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第一章 レント城塞
第十三話 義母とドレスと敗北感と
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本当はあの男に会うのは、避けたかった。
抱きしめられた事で、女だと知られているかもしれないからだ。
ドレスを着る危険を、王に伝えるべきだと理性が訴えるが、感情はドレスを着てセルジン王の側にいたいと願う。
きっとあいつは、僕だと気付かない!
そう思い込んで、理性を封じ込めた。
「そなたの偽名はエアリス・ユーリア・ブライデイン、曽祖母の名を名乗るのだ。明後日までに、私の婚約者を演じる自信はあるかな?」
「頑張ります!」
王は優しく微笑んで頷いた。
長い栗色の鬘を被り、その上から長いレースのヴェールで、顔も身体も覆い尽くす。
煌めく宝石の付いた髪飾りでヴェールを留め、体型はふんわりとした薄紫色のドレスで隠し、上腕の特徴を肩から袖口にかけて幅広の袖が隠す。
いいドレスだ。
これなら竜騎士の体型も判らない、動きづらいが安心出来る。
「頑張ります!」と王には言ったものの、姫君を演じる自信は微塵もない。
僕の横にいる新しい侍女のミアが、ヴェールを持ち上げながら訳知り顔で微笑む。
「素敵なドレスですわ。サフィーナ様が毎年、オリアンナ様の体型に合わせてドレスをお作りになられていたようですね」
「義母上が?」
養母サフィーナは昔から僕にドレスを着せたがり、それが嫌で今まで彼女を避けてきた。
それなのに、毎年ドレスを新調してくれていたのだ。
心の中で申し訳ない気持ちと、妙な敗北感を味わった。
ミアが僕と母上とのギクシャクした関係を知っているように思えて、嫌な予感に気が重くなる。
「サフィーナ様に、お礼をお伝え下さいね。まもなく御出でになりますから」
「…………うん」
待ち構えていたように部屋の扉が開き、小柄な女性が姿を見せた。
年の頃は三十五、六。決して美女ではないが周りの空気を和ませる、不思議な魅力を持った女だ。
住民達から奥方様と慕われ愛されている、レント領主夫人サフィーナ・ボガード。
「まあ、思った通りよく似合っているわ、オリアンナ姫。着て下さって、嬉しいわ」
僕の全身が総毛立つ。男子の僕の心が、サフィーナの言葉に反抗の叫びを上げる。
義母上に、見られたくない!
僕は真っ赤になって俯き、拳を握る。
サフィーナに対して反抗心が剥き出しになるのが何故なのか、自分でもよく解らなかった。
横でミアが、お礼を促す。
「義母……上、素敵な……ドレス、あり……がとう」
養母の顔を見ようとしない僕に、ミアが肘で合図を送る。
僕は仕方なく顔を上げ、久しぶりにサフィーナと目を合わした。
いつの間にか、僕の身長が彼女より高くなっている事に気付き、驚きを感じた。
小柄な養母が、ますます小さく見える。
僕、そんなに身長伸びたのかな?
いつも一緒にいるエランがどんどん伸びていくので、僕はそんなに成長していないように感じていたのだ。
「姫君をお預かり出来て、私はこの上なく幸せでした。八年間、ありがとう、オリアンナ姫」
「僕は……」
「何もしていない」そう言おうとしたが、ミアに優しく止められる。
形式的な言葉かもしれないがサフィーナから言われると、突然自分がとてもつまらない人間に思えた。
女の身体を持ちながら、心は男である事を意識してきた。
結局どちらにもなりきれず何も身に付いていない僕に、サフィーナはどんな幸せを感じてきたのだろう。
「……ありがとう、義母上」
僕には、微笑みで返す事が出来なかった。
本番さながらの姫君としての訓練に四苦八苦しながら、なんとかドレスを着て歩くところまでは出来るようになった。
時間はあっという間に過ぎ、アルマレーク人との接見の日がやって来る。
抱きしめられた事で、女だと知られているかもしれないからだ。
ドレスを着る危険を、王に伝えるべきだと理性が訴えるが、感情はドレスを着てセルジン王の側にいたいと願う。
きっとあいつは、僕だと気付かない!
そう思い込んで、理性を封じ込めた。
「そなたの偽名はエアリス・ユーリア・ブライデイン、曽祖母の名を名乗るのだ。明後日までに、私の婚約者を演じる自信はあるかな?」
「頑張ります!」
王は優しく微笑んで頷いた。
長い栗色の鬘を被り、その上から長いレースのヴェールで、顔も身体も覆い尽くす。
煌めく宝石の付いた髪飾りでヴェールを留め、体型はふんわりとした薄紫色のドレスで隠し、上腕の特徴を肩から袖口にかけて幅広の袖が隠す。
いいドレスだ。
これなら竜騎士の体型も判らない、動きづらいが安心出来る。
「頑張ります!」と王には言ったものの、姫君を演じる自信は微塵もない。
僕の横にいる新しい侍女のミアが、ヴェールを持ち上げながら訳知り顔で微笑む。
「素敵なドレスですわ。サフィーナ様が毎年、オリアンナ様の体型に合わせてドレスをお作りになられていたようですね」
「義母上が?」
養母サフィーナは昔から僕にドレスを着せたがり、それが嫌で今まで彼女を避けてきた。
それなのに、毎年ドレスを新調してくれていたのだ。
心の中で申し訳ない気持ちと、妙な敗北感を味わった。
ミアが僕と母上とのギクシャクした関係を知っているように思えて、嫌な予感に気が重くなる。
「サフィーナ様に、お礼をお伝え下さいね。まもなく御出でになりますから」
「…………うん」
待ち構えていたように部屋の扉が開き、小柄な女性が姿を見せた。
年の頃は三十五、六。決して美女ではないが周りの空気を和ませる、不思議な魅力を持った女だ。
住民達から奥方様と慕われ愛されている、レント領主夫人サフィーナ・ボガード。
「まあ、思った通りよく似合っているわ、オリアンナ姫。着て下さって、嬉しいわ」
僕の全身が総毛立つ。男子の僕の心が、サフィーナの言葉に反抗の叫びを上げる。
義母上に、見られたくない!
僕は真っ赤になって俯き、拳を握る。
サフィーナに対して反抗心が剥き出しになるのが何故なのか、自分でもよく解らなかった。
横でミアが、お礼を促す。
「義母……上、素敵な……ドレス、あり……がとう」
養母の顔を見ようとしない僕に、ミアが肘で合図を送る。
僕は仕方なく顔を上げ、久しぶりにサフィーナと目を合わした。
いつの間にか、僕の身長が彼女より高くなっている事に気付き、驚きを感じた。
小柄な養母が、ますます小さく見える。
僕、そんなに身長伸びたのかな?
いつも一緒にいるエランがどんどん伸びていくので、僕はそんなに成長していないように感じていたのだ。
「姫君をお預かり出来て、私はこの上なく幸せでした。八年間、ありがとう、オリアンナ姫」
「僕は……」
「何もしていない」そう言おうとしたが、ミアに優しく止められる。
形式的な言葉かもしれないがサフィーナから言われると、突然自分がとてもつまらない人間に思えた。
女の身体を持ちながら、心は男である事を意識してきた。
結局どちらにもなりきれず何も身に付いていない僕に、サフィーナはどんな幸せを感じてきたのだろう。
「……ありがとう、義母上」
僕には、微笑みで返す事が出来なかった。
本番さながらの姫君としての訓練に四苦八苦しながら、なんとかドレスを着て歩くところまでは出来るようになった。
時間はあっという間に過ぎ、アルマレーク人との接見の日がやって来る。
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