しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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点滴台を立て直し、先生を支えながらベッドに腰掛けさせる。
空木さんは手早く点滴を先生の腕から取り除いた。空木さんのスウェットを着ている先生。ダブダブでそれはそれでちょっと可愛いけど、先生別に小さい訳じゃなくて痩せてる……痩せすぎてる訳だから、ちょっとは肉つけて欲しいな。筋肉!とか健康的に!とか欲張ったことは言わないけど、痩せすぎなのはどうにかしなきゃ。

「何やってんだお前は。」

「なんか、足がもつれました。」

「2日もまるまる寝てればそうもなる。」

デコピン。ベチコンッ!と、めっちゃいい音したけど大丈夫か。

「つっー……。あのさ、先輩のデコピンは昔から容赦なさすぎなんですって。多分おれ、先輩にデコピンされてないで育ってたらメンサ会員とかになれてましたから。」

ぶつぶつと文句を言う先生。元気そうでなにより。ていうかこんな顔して喋る先生初めて見た。なんて言うか安心してる顔っていうか……。

「空木さんと先生、本当に幼なじみなんですね。」

「幼なじみなぁ。いや、こいつは、そうだな……ペットみたいなもんだ。よく学校の裏とか公園で、みんなで隠して飼ってる野良猫なんかいたろ?あんな感じだ。」

「高橋理人、こんな悪いおじさんの言うことは聞いたらダメだ。人を人とも思っていないことがわかったろ?な?こんな大人にだけはなったらだめだぞ。」

それを受けて空木さんはにやにやしながら先生の頭をグッとつかみ俺の方に向ける。

「理人、こんな大人にもなったらダメだぞ。」

なんだここは、ダメな大人の見本市か……。

そんなどうしようも無い会話をタラタラとしていたがハッと我に返った先生が「ていうかおれ学校休んだ連絡ってどうなってるの?!」と慌てふためき始めたので、すべて空木さんが連絡してくれた旨説明した。

「おれ、木曜の夜倒れたんだな?てことは休んだのは金曜日か。よかった、金曜は授業、持ってない。不幸中の幸いだ……。」

一気に脱力した様子の先生。

「明日は授業あるんだ。今日起こしてくれてサンキューな、高橋理人。」

「先生起きた時の第一声、そこ、うるさい、だったけどね。」

「寝てるの妨げられたら誰だってうるさいって思うだろ……。わるかったよ。ところで、あの時、なんて言ってたんだ?」

「秘密だよ。」

「気になるなー。なんだよ。悪口か?」

ばか先生。
つい今朝までの、死んだように真っ白な顔で眠り続ける先生の姿を思い出して、ぐっと涙が込み上げてきた。よかったほんとうに、よかった。

先生、いっしょに、生きようよ。

そう何度も語りかけてたんだよ。

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