上 下
5 / 122
第一章  過去から現在へ向かって ~十年前より三年前

1  過去十~九年前 Side幼き王女エヴァ

しおりを挟む

 思い起こせば今から十年前、糞な隣国に巻き込まれる形でこのルガートへ戦を挑んで負けたのが私の運のつきと言うもの。

 当時8歳だった私を嫁に差し出せと糞な陛下が要求されて仕方なく……そう本当に仕方なくよね。
 私さえ14歳も年上のおじん……失礼、陛下の元へ輿入れすればシャロンにした様な制裁は行わないと約束された。
 だから私はたった一人の同行を許されたアナベルと一緒にこの国へ嫁いできたの。

 ただその頃の記憶は酷く曖昧。
 でもこの国へ来て理解したのは私達は歓迎されてはいないって事。
 大体8歳の幼い子供が泣く泣く親元より離れて輿入れしたと言うのによ。
 その子供でさえ分かるくらいに、それはもう室内の温度が下がる?
 いや、分厚い永久凍土の氷で固められた部屋にいるかのような錯覚をさせられるくらいな冷え冷えとした歓迎?だったのは今でもしっかりと私は根に持っている。

 陛下へ初めてお会いした、この国へ着いて早々私は謁見の間や応接の間ではなく、何故か陛下の執務室で半ば強制的に結婚証明書へサインを書かされたのが唯一この国の王妃である証拠。
 その時にちらりと垣間見た陛下は銀糸の髪に深い湖の様な冷たい蒼い色の瞳しか覚えていない。
 執務室同様にとても冷たい印象の御方だった。

 巷では『ルガートの氷帝』と呼ばれているくらい冷酷無比で仕事以外、つまりはプライベートでは徹底的に女性を嫌われている御方らしいと言うのを街の噂で知ったわね。
 国王としてはお仕事大好きで趣味特技がお仕事と言ってもいいくらいの仕事中毒ワーカーホリック
 そんな独身国王に群がるお見合い除けの為に私と言う存在は、

 また夫である陛下が雑な扱いをしてくれるから仕える者も私に対して優しくないのは当然と言えば当然。
 いやいやアナベル以外の侍女なんて私は知らない。
 優しく云々どころか抑々私達の存在を彼らは知らないと言っても過言ではない。

 この住まいもそう。
 陛下の意向かはたまた侍従や侍女達の嫌がらせによるものなのかは今となってはどうでもいい。
 ただこの離宮は確か何代か前の王の愛妾が住んでいたらしい。
 愛妾ならば兎も角、幾らなんでも一国の王妃が住む場所じゃないでしょって思ったけれど、その外見だけかと思えば中身はもっとボロボロだったわ。

 本当の意味で誰も手入れ等しない風化された状態のこの場所に住まうのは私とアナベルのたった二人。
 輿入れ前にお父様から伝え聞いたのは他の侍女やその他諸々はルガート側でするからと言っておいてよ。
 その実身の回りどころか食事の世話をしてくれる者なんて一人としていなかったのが現実。
 そうね、敢えて言うならば離宮の入口に衛兵が二名、然も外敵から私達を護る為にいるのでなく私達が逃げ出さない様に監視するのが目的らしい。

 ルガートへ到着した早々に厳しい現実を味わった私達は、ここで生き抜く為に何も出来ないお姫様って奴を捨てたの!!


 先ず私達はわからない事ばかりだけれどもこれからどうしていけばいいのかを色々話し合ったわ。
 最初に陛下へ待遇改善を願い出ようと思ったのだけど、もしこれこそが陛下の望んでいた事だとすれば願い出るだけ無駄。

 所詮我が国は間接的とはいえどもそこはしっかりと敗戦国。

   それに何故かアナベルからも止められたしね。

 まぁ8歳の子供でもわかるわよ。
 これがお互い対等な立場という結婚ではない事くらい……。

 この婚姻により国民や家族の命が護られた事だけでも善しとしなければいけない。
 アナベルの助言もあって状況改善を願い出る事は止めたの。

 しかし良くも悪くも私とアナベルはかなりポジティブというのか、現実的な性格だったから今までなんとかやってこられたのだと思う。
 普通の深窓の姫君ならばきっとこの状況は絶対に耐えられなかったでしょうね。
 勿論私は紛れもなくこの国へ来るまでは深窓の姫君として育てられたのは言うまでもないのだが、育った環境とは関係なく私の性格は少し変わっているのだと思うしそれに……。

 


 あの時の私はその泣くのが嫌だっただけ。
 それに少しばかり理由わけありで、本当に幼い頃より私は素直に泣く事が出来なかったから……。

 まぁ何れにせよ何もせずにただ泣き喚くのではなく、今出来る事を行い、どうしようもなくなった後で泣いたってきっと遅くはないだろうなと思っただけよ。
 それに今は泣けと言われても少し無理っぽいかな。
 アナベルもそんな私に多少呆れつつも、彼女自身そう言う考えの持ち主だったからこそ今の私達がいると言ってもいい。

 そうしてどちらからともなくこれからを生き抜く為に私達は行動を起こしたわ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...