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第一章 レント城塞
第十五話 七竜の王テオフィルス
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アルマレーク人との接見の場で、テオフィルスの竜の指輪から現れた竜が、僕に向かって何かを話しかけてくる。
でも、僕には意味が解らない。
聞き取ろうとした時、目の前にセルジン王と近衛騎士が、僕を庇い立ちふさがる。
王は皆に解らせるように、テオフィルスへ話しかけた。
「それは竜の影だな。私と同じように魔力で構成された実体を持つ影だ。噂に聞くアルマレーク共和国の神、七竜の一神か?」
テオフィルスが頷く。
「七竜リンクル神、リンクルクラン領を守護する竜です」
王は僕の肩を抱き、ヴェール越しに額にくちづけする。
「私のエアリス姫が怖がっている。もう充分だ、その神を指輪に戻してもらおう」
僕の偽名に、テオフィルスが怪訝な顔をしながら、七竜を指輪に戻した。
窓が開けられ、騎士の大広間に充満した熱気が一気に冷えて、皆が一様にホッとした。
王が玉座に戻り、テオフィルスに問い掛ける。
「我が国内での、その指輪の使用を禁止したい。この場で我等に預けてもらおう。帰国時に必ず返す」
テオフィルスは静かに首を横に振った。
「この指輪は外せません。無理に外せば、竜の怒りを買って周り中が焼き尽くされる。私の場合は、特に怒りが酷く現れるでしょう」
「……それは、貴殿が特別な存在という事か? その若さでその衣装、貴殿はただの領主候補ではないようだな?」
テオフィルスは無表情に王を見つめ、再び両手の甲を外にして顔の前に上げた。
その瞬間、彼の指に六つの竜の指輪が現れた。
「私は〈七竜の王〉と呼ばれる者です」
「王? 共和国に王はいないと聞いているが?」
「共和国が王制だった頃の名残りです。アルマレークに危機が訪れる時に現れる、七竜の魔力を扱い、国を救う宿命を持って生まれた者の事です」
「その指輪には、それぞれの七竜の魔力が秘められているという事か? 恐ろしいな」
「むやみに使いはしませんから、ご安心下さい。本来は各次期領主の所有する物、こうして呼び出すだけで彼等に迷惑が掛かります。今お見せしているのは、私が〈七竜の王〉である証明のためです」
王はじっと彼の指輪を見つめ、納得したように頷く。
「指輪が一つ足りないな。貴殿の国に危機が訪れている証拠か?」
「はい。我が国にも、屍食鬼が現れました」
「なに?」
騎士の大広間が騒めいた。
屍食鬼のいる範囲は、王国の中心にある二つの水晶玉の魔力の圏内だけで、レント領のように魔力の圏外にある辺境には、滅多に現れないと思われていた。
まして国境を越えて他国に現れた事等、一度もないはず。
国王セルジンが水晶玉の中に入り十五年間、魔王の魔力を抑えているからだと、皆がそう信じていた。
テオフィルスの六つの竜の指輪は、いつの間にかリンクルの指輪以外が消えている。
「それは本当の事か?」
「本当の事です。目撃した者は大勢おり、私も確かに見ました」
「…………」
《王族》の減少が、セルジン王を弱らせている。
それは王自身が一番感じているはずだ。
王が弱れば国を守る魔力も弱まり、魔王の魔力が上回って、屍食鬼が王国の外へ出没し始めてもおかしくはない。
これは、大変な事態だ。
僕は《聖なる泉の精》の言葉を思い出し、愕然としながら王の横顔を見つめた。
《《王族》の減少が彼を弱らせ、水晶玉の魔力に心を蝕まれているのです。今のままでは、彼も魔王と化すでしょう》
王は少し憔悴の表情を浮かべていた。
僕は彼の横で膝を折り、玉座の肘掛けに置かれている手に手を重ねた。
セルジン王が優しく微笑む。
陛下には《王族》が必要なんだ。
僕が……、必要なんだ。
絶対、魔王になんか、させない!
「我が国には十五年前から、エステラーン王国の避難民を受け入れてまいりました。これまで問題なく彼等と共存していたのです」
「……それは、感謝する」
テオフィルスの表情が、暗く陰る。
「つい一月ほど前、レクーマオピオン領の高官達が、貴国の避難民に殺される事件が発生し、今現在あの領地は大変な危機に直面しております」
「高官達が……? なぜ彼等がそんな事を?」
「分かりません。殺されたのは次期領主であるエドウィン・ルーザ・フィンゼル様の親族達です」
父上の親族?
