36 / 136
第一章 レント城塞
第三十五話 テオフィルスの脅威
しおりを挟む
「正直に言え、お前は女だろ? 言わないと、服を剥いで確かめるぞ!」
僕をベッドに押さえ付けるテオフィルスが、顔を近付け容赦ない言葉で脅しをかける。
「何の事か、解らない。君は、誰と勘違いしている? 僕は、男だ! 放せ、無礼者!」
僕は怒りの表情を浮かべ、彼を押しのけようともがいたが、長身で鍛え上げられた身体はビクともしない。
左手を掴ませて、魔力が無い事を認識させれば、別人と思うだろう。
それなのに暴れる両手は、いとも簡単に頭上に押さえつけられ、彼の手が身体をまさぐり始めた。
厚手の服に阻まれて、体形が露わになる事は無い。
胸は晒できつく巻き、股は男子を装う為の股袋があり、触れたぐらいで気付かれる事はない。
だが、服を剥ぎ取られれば成す術がない。
仮にも婚約者かもしれない相手に、よくこんな事出来るな!
嫌ってやるぞ!
自分で招いた事態だが、本能的な恐怖と憤りを覚える。
この危機を回避出来るものなら……、そんな勢いで精一杯睨み付け、虚勢を張る。
「別にお前を陵辱する訳じゃない、確かめたいだけだ。お前とエアリス姫は同一人物だろう? お前は……、俺を惹き付ける、その理由が知りたい。オリアンナ姫なのか?」
僕の表情を読み取ろうとするテオフィルスの瞳には、不思議な熱が垣間見える。
まるで愛の告白のような彼の言葉に、僕の鼓動が大きく脈打つ。
その熱に呑まれないように、冷静になろうと必死に歯を食いしばる。
彼の手が腰のベルトに手を掛けた。
簡単には剥ぎ取れない服を着ているが、僕は恐怖と憤りに声を荒げる。
「別人だって、言っているだろう! それは、エアリスだ。僕に変装して城を脱け出し、僕の名を語る。昔から彼女の悪ふざけだよ!」
テオフィルスは息がかかる程顔を近づけ、脅すように笑う。
「嘘をつくな! オリアンナ姫が死んだというのも嘘だ。ただの領主の養子が、国王軍の何重もの警備の中にいるのはなぜだ? お前がオリアンナ姫だからだ!」
彼の手がベルトを外し始めた。
国王軍に追い詰められているのが、目に見えて解る。
危険を冒してここまで来たのだ、見付け出すまで、どんな事でもするだろう。
肩を掴む手に力が入り、僕は痛みに顔を歪める。
「そんな事をしたら、間違いなく王に殺されるぞ!」
「構うものか、嘘つきめ! アルマレーク人の体型は、誤魔化せないぞ」
彼は完全に僕のベルトを外してしまった。
僕はあからさまに嫌悪の表情を浮かべながら、別人を装い叫んだ。
「知らないのか、異国人! 僕のような体型は、普通に国民の中にもいる。君は今の行為で、完全に処刑される。王太子に対する不敬罪だ、覚悟しろ!」
「王太子?」
テオフィルスが一瞬手を止め、焦燥感を滲ませながら疑念に僕の外見を再確認する。
訝しむ彼の顔に、隙を衝くように頭付きを食らわせ、押さえられた両手が自由になり、左手で拳を突き出す。
咄嗟に避けた彼は、右手で僕の左手を掴み、反撃の拳を振り上げた。
だが、拳は振り下ろされなかった。
気が付いたのだ、僕の左手に魔力を感じ取れない事に。
「お前は、誰だ?」
それでもまだ、僕の身体の上から退こうとしない。
「僕は、オーリン・トゥール・ブライディン。この国の王太子だ!」
テオフィルスは驚愕に青ざめ、僕から離れた。
完全に別人だと、信じたのだ。
次期国王では、警備の厳重さも意味が通る。
エステラーン王国の根幹を大いに揺るがした事に、王の容赦無い怒りを受け止める覚悟を、彼は必死に心の中でかき集めている。
「エステラーン王国の《王族》は、純血を貴ぶと聞いている。でも、お前にはアルマレーク人の血が入っている。本当に王太子なのか?」
「純血は、ほとんど殺された。父は《王族》で、母はエステラーン人だ。なぜ僕にアルマレーク人の姿が現れたのかは判らない。でも、セルジン王から王太子として扱われているのは確かだ!」
王太子オーリンとして与えられた設定を、もっともらしく伝える。
父が《王族》であれば、アルマレークと関わりはなくなる。
テオフィルスは目に見えるほど失望を露わにし、ベッドから離れた。
僕は恐怖の余波で、身体が小刻みに震えるのを悟られないようにしながら、乱された服を整えベルトを締め直した。
