11 / 122
第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
6 過去三年前 Sideエヴァ
しおりを挟むひっそりと大人しくそして慎ましやかに、またより一層節約に勤しみつつ私とアナベルはそこそここの離宮で平和に暮らしていた。
この国へ来てからというものどうやら頻繁に戦争がある様で、衛兵や騎士達の怒号めいたモノが聞こえてくるのが正直煩い。
敢えて言えば一種の騒音被害ね。
故国ライアーンにはなかったわ。
確かに騎士団は存在している。
でもそれは戦で戦うのではなく国を護るもの。
軍事国家であるこの国において戦争とは日常茶飯事なのかもしれない。
でも私は好きになれないしこの環境に慣れたくはない。
ただこの離宮は主となる王宮より少し離れた場所にあり、然も奥裏にあるものだから表立ってはっきりとした喧噪は余り聞こえてはこない。
私がこの国へ来て七年が経過したわ。
以前に比べ戦争へ赴く騎士達の士気を上げる為だろう怒号も少しは減ってきている様な気もする。
とは言えそんな事は私にしてみればどうでもいい。
あぁこの七年間、本当に誰の訪れもなかったのは流石に笑ってしまうわね。
陛下でなくともアナベル以外の、そうルガートの人間がここへ突然訪れられても困ったでしょう。
ふふ、これでも肩書上私はこの国の王妃なのにね。
でもここまでいない者扱いをされると返って計画を実行する時に要らない感情を抱かなくていいわ。
それに私にはこの国の王妃なんて肩書さえも最早邪魔なものでしかない。
元々好き好んで嫁した訳でもない。
ただの人質。
そう後三年。
もう直ぐなの。
後もう少しだけ我慢すれ私達は晴れて自由の身となるわ。
最初はどうなる事かと思ったけれど、やってみれば本当に何とかなるものね。
今では家事が終わったら本を読む時間まであるのですもの。
そうそうこの離宮にはちゃんとした図書室もあって、私の興味のある蔵書が沢山あるからこうして手の空いた時は読書をして過ごすのが最近の日課となっている。
話は変わり実は昨年より私とアナベルは事あるごとに言い合いをしている。
原因は簡単、つまり私も街へ出て働く事。
何故ならこの七年もの間私は一度だけしか外へ出ていないと言えばいいのか、ただ単に出る事が出来ないだけ。
然も隠し通路の出口である祠までなのだけれど……。
それでもそこまで出られた事は私にしてみれば大きな一歩だったの。
あの日勇気を奮い隠し通路を這っている間、恐怖に包まれ変な汗を一杯掻いてしまったのだもの。
今思い出してもほら、胸がまだドキドキしてしまう。
アナベルは私みたいな世間知らずが一人で外へ出れば直ぐに攫われてしまうと言うの。
でも実際後三年経てば私達はこの国を離れ第三国で、恐らく平民として生きていく予定よ。
何時までもアナベルばかりに働かせるのではなく、私自身も自立しなければいけない。
私はもう護られるだけの王女ではなくなるの。
計画を決行するまでに何としても外に慣れないといけないのよ。
風の便りによれば祖国では、あの後お母様は王子!!
そう私の弟をお産みになったらしい。
だからもうライアーンに私は必要ないの。
三年後私が意気揚々と帰国すれば返ってルガートの怒りを買う事になる恐れがあるのかもしれない。
折角元の平和を取り戻せるのだもの。
私の我儘でまた国を傾けるなんて絶対に出来ない。
従って私の脱出先は必然的にライアーン以外の国となる。
でも出来ればアナベルにはライアーンへ帰って欲しいと思っているの。
元はと言えば私の所為で彼女の大切な乙女の時間を奪わせる形になってしまった。
本心でアナベルには後三年と言う時間は申し訳ないと思うわ。
でもその後私と離れれば彼女やベイントン伯爵家は何も咎められない筈。
それどころかアナベルとベイントン伯爵家には何か褒美を渡して欲しいくらいよ。
そんな事をアナベルと話していたら彼女は物凄く怒ってしまったの。
アナベルは死ぬまで私と離れないって声を高らかに宣言しちゃうし、いや抑々私も恋というのを一度はしてみたいわ。
現実問題アナベルだってもう結婚適齢期を過ぎ始めているのだから、このまま私と何時までも一緒という訳にもいかないでしょう?
私はアナベルの花の乙女の時間を奪ってしまったのも同然なの。
出来れば三年後ここを出た時に直ぐ彼女の幸せが見つかるといいのだけれど……。
だからこそ私は今この残された時間の間に街で働く事に慣れておかなければならないのに、アナベルってば少しもそんな私の気持ちを理解してはくれない。
本当に困ったものだわ。
何とか打開策を見つけなければいけない。
そうして暫く本を片手に熟考した私は、とある朝より行動を起こす決意をしたの。
1
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
常世の守り主 ―異説冥界神話談―
双子烏丸
ファンタジー
かつて大切な人を失った青年――。
全てはそれを取り戻すために、全てを捨てて放浪の旅へ。
長い、長い旅で心も体も擦り減らし、もはやかつてとは別人のように成り果ててもなお、自らの願いのためにその身を捧げた。
そして、もはやその旅路が終わりに差し掛かった、その時。……青年が決断する事とは。
——
本編最終話には創音さんから頂いた、イラストを掲載しました!
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない
結田龍
恋愛
「君との婚約を破棄する!」と六人目の婚約者に言われた瞬間、クリスティーナは婚約破棄の成就に思わず笑みが零れそうになった。
ヴィクトール帝国の皇女クリスティーナは、皇太子派の大きな秘密である自身の記憶喪失を隠すために、これまで国外の王族と婚約してきたが、六回婚約して六回婚約破棄をしてきた。
悪女の評判が立っていたが、戦空艇団の第三師団師団長の肩書のある彼女は生涯結婚する気はない。
それなのに兄であり皇太子のレオンハルトによって、七回目の婚約を帝国の公爵令息と結ばされてしまう。
公爵令息は世界で初めて戦空艇を開発した天才機械士シキ・ザートツェントル。けれど彼は腹黒で厄介で、さらには第三師団の副官に着任してきた。
結婚する気がないクリスティーナは七回目の婚約破棄を目指すのだが、なぜか甘い態度で接してくる上、どうやら過去の記憶にも関わっているようで……。
毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。
恋愛小説大賞にエントリーしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる