MotoGP HRC Development&Reserve Rider Memory

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縁の下の力持ち、そして、ワイルドカードエントリー。

第14話 今でも覚えてる瞬間

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これは一昨年になっちゃうけど、一昨年のMotoGP最終戦バレンシアGPのMoto2クラス決勝。俺は、王者になる条件として、絶対優勝する事以外出来なかった。俺は、現地入りしてから、ずっとそればかり考えていた。予選では、ぶっちぎりの速さでポールを獲得。これで「最終決戦」の準備が整った。そして迎えた決勝。これが俺にとって、Moto2ラストランとなるレースでもあった。緑に白という「キュアマーチ」をイメージしたデザインに彩られた俺のマシンには「3+1」と言うナンバーが、堂々と掲げられていた。そして、このラウンド限定で俺は、限定デザインメットと親友の誠真の形見である、グローブとブーツを着用してエントリーした。マシンをグリッドに戻して、俺は深呼吸して落ち着こうとしても、緊張で手の震えが止まらなかった。けど、震えるその手を強く握りしめて、震えを殺していた。左足でシフターを踏んで「ガチャンッ!」と1速に入れてから、勢い良くスタート。スタートシグナルの最後の1つが点灯する瞬間が、恐ろしくゆっくりに感じた。亡き親友のと皆の思いを背負って挑んだ最後の戦い。俺のNTS NH7には「日の丸と桜」が彩られていた。レース時の呼吸はすごくゆっくりとしてる感じだった。俺は普段より多くスロットルを捻っていた。トラコン全開で。迎えたラストラップ、サインボードにも「LAST LAP!Let's go!!!」と掲示されて、「やっと夢が叶うんだ。」と言う気持ちが溢れてきていた。そして、その1周が恐ろしく長く感じた。まるで見えない敵と戦ってる様に。誠真の姿も見えた。「最後は俺だ!俺と勝負だ!」と。最終コーナーを制して、ホームストレートに戻って来た。皆が大喜びしてる姿が見えた。ディスプレイも「P1」を表示していた。俺は、最後までフルスロットルで駆け抜けた。ゴール後には、メット越しに大粒の涙が流れていた。やった!遂にやったんだ!俺は!という涙が。親友である誠真の名前と俺の名前が刻まれた国旗を天高くなびかせて、ウィニングランをした。そこから思いっきりバーンナウトをかましていた。パルクフェルメにマシンを持って来て、マシンから降りた時に俺は、自分のゼッケン「3+1」の所に抱きつき「ありがとう…ありがとう…ありがとう…誠真!!!」と、泣きながら言っていた。国歌斉唱後に、誠真のスナップショットを天高く掲げて、ちゃんと約束を果たした事を報告した。まさか最後に戦う相手が、天国に居る親友だなんて誰が考えた事やらね。俺は、ゴールした時に、誠真がデビューウィンした時のポーズをしていた。左手でガッツポーズ作って、勢い良く突き出すというのを。俺は喜びのあまり叫んでいた。マシンは限界を迎えたかの様にエンジンが止まった。俺は、最後の気力を振り絞って押しがけを試みるも、エンジンの圧縮が高過ぎて、なかなか始動してくれなかった。だけど、「戦友」達が皆してマシンを動かしてくれて、俺は何とか再スタートする事が出来た。その間、皆が俺を「エスコート」してくれた。敵味方関係無しに。ポディウムでもだ。でも最後の1周は本当に、見えない敵と戦いながら、過去の自分とも戦っていた。その先に見えた景色、いや、ラストまで俺は誠真と戦っていた。最後はスロットルがすごく軽く感じた。まるで背中を押してくれたみたいに。隣の敵も見えた。けど最後は、コンマ1秒差で俺が逃げ切って、逆転王者になった。実はスタート直前までランキング3位だった。でも、最後くらいは勝って終わりたかった自分もいた。というより今年もどうせなんて考えがスタート直前まであったけど、いざギアを入れると、そんな考えは一瞬で消え失せた。もう、レース中は各ターン毎に順位が目まぐるしく入れ替わった。けど、最後くらいは負けて終わるなんて言う恥ずかしい事はしたくなかった。最終コーナーを立ち上がった時の加速は俺が勝っていた。最後の直線まで勝負は続き、結果は俺の勝ちというまさに「奇跡の連続」ともいえるラストだった。そして、日テレジータスのインタビューでも泣いていた。なんていう記憶もある。今となっては懐かしい思い出の1ページに過ぎないけど、自分にとってこれ程嬉しいものはなかった。
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