ビター☆マシュマロ☆ナイト

諸星梓沙

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1話

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 しとしとと降る雨。

店内に響き渡る某有名歌手の歌声。

それらが溶けあい、心地よい空気が漂うここは、
アンティーク調の雰囲気が売りの美容室ROCHEロッツェだ。




 僕の名前は、相良葵さがらあおい

ここで二年前から働いている新米美容師だ。


よくわからないけど、
お客様からは「あおい様」とか...「あおい王子」とか...呼ばれてる?らしい。

先輩とか...特に「こう」ってヤツからよくそうやっていじられるから知った。


 自慢じゃないけど、先輩達に負けないくらい指名はくる。

先月は2位、先先月も...2位、その前も...。

煌にいつも負けてしまう。

今月こそ追いついてみせる!

僕は...私は...そうしないと......




「あおい。お客様よ」

あ、姉さんだ。今日もかわいい。

ちなみにROCHEのオーナーで、僕の3つ上の唯一の姉妹きょうだいだ。

顔よし、頭よし、性格よしのパーフェクト。

自慢の、あこがれの姉さん。

僕は姉さんが大好きだ。

「りょーかい。おねーさまっ」

とびっきりの笑顔でそう言うと、ぷんぷん怒り出した。

「もう、やめてよ。ここではそう呼ばないっていう約束でしょう?」

ぷくっと頬を膨らませて抗議する姉さんは世界一かわいい。

あぁ...本当にかわいいなぁ。

結婚したい...。

「は?今なんか言ったかしら?
ほら、ぼーっとしないでいってらっしゃい!
あ、お、い、ちゃん?」

悪戯っ子みたいにニヤニヤする顔もサイコー。

「オーナー。ちゃん付けはおよし下さいませ。それでは、行ってまいります」

ペコリとお辞儀をしていざ、出陣!...じゃなくて出発?

今日も1日頑張るぞー!






「お待たせ致しました。雨のなかありがとうございます。大変だったでしょう?」

今日のお客様はみーちゃんという方だ。

常連さんで、趣味が合い仲良くさせてもらってる。


「葵様…今日も美しい…。オールブラックコーデ…かっこいい…」

「ぼーっとして大丈夫?外寒かったかな?顔も若干赤い気が…」

雨降ってるし。

濡れちゃったみたい。

いくら傘さしてても車が通る時に水たまりのところでバッシャーン!…ってよくあるよね。

冷えちゃうと風邪引いちゃうもん。

心配だなぁ。



「うゎっ!ご、ごめんなさい。私は大丈夫です。…えっと、あのそのコーデ…かっこいいね!」

「ありがとう。このレザーの服気に入ってるんだ」

「素敵だね!すっごく葵くんに似合ってる!」

手をグーにしてブンブンしながら言ってくれた。

そこまで全力で褒められると恥ずかしい…ね。

でも嬉しい。

「あわわゎ…葵様が照れていらっしゃる…やばい…笑顔…微笑み …美しい…」

気合い入れて選んだかいがあるな。

バランスと色味の立体感?って言うのかな…

まぁそこがポイントなんだよねぇ。

「あ、今日はどんな感じがいいのかな?いつものようにする?」

いつもなら長さはいじらずそろえる感じで、カラーは…。

「その…おまかせってお願いしても…いいかな?葵くんのおすすめのカットとカラーで…」

おぉ。珍しいな。

あーそういえば、前回あの髪型に憧れるって言ってたなぁ。

アレンジすれば…うん…ぜったい可愛い。

「了解。任せて!とびきり可愛くしちゃうね」





今カットとカラーが終わったところ。

今日も完璧。気に入ってくれるはず。

「はい、完成!どう?」

「ありがと!すごく気に入ったよ」

ぱぁっと、笑顔で幸せそう。

大成功…かな?

「あの…葵くん!今日もキレイにしてくれて…えっと…その …」

「ん…どーしたの?」

うつむき頬を赤らめ黙ってしまう彼女を見て、
僕は首をかしげ声をかけた。

すると彼女は、ビクッと肩を震わせる。

頬はりんごみたいに真っ赤で、
ぷるぷると震えててまるで生まれたての子鹿。

熱でもあるのかな。

そっと額に手を伸ばすと、耳まで真っ赤に。

また僕が首をかしげると、煌が爆笑しているのが視界の端に見えた。

煌はなにかと僕のことを馬鹿にしてくる。

僕の反応を見て楽しんでいるんだ。

なんだよ。またバカにしてんのか?

周りを気にしているのか、声を出さないように必死だ。

が、そのせいで、肩を震わせていて、バレバレ。

ほんと、ムカつく。


「えっ、と…葵くん?」

気づけば、彼女は戸惑って首をかしげている。

えっと……そうだった!仕事に集中しないとね。

でも…後で覚えてろよ、煌!

