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第一章 レント城塞
第四十一話 唯一の希望
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《ソムレキアの宝剣》の光が消え、テオフィルスの持つ月光石の柔らかい光が、辺りを照らし出す。
館は惨劇の残滓から解放され、分厚い埃と張り巡らされた蜘蛛の巣に人が立ち入った形跡だけを残し、何事も無かったように静まり返っている。
「お前のおかげで命拾いした。屍食鬼を追い払う貴重な石だ、凄い物を持っているな。ありがとう、これは返すよ」
マールの希少石を受け取り、割れてないか確認する。
希少石とは知らずに投げてしまったが、月光石に似て簡単には割れない石のようだ。
僕はホッとして、内懐に仕舞った。
「ここはお前にとって、つらい場所だったんだな。無理やり連れてきて、本当に悪かった」
不意にテオフィルスに優しい声で話しかけられ、小さい声で呟いたつもりだったのに、しっかり聞かれていた事に驚く。
謝った?
意外な反応に戸惑いながら、僕は宝剣を鞘に納め、わざと強がるように彼を睨みつける。
「君には処刑命令が出ている、僕を誘拐した罪だ。捕まったら確実に殺されるぞ、早く逃げろ」
それだけ言って、僕は出口に向かって走る。
外には国王軍が待機しているはずだ。
テオフィルスの危険性はよく判った、故国を救うためなら何でもするだろう。
王太子を人質に、自分達の要求を通そうとするかもしれない。
だが、扉に到達する前に、マシーナに阻まれた。
「残念ですが王太子様、まだ解放する訳にはまいりません。私達が無事逃げ延びるまで、お付き合い願います」
それでも逃げようとすると、宝剣を持つ腕を背後からテオフィルスが掴んだ。
興奮が冷めやらぬように、青い目がギラリと輝く。
「この剣は何だ? 凄い魔力を持っている。これがあれば、俺にも屍食鬼を追い払えるんじゃないのか?」
彼は宝剣を取り上げようとする。
両手で必死に宝剣を掴み彼と揉み合ったが、鍛え上げられた男の力に敵うはずもなく、振り払われそうになる。
あまりの横暴さに怒りを覚え、傷だらけの左手に思いっきり噛み付く。
これには彼も余裕を失い、容赦なく僕を床に蹴り飛ばす。
宝剣はテオフィルスの手に渡った。
「このっ!」
彼は痛みと怒りに、思わず自分の剣を抜く。
マシーナとトムニは緊張しながらお互いの顔を見、様子を見る。
相手は一国の王太子、無用な争いは避けるべきだが、〈七竜の王〉であるテオフィルスに口答えするのは、もっと勇気がいる。
腹を蹴られ痛みに苦しみながら、僕は訴える。
「その剣は、僕以外は扱えない!」
「だったらお前ごと、さらってやる。お前も竜騎士の体型だ、鍛えれば竜騎士になれる。アルマレークの竜騎士として魔王に立ち向かう方が、より早く打ち破れる。お前にとっても効率的だろう?」
彼の自分勝手な意見に、僕は憤った。
「そうして、王国を自分の物にするつもりか! 僕は王太子として、そんな事は絶対に許さない!」
「ふんっ、エステラーン王国等いらん! 俺は空に屍食鬼がいる事が許せないだけだ。アルマレーク防衛のために、屍食鬼と戦った竜騎士が何人死んだか知っているのか? エステラーン王国だけの問題じゃないと、なぜ判らない!」
セルジン王の対応への怒りを、ぶつけるように言い放つ。
傷だらけの痛みに堪え、彼は剣を僕に突き付けた。
「一緒に来てもらおう。この宝剣を取り戻したければ、俺に従え!」
生れながらの執政者の傲慢さで、見下すように命じた。
僕はその剣を手で振り払い、怒りを込めて脅した。
「僕を王国から連れ去れば、魔王はアルマレークへ向かうぞ。その宝剣を、喉から手が出るほど欲しがっているんだ。地の果てまでも、追いかけてくるぞ!」
「……」
テオフィルスは一瞬躊躇した。
先程、宝剣の魔力を見せつけられたばかりで、王太子の言葉には説得力がある。
魔王がこの剣を恐れ封じたがるのは当然、そしてこの剣を扱える者を抹殺したいと思うだろう。
マシーナが恐る恐る進言する。
[若君、悪い事は言わない……、これ以上、エステラーン王国に関わらない方がいい。我々の目的はエドウィン様を捜し出す事で、アルマレークに魔王を呼び込む事ではないはず]
[そんな事は、判っている]
彼はまるで評価でも下すように、僕をじっと見詰めている。
戦いで服がボロボロになったのは僕も同じで、女だと知られる可能性に緊張する。
「お前が、唯一の希望か?」
「え?」
意外な言葉に驚いていると、彼は蹲る僕に合わせて膝を折り、剣を置いて顔を覗き込む。
「魔王を打ち破れるのは、お前とこの剣だけなのか?」
真実を見極めるように問質す。
彼の中で何かが変化してきている事を感じ取り、僕は意外に思った。
この男、本気で魔王を倒したいんだ。
僕は蹴られて痛む腹を押さえながら立ち上がり、頷き答えた。
「そうだよ! 僕は《ソムレキアの宝剣》を持って王都ブライデインへ行き、魔王を打ち破るために存在している! ……そのために、生まれてきた」
正確には生まれ変わったのだろう。
王の子オーリンが、僕の命を生まれ変わらせた。
オリアンナではなく、オーリンとして暗黒を打ち破るために。
そしてセルジン王を助け出すために生きる。
テオフィルスは頷き立ち上がり、自分の剣を鞘に収め、宝剣を返しながら薄笑いを浮かべて言った。
「判った。ではその旅に、俺も同行しよう」
「……はぁ?」
宝剣を手にした僕と、マシーナ、トムニは絶句した。
館は惨劇の残滓から解放され、分厚い埃と張り巡らされた蜘蛛の巣に人が立ち入った形跡だけを残し、何事も無かったように静まり返っている。
「お前のおかげで命拾いした。屍食鬼を追い払う貴重な石だ、凄い物を持っているな。ありがとう、これは返すよ」
マールの希少石を受け取り、割れてないか確認する。
希少石とは知らずに投げてしまったが、月光石に似て簡単には割れない石のようだ。
僕はホッとして、内懐に仕舞った。
「ここはお前にとって、つらい場所だったんだな。無理やり連れてきて、本当に悪かった」
不意にテオフィルスに優しい声で話しかけられ、小さい声で呟いたつもりだったのに、しっかり聞かれていた事に驚く。
謝った?
意外な反応に戸惑いながら、僕は宝剣を鞘に納め、わざと強がるように彼を睨みつける。
「君には処刑命令が出ている、僕を誘拐した罪だ。捕まったら確実に殺されるぞ、早く逃げろ」
それだけ言って、僕は出口に向かって走る。
外には国王軍が待機しているはずだ。
テオフィルスの危険性はよく判った、故国を救うためなら何でもするだろう。
王太子を人質に、自分達の要求を通そうとするかもしれない。
だが、扉に到達する前に、マシーナに阻まれた。
「残念ですが王太子様、まだ解放する訳にはまいりません。私達が無事逃げ延びるまで、お付き合い願います」
それでも逃げようとすると、宝剣を持つ腕を背後からテオフィルスが掴んだ。
興奮が冷めやらぬように、青い目がギラリと輝く。
「この剣は何だ? 凄い魔力を持っている。これがあれば、俺にも屍食鬼を追い払えるんじゃないのか?」
彼は宝剣を取り上げようとする。
両手で必死に宝剣を掴み彼と揉み合ったが、鍛え上げられた男の力に敵うはずもなく、振り払われそうになる。
あまりの横暴さに怒りを覚え、傷だらけの左手に思いっきり噛み付く。
これには彼も余裕を失い、容赦なく僕を床に蹴り飛ばす。
宝剣はテオフィルスの手に渡った。
「このっ!」
彼は痛みと怒りに、思わず自分の剣を抜く。
マシーナとトムニは緊張しながらお互いの顔を見、様子を見る。
相手は一国の王太子、無用な争いは避けるべきだが、〈七竜の王〉であるテオフィルスに口答えするのは、もっと勇気がいる。
腹を蹴られ痛みに苦しみながら、僕は訴える。
「その剣は、僕以外は扱えない!」
「だったらお前ごと、さらってやる。お前も竜騎士の体型だ、鍛えれば竜騎士になれる。アルマレークの竜騎士として魔王に立ち向かう方が、より早く打ち破れる。お前にとっても効率的だろう?」
彼の自分勝手な意見に、僕は憤った。
「そうして、王国を自分の物にするつもりか! 僕は王太子として、そんな事は絶対に許さない!」
「ふんっ、エステラーン王国等いらん! 俺は空に屍食鬼がいる事が許せないだけだ。アルマレーク防衛のために、屍食鬼と戦った竜騎士が何人死んだか知っているのか? エステラーン王国だけの問題じゃないと、なぜ判らない!」
セルジン王の対応への怒りを、ぶつけるように言い放つ。
傷だらけの痛みに堪え、彼は剣を僕に突き付けた。
「一緒に来てもらおう。この宝剣を取り戻したければ、俺に従え!」
生れながらの執政者の傲慢さで、見下すように命じた。
僕はその剣を手で振り払い、怒りを込めて脅した。
「僕を王国から連れ去れば、魔王はアルマレークへ向かうぞ。その宝剣を、喉から手が出るほど欲しがっているんだ。地の果てまでも、追いかけてくるぞ!」
「……」
テオフィルスは一瞬躊躇した。
先程、宝剣の魔力を見せつけられたばかりで、王太子の言葉には説得力がある。
魔王がこの剣を恐れ封じたがるのは当然、そしてこの剣を扱える者を抹殺したいと思うだろう。
マシーナが恐る恐る進言する。
[若君、悪い事は言わない……、これ以上、エステラーン王国に関わらない方がいい。我々の目的はエドウィン様を捜し出す事で、アルマレークに魔王を呼び込む事ではないはず]
[そんな事は、判っている]
彼はまるで評価でも下すように、僕をじっと見詰めている。
戦いで服がボロボロになったのは僕も同じで、女だと知られる可能性に緊張する。
「お前が、唯一の希望か?」
「え?」
意外な言葉に驚いていると、彼は蹲る僕に合わせて膝を折り、剣を置いて顔を覗き込む。
「魔王を打ち破れるのは、お前とこの剣だけなのか?」
真実を見極めるように問質す。
彼の中で何かが変化してきている事を感じ取り、僕は意外に思った。
この男、本気で魔王を倒したいんだ。
僕は蹴られて痛む腹を押さえながら立ち上がり、頷き答えた。
「そうだよ! 僕は《ソムレキアの宝剣》を持って王都ブライデインへ行き、魔王を打ち破るために存在している! ……そのために、生まれてきた」
正確には生まれ変わったのだろう。
王の子オーリンが、僕の命を生まれ変わらせた。
オリアンナではなく、オーリンとして暗黒を打ち破るために。
そしてセルジン王を助け出すために生きる。
テオフィルスは頷き立ち上がり、自分の剣を鞘に収め、宝剣を返しながら薄笑いを浮かべて言った。
「判った。ではその旅に、俺も同行しよう」
「……はぁ?」
宝剣を手にした僕と、マシーナ、トムニは絶句した。
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