会った事もない親族の死に、心に緊張が湧き起こる。
でも、僕には意味が解らない。
聞き取ろうとした時、目の前にセルジン王と近衛騎士が、僕を庇い立ちふさがる。
王は皆に解らせるように、テオフィルスへ話しかけた。
「それは竜の影だな。私と同じように魔力で構成された実体を持つ影だ。噂に聞くアルマレーク共和国の神、七竜の一神か?」
テオフィルスが頷く。
「七竜リンクル神、リンクルクラン領を守護する竜です」
王は僕の肩を抱き、ヴェール越しに額にくちづけする。
「私のエアリス姫が怖がっている。もう充分だ、その神を指輪に戻してもらおう」
僕の偽名に、テオフィルスが怪訝な顔をしながら、七竜を指輪に戻した。
窓が開けられ、騎士の大広間に充満した熱気が一気に冷えて、皆が一様にホッとした。
王が玉座に戻り、テオフィルスに問い掛ける。
「我が国内での、その指輪の使用を禁止したい。この場で我等に預けてもらおう。帰国時に必ず返す」
テオフィルスは静かに首を横に振った。
「この指輪は外せません。無理に外せば、竜の怒りを買って周り中が焼き尽くされる。私の場合は、特に怒りが酷く現れるでしょう」
「……それは、貴殿が特別な存在という事か? その若さでその衣装、貴殿はただの領主候補ではないようだな?」
テオフィルスは無表情に王を見つめ、再び両手の甲を外にして顔の前に上げた。
その瞬間、彼の指に六つの竜の指輪が現れた。
「私は〈七竜の王〉と呼ばれる者です」
「王? 共和国に王はいないと聞いているが?」
「共和国が王制だった頃の名残りです。アルマレークに危機が訪れる時に現れる、七竜の魔力を扱い、国を救う宿命を持って生まれた者の事です」
「その指輪には、それぞれの七竜の魔力が秘められているという事か? 恐ろしいな」
「むやみに使いはしませんから、ご安心下さい。本来は各次期領主の所有する物、こうして呼び出すだけで彼等に迷惑が掛かります。今お見せしているのは、私が〈七竜の王〉である証明のためです」
王はじっと彼の指輪を見つめ、納得したように頷く。
「指輪が一つ足りないな。貴殿の国に危機が訪れている証拠か?」
「はい。我が国にも、屍食鬼が現れました」
「なに?」
騎士の大広間が騒めいた。
屍食鬼のいる範囲は、王国の中心にある二つの水晶玉の魔力の圏内だけで、レント領のように魔力の圏外にある辺境には、滅多に現れないと思われていた。
まして国境を越えて他国に現れた事等、一度もないはず。
国王セルジンが水晶玉の中に入り十五年間、魔王の魔力を抑えているからだと、皆がそう信じていた。
テオフィルスの六つの竜の指輪は、いつの間にかリンクルの指輪以外が消えている。
「それは本当の事か?」
「本当の事です。目撃した者は大勢おり、私も確かに見ました」
「…………」
《王族》の減少が、セルジン王を弱らせている。
それは王自身が一番感じているはずだ。
王が弱れば国を守る魔力も弱まり、魔王の魔力が上回って、屍食鬼が王国の外へ出没し始めてもおかしくはない。
これは、大変な事態だ。
僕は《聖なる泉の精》の言葉を思い出し、愕然としながら王の横顔を見つめた。
《《王族》の減少が彼を弱らせ、水晶玉の魔力に心を蝕まれているのです。今のままでは、彼も魔王と化すでしょう》
王は少し憔悴の表情を浮かべていた。
僕は彼の横で膝を折り、玉座の肘掛けに置かれている手に手を重ねた。
セルジン王が優しく微笑む。
陛下には《王族》が必要なんだ。
僕が……、必要なんだ。
絶対、魔王になんか、させない!
「我が国には十五年前から、エステラーン王国の避難民を受け入れてまいりました。これまで問題なく彼等と共存していたのです」
「……それは、感謝する」
テオフィルスの表情が、暗く陰る。
「つい一月ほど前、レクーマオピオン領の高官達が、貴国の避難民に殺される事件が発生し、今現在あの領地は大変な危機に直面しております」
「高官達が……? なぜ彼等がそんな事を?」
「分かりません。殺されたのは次期領主であるエドウィン・ルーザ・フィンゼル様の親族達です」
父上の親族?
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