そう心の中で叫んだあと、にっこりと微笑み再び彼女に向き合う。

「あっ、ごめんね?  来た時、雨降ってたしひえやすいから…風邪ひかないようにしっかりあたためるんだよ」

「はっ、はい。葵くんも…その…」



「お仕事がんばって…ね。」

そういった彼女の声は今にも消えそうだった。





ふーっ  これで今日は終わり!

さてと、後片付け、後片付け~。

――ふっふふ~ん


 僕は鼻歌を歌いながら上機嫌で片付け始める。

今日のもお客さんとのおしゃべりも、楽しかったなぁ。

そうだ!

みーちゃんに教えてもらったケーキ屋さん、明日いってみよう。

明日は月曜日でお店は休み。

ちょうどカフェ巡りしよーと思ってたんだよね。

おすすめは、ショートケーキとチーズケーキか。

ショートケーキって美味しいし可愛いから好きなんだ。

でも、チーズケーキも捨てがたい......。

うーん、 迷うなあ。

あと、マカロンもだったね。

レモンが人気って言ってたけど...

マカロンはやっぱりフランボワーズでしょ!

ピスタチオも美味しいよね。

うわぁーー楽しみ!楽しみー!

美味しい紅茶とスイーツを味わいながらー、ゆっくりのんびりしたいなー。


それにしても、みーちゃん大丈夫だったかな?

ほんと心配だな。

風邪引いちゃったら大変だもん。


てかてか、あの時の煌!

思い出しただけで、むーかーつーくー!

ほんと何なんだ?

そのあとも何度もちょっかい出してくるし...。

そんなにからかうのが楽しいか?

あーイライラするーーー

――ドン!

『わっ!!!』

「うわぁーーー!って煌かよ...いきなり何なんだ。びっくりするじゃないか!」

道具の片付けをしている僕の後ろに来て、いきなり肩をたたかれ、驚かされた僕は、あきれて、じとぉーっと煌を見た。

「ご丁寧に盛大なリアクションをありがとう」

貼り付けたようなキラキラスマイルとわざとらしい口調。

ほんと腹立つな!

ちょうどイライラしていた僕に、火を付けるのには充分だった。

「何すんだよ!危ないじゃないか!」

「あはは。噛みつかない、噛みつかない~」

手をひらひらさせながら、おどけた口調で言う煌。

「ば、馬鹿にすんな!」

イラッ...まただ、煌のやつ、バカにしやがって...

「っくく 、ごめんごめん。いやー葵のね、行動が…ね、 ね?」

「は?」

「その…ね。片付ける間ずーっと百面相してるからおもしろくてつい…。笑ったり怒ったり大変だなーくくくっ」

そう言うと煌はまたお腹を抱えて笑い出した。

「ついってなんだよ!ついっ...て...?」




.........。








何か、聞き捨てならないことが聞こえたような。



ヒャクメンソウ...。ひゃくめん...そう...?って......




「百面相?!」

「うわぁ!いきなり叫ぶなよ。びっくりしただろ...。」

恥ずかしい...恥ずかしい...ものすっごく恥ずかしい......

「うわあーーーーー」

しんと静まり返る店内に、僕の絶叫が響きわたった。






「ほんっと、ごめんって」

あー、なんか言ってる。

うるさい。無視しよう。

「俺が悪かったんだ。まじでごめん。」

そうです。きみが、わるい。

やっとわかったか。

「今日はやり過ぎだったな。すまなかった。」

  そのとおり。早く気づけ!

てか、うざい...

「葵、許してくれ。頼む。」


はあ...


ちょっと黙ろうか。









片付けも終わり、帰る準備をしているぼくのところにー

急いで終わらせた煌が僕の所に来てー

そんな煌を完全に無視してまーす!



というのが今の状況だ。


ほんとウザい、ウザい、ウザい!


「「「またかよ......」」」

店の仲間たちは、あきれ、ため息をついてそう言う。



いやいや…...

あきれてる暇あったらコイツどうにかしてよ。


「おいおい、煌。おまえ、またやらかしたなー。アハハハハ」

「くまさん。アハハハハ、じゃないんすよー。
もー、ピンチっす」

「まあーそーみたいだなー」

あぁ、助かった。ふぅーーー。

くまさんは、僕の先輩でみんなのお兄さんって感じ。

苗字が矢熊やぐまさんだから、くまさんってよばれてる。

いつもいつも有難うございます。助かります。本当に。


これで、シリアス煌の攻撃をかわせる。

こうなった時の煌って、ほんとめんどくさい。

「それでですねー      ってなって       だったんすよ! 」

「そーかそーか。」

だから、帰ったもん勝ちさー。

ということで、




「お疲れ様でした。お先に失礼しまーす。」

ーバ...ッタン  


そっとドアを閉めると、
みずみずしい風が僕の肌を撫でた。








日が落ち、すっかり暗くなったこの街を、
月の光が優しく照らし幻想的な雰囲気を創っている。

晴天というわけではないが、日中の雨雲は無くなり、見渡す限り星空が広がっている。

うわぁー...星が綺麗だな。はぁー、癒されるー。

「葵がかーいくてー、もー、やばかったー」


「は?!」

ガシャン!

