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第一章 レント城塞
第十六話 滅びの予兆
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なぜ父の親族が殺されたのか?
僕は思わず、テオフィルスを見入ってしまった。
「レクーマオピオン領の七竜レクーマが十年ほど前から弱り始め、レクーマの領地は荒廃し領民達は苦しい生活を送っておりました」
「……七竜は神であろう? 神が弱る事等あるのか?」
「原因は不明ですが、次期領主の竜の指輪が戻ってきません。指輪が戻らないのは生きている証拠ですが、エドウィン様に何か異変が起きているのではないかと思われます」
《聖なる泉》で見た父の姿を思い出した。
導を残すと言っていた。
ブライデインの《聖なる泉》で待っていると……。
異変って、父上は何をしているんだ?
《エドウィンが全てを犠牲にしてあなたに残したものを、どうか否定しないで下さい》
泉の精の言葉が、心を切り裂くように浮かび上がり、呼吸が自然に荒くなる。
緊張から王の手を強く握った。
察した王が落ち着けと、手を握り返してくる。
アルマレーク人に悟られてはいけないのだ。
「私は〈七竜の王〉として、レクーマオピオン領で数年を高官達と共に過ごしておりました。その彼達が殺され、七竜レクーマの声を聞く者が僅かとなりました」
「領主の担う仕事が滞り始めたのだな」
頷くテオフィルスに、苦痛の表情が浮かび上がる。
築き上げた友情が、一瞬で奪われたのだろう。
彼も心に傷を負っているのだ。
「事件が起きる前後に屍食鬼が目撃され、尋常でない事件の有り様から、エステラーン王国の魔王の仕業と判断されました」
「……」
「念のため他国に同様の被害が無いか確認したところ、予想通り事件が発生しております」
「アドランが他国に手を伸ばし始めた……」
王が深い溜息を吐いた。
横にいる宰相エネス・ライアスが王に耳打ちし、王は頷き、彼は一礼してその場を離れた。
確認の指示を出しに行ったのだろう。
「領主家の人間がいなくなれば、七竜レクーマが死ぬ事態も起こりえます。七竜が欠ければ、アルマレーク共和国は滅びると言われております」
「……魔王が、それを知っていたと?」
「そうとしか思えません!」
テオフィルスが訴えるように、僕を見つめてくる。
まるでエドウィンの娘オリアンナである事に、気付いているように。
「エドウィン・ルーザ・フィンゼル様とそのご家族の、早急なご帰還を要請しに参りました!」
僕は父の国の事を知りたいと、秘かに思っていた。
でも現実は甘い想像を完全に打ち砕く、父を原因とした滅びの予兆だったのだ。
父が戻らない事で、アルマレーク共和国が危機に陥っている。
それは娘である僕を守るために、父が作り出した事態だ。
父上はブライデインの《聖なる泉》で、本当に生きているのか?
屍食鬼しかいない場所で、どうやって生きている?
僕はヴェール越しでも、テオフィルスを見ないようにした。
彼の心の声が嫌という程感じ取れる、「君はオリアンナ姫だろう? 領主家の責務を果たせ!」と。
でも……、僕がアルマレークへ行ったら、魔王はきっと追いかけてくる。
危機が増えるだけだ。
助けを求めるように、玉座に座る王を見つめたが、つないだ手とは裏腹に王は視線を返さない。
テオフィルスにオリアンナ姫がいる事を、悟らせないためだ。
「残念だがエドウィン殿は、レント領にはいない。十一年前に旅立ち、その後の連絡はないそうだ」
「どちらへ?」
「判らぬ。レント領主ハルビィンが聞いたのは、妻と娘の保護、そしてアルマレーク共和国との、一切の関わりを断つという事だ」
「…………確かに連絡は、十一年前から途絶えております。何があったか、ご存じでは?」
王は首を横に振った。
僕が二歳の頃、僕の前に《ソムレキアの宝剣》が現れた。
魔王の来襲を予想し、父は故国が巻き込まれるのを避けるために、一切の連絡を絶った。
初めて聞く話に父の覚悟が伝わり、胸が痛んだ。
「エステラーン王国は十五年前から、我が兄アドランとの戦いによって混乱が続いている。当時レント領に魔王が現れた報告は受けておらぬ。何があったのかは、知らぬ」
「…………では、ご家族は? オリアンナ姫がいるはずです」
「残念だが姫は八年前に、母と共に《王族狩り》の犠牲になった」
「亡くなった?」
「そうだ」
テオフィルスは一瞬ショックを受けながらも、疑惑の目を僕に向けてくる。
王の言葉を信じて、このまま帰ってくれればいい。
アルマレークの問題は自国で解決すればいいのだ、僕がそう思った時。
「そちらの姫君は、オリアンナ姫なのではありませんか? 先程のリンクルの反応から、そうお見受けしますが?」
彼の低い声が、騎士の大広間に響き渡った。
僕の鼓動が、大きく脈打ち始める。
僕は思わず、テオフィルスを見入ってしまった。
「レクーマオピオン領の七竜レクーマが十年ほど前から弱り始め、レクーマの領地は荒廃し領民達は苦しい生活を送っておりました」
「……七竜は神であろう? 神が弱る事等あるのか?」
「原因は不明ですが、次期領主の竜の指輪が戻ってきません。指輪が戻らないのは生きている証拠ですが、エドウィン様に何か異変が起きているのではないかと思われます」
《聖なる泉》で見た父の姿を思い出した。
導を残すと言っていた。
ブライデインの《聖なる泉》で待っていると……。
異変って、父上は何をしているんだ?
