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第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
13 大発見 Sideエヴァ
しおりを挟むマックス先生がお茶を淹れるからちょっと待っていて……と言われたわ。
でも今までお産にかかりきりで疲れている先生にお茶を淹れて貰うのは何となく気が引けたのよね。
だから場所さえ教えて貰えれば私が淹れますからと申し出て案内された台所を見た瞬間――――。
OMG⁉
信じられなかったと言うよりも寧ろ見たくはなかった!!
案内された台所は足の踏み場らしい場所は多少ある。
しかし流し台には無数の然もかピカピに汚れが乾燥しこびり付いているだろう食器だけではない。
何だろう何処からか、場所の特定は出来ないけれども異臭が漂っている。
おまけに台所内で蠅がブンブン物凄く生き生きと飛んでいるし、よく見ればそれは何も台所だけではない。
普通に今までいただろう診療所も埃だらけだった!?
よくもこんな汚い場所に住んでいられるものだと思ったわ。
然もこのゴミ溜めの中にある何れかのカップで私へとお茶を淹れて出す心算だったのかと察すれば、その不衛生さの余りに身体がぷるりと震えてしまう。
兎に角よ!!
こうしていても何も進まない。
私は素早く腕を捲ればそのまま何も言わず粛々と台所の掃除を始めたわ。
当然マックス先生は止めたの……だけど!!
「この様な非常に人外レベルの不衛生な所でお茶を出されたくはありませんわ。なので先生はその間で休憩でもしていて下さい」
言うだけ言って私は一心不乱に掃除へ専念したわ。
離宮へ連れて行かれた時も余りの汚さに驚いたけれども、この診療所とは比べられないくらいにまだ綺麗だったのね。
掃除をし始め少し経った頃かしら。
冷静さを取り戻し掃除をしながら考えると、行き成り初対面の小娘に家の中を掃除されるってのも十分あり得ない事だわ。
それに一応淑女致しましてもこんな強引な方法は少しはしたないと反省をするけれどもそれはもう後の祭り。
何も気づかなかって体でごみを集め床を掃き、手際よくモップで拭き掃除をする。
机の上や棚も拭き掃除をしてから汚れ物を洗っていく。
当然窓も開けて蠅さん何処かへ飛んで行け~。
約二時間経過した頃心配そうに覗きに来たマックス先生は直立不動になっていた。
「まるで他所の家の台所みたいだね」
「いえいえここはお間違いなくマックス先生のお台所ですよ。さぁお茶を淹れましたわ」
ぴかぴかになった台所でお茶を淹れ先生にお出ししたの。
先生は何だか少し落ち着かない様子だったけれど、それでも私が淹れたお茶を『美味しい』と喜んでくれたわ。
それから暫くの間私達は雑談を交えて色々話し合ったの。
どうやらマックス先生は独身貴族街道爆走中。
なんでも先の戦……そんなの何時あったのかは知らないわ。
まぁ私が知らないだけで先生は軍医として従軍していたらしい。
現在は束の間の平和が訪れたので王都にて新しく診療所を開く事になったのだけれど、これが中々一人だと上手く回らないのが問題とか。
家事や診療のお手伝いをする人がいないか探しているのだけれど、思っていた以上にこれと思う人には巡り合わなくて困っているのですって。
一方私は現在お仕事絶賛お探し中だけれどアナベルの条件が厳しくて、これまた中々お仕事が決まらない。
とは言え何時までも時間を無駄には出来ないし、後三年すれば予定ではこの国より出て行くのだもの。
だから時間の許す限りは働きたい。
「だったら簡単だよ。どうか僕の仕事を手伝ってはくれないだろうか」
「はい?」
「僕の所だったら君のお姉さん(アナベルの事ね)の条件に合うと思うよ。ここでは家事をして貰って残り時間は診療の受け付けや僕の手伝いをして貰えると凄く助かる。あぁ勿論時間もちゃんと条件通りでいいからね。若いお嬢さんを遅くまで働かせるなんて鬼畜な事はしないから。それから給金は毎月65000ルトでどうかな?」
ゴクン――――。
65000……ルトですって⁉
家の掃除に受付と診療の手伝いで……た、確かアナベルのお給料は多くても50000ルトだった筈。
これはもしかしなくとも物凄く破格なお仕事ではなくって。
私の出来る事でこんなにお給料が頂けるなんて、これを断ればこんなに言い条件の職場はもう次は見つからないわ。
「本当に私でいいのですか?実は私、働くのは初めてなのです。それにまだ15歳なので……」
「15歳ならこの国では立派な大人だよ。それに君はさっきのお産も僕の指示通りにちゃんと動いてくれたじゃないか。家事も問題なさそうだしね。僕の方こそ是非とも君に働いて貰いたいんだ。え……っと名前は?」
名前……そう実名はいけない。
バレる可能性がないとは言い切れないもの。
だけどいきなり聞かれてもって私の名前、名前はエヴァンジェリン・シャーリーン・フィオナ・オブライアンとは絶対言えないから、もっと短くて呼びやすい……フィオナ、フィオ。
そうフィオなら万が一にもバレる事はない。
「私の事はフィオと呼んで下さい」
私はマックス先生に笑顔で偽りの名を告げる。
マックス先生は素直に『フィオって可愛い名前だね』と言ってくれた。
最初の出勤日は明後日の金曜日。
私はお茶の後片付けをしマックス先生にこれから宜しくお願いしますと挨拶をして帰路へと着いた。
かくしてハプニングが転じて私は漸く就職先を見つけたのである。
※1ルトは1円です。
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