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第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
6 過去三年前 Sideエヴァ
しおりを挟むひっそりと大人しくそして慎ましやかに、またより一層節約に勤しみつつ私とアナベルはそこそここの離宮で平和に暮らしていた。
この国へ来てからというものどうやら頻繁に戦争がある様で、衛兵や騎士達の怒号めいたモノが聞こえてくるのが正直煩い。
敢えて言えば一種の騒音被害ね。
故国ライアーンにはなかったわ。
確かに騎士団は存在している。
でもそれは戦で戦うのではなく国を護るもの。
軍事国家であるこの国において戦争とは日常茶飯事なのかもしれない。
でも私は好きになれないしこの環境に慣れたくはない。
ただこの離宮は主となる王宮より少し離れた場所にあり、然も奥裏にあるものだから表立ってはっきりとした喧噪は余り聞こえてはこない。
私がこの国へ来て七年が経過したわ。
以前に比べ戦争へ赴く騎士達の士気を上げる為だろう怒号も少しは減ってきている様な気もする。
とは言えそんな事は私にしてみればどうでもいい。
あぁこの七年間、本当に誰の訪れもなかったのは流石に笑ってしまうわね。
陛下でなくともアナベル以外の、そうルガートの人間がここへ突然訪れられても困ったでしょう。
ふふ、これでも肩書上私はこの国の王妃なのにね。
でもここまでいない者扱いをされると返って計画を実行する時に要らない感情を抱かなくていいわ。
それに私にはこの国の王妃なんて肩書さえも最早邪魔なものでしかない。
元々好き好んで嫁した訳でもない。
ただの人質。
そう後三年。
もう直ぐなの。
後もう少しだけ我慢すれ私達は晴れて自由の身となるわ。
最初はどうなる事かと思ったけれど、やってみれば本当に何とかなるものね。
今では家事が終わったら本を読む時間まであるのですもの。
そうそうこの離宮にはちゃんとした図書室もあって、私の興味のある蔵書が沢山あるからこうして手の空いた時は読書をして過ごすのが最近の日課となっている。
話は変わり実は昨年より私とアナベルは事あるごとに言い合いをしている。
原因は簡単、つまり私も街へ出て働く事。
何故ならこの七年もの間私は一度だけしか外へ出ていないと言えばいいのか、ただ単に出る事が出来ないだけ。
然も隠し通路の出口である祠までなのだけれど……。
それでもそこまで出られた事は私にしてみれば大きな一歩だったの。
あの日勇気を奮い隠し通路を這っている間、恐怖に包まれ変な汗を一杯掻いてしまったのだもの。
今思い出してもほら、胸がまだドキドキしてしまう。
アナベルは私みたいな世間知らずが一人で外へ出れば直ぐに攫われてしまうと言うの。
でも実際後三年経てば私達はこの国を離れ第三国で、恐らく平民として生きていく予定よ。
何時までもアナベルばかりに働かせるのではなく、私自身も自立しなければいけない。
私はもう護られるだけの王女ではなくなるの。
計画を決行するまでに何としても外に慣れないといけないのよ。
風の便りによれば祖国では、あの後お母様は王子!!
そう私の弟をお産みになったらしい。
だからもうライアーンに私は必要ないの。
三年後私が意気揚々と帰国すれば返ってルガートの怒りを買う事になる恐れがあるのかもしれない。
折角元の平和を取り戻せるのだもの。
私の我儘でまた国を傾けるなんて絶対に出来ない。
従って私の脱出先は必然的にライアーン以外の国となる。
でも出来ればアナベルにはライアーンへ帰って欲しいと思っているの。
元はと言えば私の所為で彼女の大切な乙女の時間を奪わせる形になってしまった。
本心でアナベルには後三年と言う時間は申し訳ないと思うわ。
でもその後私と離れれば彼女やベイントン伯爵家は何も咎められない筈。
それどころかアナベルとベイントン伯爵家には何か褒美を渡して欲しいくらいよ。
そんな事をアナベルと話していたら彼女は物凄く怒ってしまったの。
アナベルは死ぬまで私と離れないって声を高らかに宣言しちゃうし、いや抑々私も恋というのを一度はしてみたいわ。
現実問題アナベルだってもう結婚適齢期を過ぎ始めているのだから、このまま私と何時までも一緒という訳にもいかないでしょう?
私はアナベルの花の乙女の時間を奪ってしまったのも同然なの。
出来れば三年後ここを出た時に直ぐ彼女の幸せが見つかるといいのだけれど……。
だからこそ私は今この残された時間の間に街で働く事に慣れておかなければならないのに、アナベルってば少しもそんな私の気持ちを理解してはくれない。
本当に困ったものだわ。
何とか打開策を見つけなければいけない。
そうして暫く本を片手に熟考した私は、とある朝より行動を起こす決意をしたの。
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