《エドウィンが全てを犠牲にしてあなたに残したものを、どうか否定しないで下さい》
泉の精の言葉が、心を切り裂くように浮かび上がり、呼吸が自然に荒くなる。
緊張から王の手を強く握った。
察した王が落ち着けと、手を握り返してくる。
アルマレーク人に悟られてはいけないのだ。
「私は〈七竜の王〉として、レクーマオピオン領で数年を高官達と共に過ごしておりました。その彼達が殺され、七竜レクーマの声を聞く者が僅かとなりました」
「領主の担う仕事が滞り始めたのだな」
頷くテオフィルスに、苦痛の表情が浮かび上がる。
築き上げた友情が、一瞬で奪われたのだろう。
彼も心に傷を負っているのだ。
「事件が起きる前後に屍食鬼が目撃され、尋常でない事件の有り様から、エステラーン王国の魔王の仕業と判断されました」
「……」
「念のため他国に同様の被害が無いか確認したところ、予想通り事件が発生しております」
「アドランが他国に手を伸ばし始めた……」
王が深い溜息を吐いた。
横にいる宰相エネス・ライアスが王に耳打ちし、王は頷き、彼は一礼してその場を離れた。
確認の指示を出しに行ったのだろう。
「領主家の人間がいなくなれば、七竜レクーマが死ぬ事態も起こりえます。七竜が欠ければ、アルマレーク共和国は滅びると言われております」
「……魔王が、それを知っていたと?」
「そうとしか思えません!」
テオフィルスが訴えるように、僕を見つめてくる。
まるでエドウィンの娘オリアンナである事に、気付いているように。
「エドウィン・ルーザ・フィンゼル様とそのご家族の、早急なご帰還を要請しに参りました!」
僕は父の国の事を知りたいと、秘かに思っていた。
でも現実は甘い想像を完全に打ち砕く、父を原因とした滅びの予兆だったのだ。
父が戻らない事で、アルマレーク共和国が危機に陥っている。
それは娘である僕を守るために、父が作り出した事態だ。
父上はブライデインの《聖なる泉》で、本当に生きているのか?
屍食鬼しかいない場所で、どうやって生きている?
僕はヴェール越しでも、テオフィルスを見ないようにした。
彼の心の声が嫌という程感じ取れる、「君はオリアンナ姫だろう? 領主家の責務を果たせ!」と。
でも……、僕がアルマレークへ行ったら、魔王はきっと追いかけてくる。
危機が増えるだけだ。
助けを求めるように、玉座に座る王を見つめたが、つないだ手とは裏腹に王は視線を返さない。
テオフィルスにオリアンナ姫がいる事を、悟らせないためだ。
「残念だがエドウィン殿は、レント領にはいない。十一年前に旅立ち、その後の連絡はないそうだ」
「どちらへ?」
「判らぬ。レント領主ハルビィンが聞いたのは、妻と娘の保護、そしてアルマレーク共和国との、一切の関わりを断つという事だ」
「…………確かに連絡は、十一年前から途絶えております。何があったか、ご存じでは?」
王は首を横に振った。
僕が二歳の頃、僕の前に《ソムレキアの宝剣》が現れた。
魔王の来襲を予想し、父は故国が巻き込まれるのを避けるために、一切の連絡を絶った。
初めて聞く話に父の覚悟が伝わり、胸が痛んだ。
「エステラーン王国は十五年前から、我が兄アドランとの戦いによって混乱が続いている。当時レント領に魔王が現れた報告は受けておらぬ。何があったのかは、知らぬ」
「…………では、ご家族は? オリアンナ姫がいるはずです」
「残念だが姫は八年前に、母と共に《王族狩り》の犠牲になった」
「亡くなった?」
「そうだ」
テオフィルスは一瞬ショックを受けながらも、疑惑の目を僕に向けてくる。
王の言葉を信じて、このまま帰ってくれればいい。
アルマレークの問題は自国で解決すればいいのだ、僕がそう思った時。
「そちらの姫君は、オリアンナ姫なのではありませんか? 先程のリンクルの反応から、そうお見受けしますが?」
彼の低い声が、騎士の大広間に響き渡った。
僕の鼓動が、大きく脈打ち始める。
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