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序章
物語が始める前に……
しおりを挟む「よいか、これは白い結婚だ!!」
放たれた一言に誰も否を唱えなかった。
これは今から約十年前――――。
隣国シャロン王国とその同盟国であるライアーン王国はシャロンからの一方的な宣戦布告により、大陸の中でも強国で知られる新興軍国家ルガート王国との戦争の火ぶたを切った。
とは言えライアーンは戦争に興味がある訳ではない。
ただとある事情にて渋々ながらも後方支援という形で加担をしたのである。
だがその戦争の結果は見事なまでに呆気なく、実に完膚なきまでにシャロン側は負けてしまった。
終戦後直ぐにルガートはシャロンを属領としその王族は一掃された。
当然ライアーンも例外ではない。
幾ら戦争当事国ではないにしろ、事情があるとは言え後方支援をしていたのだからその責任追及は免れない。
そのライアーンは緑豊かな農業国家として、この大陸で唯一の永久中立国。
その戦わない国であるライアーンが後方支援という形ではあるが今回初めて参戦をした。
然も大陸一、いや世界で最も凶悪な国と名高いシャロンの後方支援として……。
この事実に大陸全土はおろか世界中が驚愕の色を隠せなかったし、またあらゆる意味で激震が走ったであろう戦争。
なのに結果はこの有様だ。
この戦によってライアーン王は自分のみならず家族や国民までをも危険に晒してしまった。
彼は自分の首一つで何とかならないかとルガートへ交渉を持ちかける。
しかし彼の国は実に意外な要求をしたのだ。
彼の愛娘である第一王女をルガート国王へ差し出す事。
つまりはルガートへ輿入れし王妃となる事を唯一の条件としたのである。
だがその条件に王は素直に首を縦に頷く事が出来ない。
王女一人が輿入れすれば国や国民の安全は保障すると言われたのにも拘らずにだ!!
本来ならば何も躊躇する事なく即答で頷く筈。
だがそれには一つ問題があったのだ。
無論その王女が病持ち?や醜女等ではない。
王女の身体は至って健康そのもの。
その容貌は波打つ赤毛交じりの金色の髪。
然もその金色の部分はこの世界でも希少な白金。
そして珍しい髪色と遜色違わず煌めくのはエメラルドグリーンの瞳と新雪の如く白く透き通る様な白磁の肌を持った、母王妃譲りの美しい顔立ち。
しかし問題はそこではない。
敢えて問題を挙げるならばその王女がまだこの世へ誕生して八年しか経っていないと言う事実なのであろう。
齢8歳の幼い王女の夫となるのは14歳も年上で現在22歳の青年ルガート国王。
如何に王族の政略結婚は常と言われようが、まだ幼い姫に14歳も年上の男の許へ嫁げと強いるのは流石に言い難い。
王として国民を護る事に何が最善なのかは理解をしていてもだ。
やはりそこは一人の娘の父親としては悩んでしまう。
思い悩む父王を見た幼くも聡い王女は真っ直ぐに父王を見つめ静かに告げる。
王族の一員として、国民の為ならば喜んで婚姻に同意する……と。
彼女の揺るがない固い意思を確認した王は国民を護る為に泣く泣く幼き王女をルガートへ差し出した。
そうして王女はルガートへ輿入れしたものの、未だ8歳だからという理由で書類上だけの白い結婚となる。
住まいは城内にある王妃の間ではなく、一応城内ではあるが少し離れた所にある寂れた離宮で住まう事となった。
ぶっちゃけそれは軟禁若しくは監禁とも言えよう。
その証拠に王女に随行を許された者は侍女一人だけ。
後はルガート側で全てを準備していると告げられれば何も言い返せない。
敗戦国の辛い所である。
しかし蓋を開けてみれば夫となったルガート王に会ったのは後にも先にもこのただの一度きり……。
また王妃となった王女には帯同した侍女だけで、他に身の回りの世話や食事の世話をする者は誰もいない。
ただ離宮の入口には外敵にではなく、王妃達が余計な事をしないか監視をする為に衛兵が交代で立っている。
その中で幼い王妃と彼女を護る侍女の二人はひっそりと息を潜める様静かに生活をしていた?
画して王宮内でごく偶に誰からともなく囁かれるのは忘れられた王妃様。
あれから十年経った今ではその言葉自体も最早死語に等しいと言うか、実際王妃がこの国に存在しているという事実さえも知らない者の方が多い。
何しろ彼女達の存在を知っているのは衛兵の中でもごく限られた窓際族的な兵士数人だけなのだから……。
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