しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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「立てる?」

「たて、る……。」

と言ってベッドから立ち上がろうとしたがすぐにへにゃへにゃと座り込んでしまった。

「だめだ、腰に力が入らない。」

「抱くよ?」

「うー。」

横抱き、つまりお姫様抱っこにはやはりなれないみたいでとても嫌そうな反応を見せる。
昨日の夜は素直だったのにな。
抱いたままベッドの上に戻す。

「洗濯機回して朝ごはん作るから待ってて。」

「わかった。パソコンとってくれ。」

はい、と渡す。
光太は壁によりかかりながら膝の上にパソコンを置き、仕事を始めた。
俺は昨日買っておいた材料で簡単な朝食を作る。ベッドで食べられるようにサンドイッチにした。
2人分を一枚の皿に乗せてベッドサイドまで運ぶ。

「サンドイッチだ!ありがとう。」

「はい。」

ひとつ手に取ると光太の口元まで持っていく。

「いただきます。」

ちゃんと手を合わせてから食べるところも、好き。

「美味しい。」

「よかった。」

光太の手首には昨日の夜シャワーをあびる前に取った筈のバングルが戻ってきていた。俺も朝起きて一番につけたけれど、なんだかそんなところも嬉しかった。

サンドイッチを食べ終えた頃、玄関ドアを強く叩く音がした。
光太はびくりとした様子で、俺の服の裾を掴んだ。

「何だろう。」

「だめだ、行かないで。」

「とりあえずドアスコープ覗いてくるよ。」

光太がここまで言うってことはなにか事情があるのだろう。取り敢えず抜き足差し足で玄関ドアに近づくとドアスコープを覗き込む。

ドアの向こうには空木さんが立っていた。

「ねぇ、光太、空木さんだけど……。」

「え?」

「いや、だから空木さん。」

「なんだ……。開けて、開けて。」

明らかにほっとした様子の光太。何を予想してあんなに脅えていたのだろう。

「よう、理人。来てたのか。」

「空木さんこそ、どうしたんですか?」

「あっ!ちょっとまって、今着替えるから!先輩はそこで待っててください!」

ドタンバタンと聞こえてきたので慌てて手伝いに行く。

「立てないのに無理しないでよ!」

「スウェット上だけの状態でひと様の前には出られないだろ!」

押し入れの箱からジーンズを取り出し渡す。

「取り敢えずしただけ履けば上はスウェットでも大丈夫だよ!」

「そうかな??」

おーい、上がるぞー、と空木さんが声をかけてくる。

「どうぞー?」

光太はベッドに座ったまま空木さんを呼び寄せた。

「先輩、何か用ですか?」

「いや、ちょっと心配でな。近くまで来たから寄っただけだ。何も変わりないか?」

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