ベッドから起き上がり、床に飛ばされた短剣を取り、彼を警戒して鞘から抜き構える。
「アルマレークへ、今すぐ帰れ! この状況は、僕がもみ消す」
「……俺に恩を売っても、何も出ないぜ」
「君はエアリスを助けた。だから、見逃してやる」
そう言う僕を、彼は無表情で見つめている。
引き込まれそうな青い瞳には、救国と情念の炎が宿り、暗く揺らめく。
「エアリス姫は、何処にいる?」
「知らない。陛下が何処かで治療させているはずだ。命に係わる大怪我で、死んでしまうかもしれない」
「……俺なら治せる、会わせてくれ」
僕は呆れた素振りで、首を横に振り否定する。
「そんな事をすると思うのか? 僕を人質に取っても、陛下はエアリスを優先する。二人は愛し合っているんだ、君は近寄る事さえ許されないよ」
「そうなりたい」という願望の入った発言だが、テオフィルスには打撃だったらしく、苦しみの表情で僕から視線を逸らした。
本気で僕を、連れ帰るつもりなんだ。
僕をベッドに押さえ付けるテオフィルスが、顔を近付け容赦ない言葉で脅しをかける。
「何の事か、解らない。君は、誰と勘違いしている? 僕は、男だ! 放せ、無礼者!」
僕は怒りの表情を浮かべ、彼を押しのけようともがいたが、長身で鍛え上げられた身体はビクともしない。
左手を掴ませて、魔力が無い事を認識させれば、別人と思うだろう。
それなのに暴れる両手は、いとも簡単に頭上に押さえつけられ、彼の手が身体をまさぐり始めた。
厚手の服に阻まれて、体形が露わになる事は無い。
胸は晒できつく巻き、股は男子を装う為の股袋があり、触れたぐらいで気付かれる事はない。
だが、服を剥ぎ取られれば成す術がない。
仮にも婚約者かもしれない相手に、よくこんな事出来るな!
嫌ってやるぞ!
自分で招いた事態だが、本能的な恐怖と憤りを覚える。
この危機を回避出来るものなら……、そんな勢いで精一杯睨み付け、虚勢を張る。
「別にお前を陵辱する訳じゃない、確かめたいだけだ。お前とエアリス姫は同一人物だろう? お前は……、俺を惹き付ける、その理由が知りたい。オリアンナ姫なのか?」
僕の表情を読み取ろうとするテオフィルスの瞳には、不思議な熱が垣間見える。
まるで愛の告白のような彼の言葉に、僕の鼓動が大きく脈打つ。
その熱に呑まれないように、冷静になろうと必死に歯を食いしばる。
彼の手が腰のベルトに手を掛けた。
簡単には剥ぎ取れない服を着ているが、僕は恐怖と憤りに声を荒げる。
「別人だって、言っているだろう! それは、エアリスだ。僕に変装して城を脱け出し、僕の名を語る。昔から彼女の悪ふざけだよ!」
テオフィルスは息がかかる程顔を近づけ、脅すように笑う。
「嘘をつくな! オリアンナ姫が死んだというのも嘘だ。ただの領主の養子が、国王軍の何重もの警備の中にいるのはなぜだ? お前がオリアンナ姫だからだ!」
彼の手がベルトを外し始めた。
国王軍に追い詰められているのが、目に見えて解る。
危険を冒してここまで来たのだ、見付け出すまで、どんな事でもするだろう。
肩を掴む手に力が入り、僕は痛みに顔を歪める。
「そんな事をしたら、間違いなく王に殺されるぞ!」
「構うものか、嘘つきめ! アルマレーク人の体型は、誤魔化せないぞ」
彼は完全に僕のベルトを外してしまった。
僕はあからさまに嫌悪の表情を浮かべながら、別人を装い叫んだ。
「知らないのか、異国人! 僕のような体型は、普通に国民の中にもいる。君は今の行為で、完全に処刑される。王太子に対する不敬罪だ、覚悟しろ!」
「王太子?」
テオフィルスが一瞬手を止め、焦燥感を滲ませながら疑念に僕の外見を再確認する。
訝しむ彼の顔に、隙を衝くように頭付きを食らわせ、押さえられた両手が自由になり、左手で拳を突き出す。
咄嗟に避けた彼は、右手で僕の左手を掴み、反撃の拳を振り上げた。
だが、拳は振り下ろされなかった。
気が付いたのだ、僕の左手に魔力を感じ取れない事に。
「お前は、誰だ?」
それでもまだ、僕の身体の上から退こうとしない。
「僕は、オーリン・トゥール・ブライディン。この国の王太子だ!」
テオフィルスは驚愕に青ざめ、僕から離れた。
完全に別人だと、信じたのだ。
次期国王では、警備の厳重さも意味が通る。