煌の声が聞こえ、反射的にドアを激しく開けてしまった。

爆発寸前の僕と上機嫌の煌、互いの視線がぶつかる。

今、聞こえたのって、気のせい...だよ...ね...?

うん、『可愛い』なんて誰も言ってない...はず......

「煌くん?僕のことがなんだって?」

最大級の笑顔で聞いてみる。

「可愛いです!」


僕の頭が “ピキッ” っと。

ふふっ、こーうーくーん?

覚悟、できてるのかな?

わかってるよねー?

「し、しまった」

僕からにじみ出る黒いオーラに気づいた煌。

サーっと血の気が引き、一気に青ざめた。


っと思ったら、こんどは、今にも泣きそうな顔に。

って、なみ、だ?



えっ...と、こ、こうくーん!

煌くーん?おーい!......やり過ぎたかな?

ちょっとかわいそうだよね。

うん、いくら煌が悪いからって言っても、ね。

やりすぎた?許してあげようかな。えっと、どう言えば...

うーん......




じゃなくて! ゆるせるかー!

だって、だって、だって、だって!

僕に可愛い?はぁ?ざけんな!

さっきまで、謝ってたよね?ウザいくらい必死に。

「許してくれー」って。

それがなに?このセリフは。


ごほん、ごほん。


「葵がかーいくてー、もー、やばかったー」だよ!

マジふざけんなーーーーー!


――ぷいっ   

煌なんか知らない。

今度こそ、帰ってやる!









「......っ」

ん?なんか空気が変わった、よね。

って...


「ん?煌、どーしたの?顔赤いよ?」

風邪ひいてるとか聞いてないし。そもそもピンピンしてたし。

てことは──




そーなの?ねーねー!マジ...ですか。

煌が...煌が......照れてる。赤面...してる。

あの、女の子にモテまくりの。

いや、ほんとは認めたくないよ。

煌がモテるなんて。

イライラするし、ムカつくんだもん。

えっ、なんでって?いや、それは、だな。

よくわからないけど。

...いや、別にいいだろ!どうだって!



て言うか、どこに赤面する要素が...?

やっぱり煌は意味不明です。



「葵...それ反則。なに“ぷいっ”って。チョーかーいいんだけど。そーいえば葵は男だったな。いやいや葵は男でも女でもない、性別葵......」

ブツブツとなにか言い出した煌。

「煌?どーしたの?急に静かになったと思ったら、ブツブツ言って。はっきり言えよ!」

「俺はどーすればいいんだーーー」


びっくりした僕は、反射的にマシンガンのように言ってしまった。

「煌!はっきり言えとは言ったが、叫べとは言ってないだろ!いきなり叫ぶな、うるさい、黙れ、氏ね。そして、生き返って、もっかい氏ねー!」

あーすっきりした。

「はぁー。そーでした、そーでしたよ。葵は、こんなヤツでしたね」

ほんと大丈夫なのか?

いつもなら、無き真似して「ひどいよー葵くんがいじめるーうわーん」とか言うくせに。

もしかして、煌のヤツ、とうとう本格的にどうにかなったのか。


  「はー。ほんと、葵が女だったらいいのに。なんで男なんだ?神様、あんたは間違えたんだな。」

だから、ブツブツ言ってるからよく聞こえない。

「言いたいことあるならはっきり言えよ!あーね。とうとう煌の頭はおかしく...」

「そーそー、葵は天然タラシでしたよーだ!気づけよ...あー、もう、いいし......」

「はぁ?意味わからん!もう煌なんか、ほっとこーっと。帰ろ帰ろ!」

「って、葵ーちょっと待ってよー」

「あっ、煌が元に戻った」

ほっとした僕は、ドアの前でお辞儀する。

「今度こそ失礼します。煌がお騒がせしました」

「おぉー 気をつけて帰ろよー。道端で喧嘩すんなよー」

にこにこ笑顔のくまさん。喧嘩じゃないです。

僕は悪くないもん。

「えぇー。葵......ひどいよ。って、待ってーっあ、失礼しまーす」

これ以上迷惑かけないように、僕は問題児?を連れて帰る。






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