一週間にお互いについてを話し合う大切な時間とき
 また報告会が終われば明るい未来についてどの国へ逃げて行くのか、旅費や交通機関等をどう調べるのかを話し合う。
 残り二年半となった夢の自由よ。
 話題が尽きる事なんてないわね。

 勿論その合間に半ば強制的に行われる体術の稽古は今も現在進行形で行われている。
 アナベルってばそちら方面に関して少しも手加減をしてくれないの。
 だけど実際問題として私はどうやら体術の才能には恵まれていないらしい。

 何故なら理由は簡単。
 私はアナベルが匙を投げ出したくなるくらいのだからよ。

 私も頑張ってはいるの。
 運動は苦手だけれどアナベルが丁寧に教えてくれるのですもの。
 少しは成長した姿を見て貰いたい。
 頑張っている証拠に身体中至る所へ青痣が出来るのだけれど、少しも体術が習得出来ないというのはもう天才としか言いようがない。


 そうして週明けの月曜日、何時もの様に仕事帰りに市場で買い物をしていると、通りにある酒場の前で先生の患者さんのアルノーさんとバヌロさんと言う愉快なジジイ様達と出会ったわ。
 向こうも私に気が付いたらしく、ほろ酔い加減で紅色に頬を染めながら陽気な感じで声を掛けてきたの。

「お、フィオちゃんじゃねぇか?おーいフィオちゃーん」
「あらどうしたのですか?お二人共まだお日様が高い時間から酔っていらしているのですか?」
「いいのいいの。今日はいいんだよ」

 一体何が良いのだか、この酔っ払いジジイども!!

 あら、下品な物言いになってしまったわほほ……。
 とは言え折角処方された鎮痛剤の効き目が弱くなるのに、本当に一体何が良いのか私にはわからない。
 それでも二人の陽気なジジイ様達は楽しそうにお酒を飲んでいた。

「いや~平和はいい!! ホントーに平和ってもんはいいねぇ」
「あぁ平和が一番だな!!」

 平和が一体どうしたのかしら?
 そう言えば少なくとも私が働きに出た頃よりこの国で戦の話は聞いてないわね。

 怪訝そうにしている私へアルノーさん達は実に嬉しそうに教えてくれた。
 そう二年前の今日ルガートは漸く全ての戦争が終結したのだと言う。
 争っていた国とは同盟を結んだり中には属国となった国もあるのだとか。

 だからなのね。
 二人が今と言う日を心から喜んでいるのは……。

 また二人だけでなく周りの人達も何処か笑顔に満ち溢れている。
 皆で平和な日常に幸せを感じている。
 人質同然で嫁いできた時もずっと戦争は続いていたわ。
 紙切れ上の、肩書だけとはいえ王妃である私は何時戦争が終結したのかも知らされなかったし知らなかった。
 その事実にほんの少し胸がつきんと痛い。


「んーいやだけどなぁ。やっと平和になったんだしそろそろ王様にも嫁さん迎えてもらわねぇといけないよな」
「あぁそうだな。だけど――――」

 ん?
 今なんて?
 まさかですけれどもしかして?
 陛下七年半前よりは既婚者ですけど……って、本当に国民の誰もが
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)
SF
 空色の髪をなびかせる玉虫色の騎士。  それは王位継承戦に持ち出されたチェスゲームの中で、駒が取られると同事に現れたモンスターをモチーフとしたロボット兵”盤上戦騎”またの名を”ディザスター”と呼ばれる者。  彼ら盤上戦騎たちはレーダーにもカメラにも映らない、さらに人の記憶からもすぐさま消え去ってしまう、もはや反則レベル。  チェスの駒のマスターを望まれた“鈴木くれは”だったが、彼女は戦わずにただ傍観するのみ。  だけど、兵士の駒"ベルタ”のマスターとなり戦場へと赴いたのは、彼女の想い人であり幼馴染みの高砂・飛遊午。  異世界から来た連中のために戦えないくれは。  一方、戦う飛遊午。  ふたりの、それぞれの想いは交錯するのか・・・。  *この作品は、「小説家になろう」でも同時連載しております。

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...