王子な姫君の国王救出物語【水晶戦記】

本丸 ゆう

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第一章 レント城塞

第三十三話 宝剣は何処にある?

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 《ソムレキアの宝剣》を、探し出さなければならない。
 宝剣が僕の手に戻らない限り国王軍は留り続け、大好きなレント城塞が再び《王族狩り》に巻き込まれる。
 僕が死ぬか、ここから去るかしない限り、危機は去らない。
 せっかく掴んだ手掛かりに、たどり着く事も出来ない。
 いずれ魔王とは対峙たいじする事になる。
 僕が《ソムレキアの宝剣》のあるじである限り、それは避ける事が出来ない宿命だ。
 魔王を水晶玉の魔力から切り離せる《ソムレキアの宝剣》を、彼は自分の物にしたいのだ。

 宝剣は何処にある?

 馬に乗れない僕は騎士見習いから従騎士へ昇格出来ないでいる。
 従騎士や騎士にならないと、剣を持って戦う事が出来ない。
 どうやって魔王と対峙出来る。
 《ソムレキアの宝剣》が手に入れば、魔王と戦う武器になるのではないか。
 もし、それが僕でも扱える重さの剣であれば、何としても手に入れるべきだ。

 何処にあるんだろう?
 僕が殺されかけた場所?

 父の館の何処を捜しても、宝剣は見当たらなかったとセルジン王が言っていた。
 あの館には惨事が起きた日から結界が張ってあり、王と同等の魔力を持つ者、それと僕以外、結界を破る事は出来ない。
 だから、盗まれた可能性はない。
 魔王も欲しがっているから、持ってはいないのだ。

 宝剣は何処にある?
 何処に消えた?


 《ただ前へ進みなさい、オリアンナ姫。《ソムレキアの宝剣》は必ず現れます》


 泉の精の言葉が、頭の中で繰り返し反響する。
 前へ進むって、どうすればいい?
 父の館へ僕が入れば、宝剣は現れるんじゃないのか?
 そう考えただけで、背筋に寒気が這い上がる。
 魔王はあの場所に一人で来いと言った。
 あきらかに罠だ。

 あそこへ、行くのか?

 身体から冷や汗が流れる。
 惨劇があった父の館に入れる気がしないし、足を運ぶ事すらしたくない。
 それでも、僕の中の何かが、あの場所だと確信する。


 父の舘へ行けと、心が叫ぶ。



 突然、爽やかな香りが、僕を現実に引き戻した。
 マールが杯に淹れたお茶を、僕の顔の前に差し出している。

「あまり思い詰めないで下さい。運び込んだ物は、大切に保管されていますから、焦らなくて良いですよ」

 僕は頷きながら杯を受け取り、口に含む。蜜の甘さではない、お茶本来の甘味は、大人の味覚で僕の口には合わず、緊張感は一気に吹き飛んだ。
 顔をしかめていると、マールが微笑みながら、杯に蜜を注ぎかき混ぜる。

「ひとりで無茶な行動はしない。必ず陛下か、私にお伝え下さい、良いですね」
「うん、解ってるよ」

 心を見透かすような彼の忠告に、決意とは裏腹な微笑みを、無意識に返していた。



 マールが仕事で部屋を出た後、僕は侍女のミアにお願いして、エランと交代してもらった。
 部屋に入ってきたエランは、僕をゆっくり眺め、水色の瞳が優しく微笑む。

「良かった、本当に綺麗に治ってる。安心したよ」

 幼馴染みの彼は、〈契約者〉になったハラルドに襲われた僕を、心配していたのだ。
 緊張が緩みそうになり、僕はわざと彼を睨み付けながら、目の前に立つ。

「君は今から、僕のお気に入りの従者だ。皆の前で王太子扱いしてくれ。今までのオーリンとは別人の印象を付けさせるんだ」
「僕はまだ、ベルン長官の従騎士だよ。今だって仕事を放置して来てるのに、どうやって君の従者をやれるんだ? 暇じゃない!」

 僕達は睨み合った。

「ベルン長官には、僕から話す。アルマレーク人をおびき出したいんだ、協力してくれ」
「それは君の仕事じゃないだろ。あいつを誘き寄せて何がしたいんだ? 危険を冒す意味は?」

 さすがにエランは遠慮なく、目的を聞いてくる。

「……父上の館へ行く」

 エランは驚き、僕の腕を強く掴んで引き寄せ、首を横に振る。

「駄目だ! あの館に入れないだろう? 一度、試したじゃないか。君は足がすくんで動けなくなった。館へ近づく事さえ、出来なかったんだ! 忘れたのか?」

 幼い頃にエランと二人で、父の館に行こうとした事があった。
 話の弾みで喧嘩になり、意地を張って館を見せるつもりで行ったのだ。
 でも、途中で僕の気分が悪くなり断念した。
 異常なほどの恐怖心に捉われ、動く事も出来なくなり、護衛に背負われてレント城に行き、医師の診察を受けた。
 エランはその時、領主ハルビィンに酷く怒られ、二度とあの館に僕を連れて行かないよう厳命されたのだ。

「だから、あのアルマレーク人が必要なんだ! あいつは父上の館を見せるように、謁見中に陛下に要求した。あの館には陛下の結界が張ってあって、僕と陛下以外入れないはずなんだ。でも、僕はあの館に近付きたくないし、近付けない。彼だったら、僕を無理にでも連れて行く」
「馬鹿な事を! アルマレークへ連れ去られるぞ!」
「だから、アルマレーク人を欺くために別人になるんだ。協力してくれ」

 エランが怖い顔で、僕を睨む。

「何のために館へ? 君、あそこで殺されかけたんだろ? また、動けなくなるに決まっている。何のために館へ行く? 陛下と行けばいいじゃないか!」
「《ソムレキアの宝剣》が、あの館にある。陛下が捜しても見つからなかった。きっと……、僕が行かないと現れないよ」
「…………よく解らないけど、その宝剣って何? 君は、それを手に入れて、どうしたいんだよ?」

 僕は全ての事情を、エランに打ち明けた。

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