エステラーン王国の根幹を大いに揺るがした事に、王の容赦無い怒りを受け止める覚悟を、彼は必死に心の中でかき集めている。
「エステラーン王国の《王族》は、純血を貴ぶと聞いている。でも、お前にはアルマレーク人の血が入っている。本当に王太子なのか?」
「純血は、ほとんど殺された。父は《王族》で、母はエステラーン人だ。なぜ僕にアルマレーク人の姿が現れたのかは判らない。でも、セルジン王から王太子として扱われているのは確かだ!」
王太子オーリンとして与えられた設定を、もっともらしく伝える。
父が《王族》であれば、アルマレークと関わりはなくなる。
テオフィルスは目に見えるほど失望を露わにし、ベッドから離れた。
僕は恐怖の余波で、身体が小刻みに震えるのを悟られないようにしながら、乱された服を整えベルトを締め直した。
ベッドから起き上がり、床に飛ばされた短剣を取り、彼を警戒して鞘から抜き構える。
「アルマレークへ、今すぐ帰れ! この状況は、僕がもみ消す」
「……俺に恩を売っても、何も出ないぜ」
「君はエアリスを助けた。だから、見逃してやる」
そう言う僕を、彼は無表情で見つめている。
引き込まれそうな青い瞳には、救国と情念の炎が宿り、暗く揺らめく。
「エアリス姫は、何処にいる?」
「知らない。陛下が何処かで治療させているはずだ。命に係わる大怪我で、死んでしまうかもしれない」
「……俺なら治せる、会わせてくれ」
僕は呆れた素振りで、首を横に振り否定する。
「そんな事をすると思うのか? 僕を人質に取っても、陛下はエアリスを優先する。二人は愛し合っているんだ、君は近寄る事さえ許されないよ」
「そうなりたい」という願望の入った発言だが、テオフィルスには打撃だったらしく、苦しみの表情で僕から視線を逸らした。
本気で僕を、連れ帰るつもりなんだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

竜帝国と光彩の乙女
天瀬 澪
ファンタジー
竜帝国ルトアーナ。
五つの大陸に分かれているこの国では、それぞれの特性を持つ竜と人が共存していた。
光の竜王キアラは、竜騎士団長アベルのパートナーとして日々を過ごしていた。
しかし、竜帝国を脅かす存在となる闇の竜王が現れ、キアラは致命傷を負ってしまう。
命の灯火が消える寸前、キアラの前に竜神が姿を見せる。竜神から持ちかけられた提案は、同じように命が消えかけている人間の体にキアラの魂を入れることだった。
アベルと話してみたいと思い提案を受け入れたキアラは、病弱な伯爵令嬢ルーシャとして生きることになる。
竜と会話ができ、五体の竜王を統べる存在の《光彩の乙女》として、闇の竜王と戦うことになるとは知らずに―――…。
竜王が憑依転生した選ばれし少女ルーシャを中心に巻き起こる、愛と絆の物語。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
朝比奈未涼
ファンタジー
リタ・ルードヴィング伯爵令嬢(18)の代役を務めるステラ(19)は契約満了の条件である、皇太子ロイ(20)との婚約式の夜、契約相手であるルードヴィング伯爵に裏切られ、命を狙われてしまう。助かる為に最終手段として用意していた〝時間を戻す魔法薬〟の試作品を飲んだステラ。しかし時間は戻らず、ステラは何故か12歳の姿になってしまう。
そんなステラを保護したのはリタと同じ学院に通い、リタと犬猿の仲でもある次期公爵ユリウス(18)だった。
命を狙われているステラは今すぐ帝国から逃げたいのだが、周りの人々に気に入られてしまい、逃げられない。
一方、ロイは婚約して以来どこか様子のおかしいリタを見て、自分が婚約したのは今目の前にいるリタではないと勘づく。
ユリウスもまたロイと同じように今のリタは自分の知っているリタではないと勘づき、2人は本物のリタ(ステラ)を探し始める。
逃げ出したいステラと、見つけ出したい、逃したくないユリウスとロイ。
悪女の代役ステラは無事に逃げ切り、生き延びることはできるのか?
*****
趣味全開好き勝手に書いております!
ヤンデレ、執着、溺愛要素ありです!
よろしくお願いします!
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる