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第一章 過去から現在へ向かって ~十年前より三年前
1 過去十~九年前 Side幼き王女エヴァ
しおりを挟む思い起こせば今から十年前、糞な隣国に巻き込まれる形でこのルガートへ戦を挑んで負けたのが私の運のつきと言うもの。
当時8歳だった私を嫁に差し出せと糞な陛下が要求されて仕方なく……そう本当に仕方なくよね。
私さえ14歳も年上のおじん……失礼、陛下の元へ輿入れすればシャロンにした様な制裁は行わないと約束された。
だから私はたった一人の同行を許されたアナベルと一緒にこの国へ嫁いできたの。
ただその頃の記憶は酷く曖昧。
でもこの国へ来て理解したのは私達は歓迎されてはいないって事。
大体8歳の幼い子供が泣く泣く親元より離れて輿入れしたと言うのによ。
その子供でさえ分かるくらいに、それはもう室内の温度が下がる?
いや、分厚い永久凍土の氷で固められた部屋にいるかのような錯覚をさせられるくらいな冷え冷えとした歓迎?だったのは今でもしっかりと私は根に持っている。
陛下へ初めてお会いした、この国へ着いて早々私は謁見の間や応接の間ではなく、何故か陛下の執務室で半ば強制的に結婚証明書へサインを書かされたのが唯一この国の王妃である証拠。
その時にちらりと垣間見た陛下は銀糸の髪に深い湖の様な冷たい蒼い色の瞳しか覚えていない。
執務室同様にとても冷たい印象の御方だった。
巷では『ルガートの氷帝』と呼ばれているくらい冷酷無比で仕事以外、つまりはプライベートでは徹底的に女性を嫌われている御方らしいと言うのを街の噂で知ったわね。
国王としてはお仕事大好きで趣味特技がお仕事と言ってもいいくらいの仕事中毒。
そんな独身国王に群がるお見合い除けの為に私と言う存在は、王妃という言わば虫よけ兼体のいい人質。
また夫である陛下が雑な扱いをしてくれるから仕える者も私に対して優しくないのは当然と言えば当然。
いやいやアナベル以外の侍女なんて私は知らない。
優しく云々どころか抑々私達の存在を彼らは知らないと言っても過言ではない。
この住まいもそう。
陛下の意向かはたまた侍従や侍女達の嫌がらせによるものなのかは今となってはどうでもいい。
ただこの離宮は確か何代か前の王の愛妾が住んでいたらしい。
愛妾ならば兎も角、幾らなんでも一国の王妃が住む場所じゃないでしょって思ったけれど、その外見だけかと思えば中身はもっとボロボロだったわ。
本当の意味で誰も手入れ等しない風化された状態のこの場所に住まうのは私とアナベルのたった二人。
輿入れ前にお父様から伝え聞いたのは他の侍女やその他諸々はルガート側でするからと言っておいてよ。
その実身の回りどころか食事の世話をしてくれる者なんて一人としていなかったのが現実。
そうね、敢えて言うならば離宮の入口に衛兵が二名、然も外敵から私達を護る為にいるのでなく私達が逃げ出さない様に監視するのが目的らしい。
ルガートへ到着した早々に厳しい現実を味わった私達は、ここで生き抜く為に何も出来ないお姫様って奴を捨てたの!!
先ず私達はわからない事ばかりだけれどもこれからどうしていけばいいのかを色々話し合ったわ。
最初に陛下へ待遇改善を願い出ようと思ったのだけど、もしこれこそが陛下の望んでいた事だとすれば願い出るだけ無駄。
所詮我が国は間接的とはいえどもそこはしっかりと敗戦国。
それに何故かアナベルからも止められたしね。
まぁ8歳の子供でもわかるわよ。
これがお互い対等な立場という結婚ではない事くらい……。
この婚姻により国民や家族の命が護られた事だけでも善しとしなければいけない。
アナベルの助言もあって状況改善を願い出る事は止めたの。
しかし良くも悪くも私とアナベルはかなりポジティブというのか、現実的な性格だったから今までなんとかやってこられたのだと思う。
普通の深窓の姫君ならばきっとこの状況は絶対に耐えられなかったでしょうね。
勿論私は紛れもなくこの国へ来るまでは深窓の姫君として育てられたのは言うまでもないのだが、育った環境とは関係なく私の性格は少し変わっているのだと思うしそれに……。
人間、泣くのは何時だって出来る。
あの時の私はその泣くのが嫌だっただけ。
それに少しばかり理由ありで、本当に幼い頃より私は素直に泣く事が出来なかったから……。
まぁ何れにせよ何もせずにただ泣き喚くのではなく、今出来る事を行い、どうしようもなくなった後で泣いたってきっと遅くはないだろうなと思っただけよ。
それに今は泣けと言われても少し無理っぽいかな。
アナベルもそんな私に多少呆れつつも、彼女自身そう言う考えの持ち主だったからこそ今の私達がいると言ってもいい。
そうしてどちらからともなくこれからを生き抜く為に私達は行動を起こしたわ。
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