アドリアンシリーズ

ひまえび

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アドリアンシリーズ第8話…エピソードⅨ…いよいよ西シベリアへ

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エピソードⅨ…いよいよ西シベリアへ

1370年5月中旬の水曜日午後3時…カザン宮殿

慰霊祭のあとささやかな宴会を開いて遺族を慰労した。

ダーニャ28歳がアドリアンに会いに来た。

ダーニャは5歳と4歳の男の子を抱えた戦争未亡人だった。

背が高くて肉付きと血色がよく、いかにも堂々としていた。

大きな眼はいくらか愁いをふくんでいるように見え、

それがまた彼女の魅力をつくっていた。

彼女にはちょっと近づき難いような一種の威厳もあったが、

しかしその威厳のかげには、いかにもロシアの女性らしい情熱と

やさしさがかくされているように思われた。用件を聞いてみた。

彼女は元々農民出身である。一族全員で農家をしていた。

ところが以前に河川賊ウシクイニクに親族が8割方拐われて

財産も奪われて経営が成り立たなくなり、借金していた貴族に

土地を奪われたのだと云う。

アドリアンは痛く同情して金を与えようとした。お金は入りません。

西シベリアに土地を下さい。

土地をいただければそこで農耕をいたします。

きちんと収益を出してみせます。

アドリアンはダーニャの要求を受け入れ他にも入植者を募り、

1,000戸規模でチュメニ・ハン国のカシリクを開墾することを決めた。



★カシリク…イスケルともいう。今のトボリスクの近くである。

ウラル山脈の東側、トボル川とイルティシュ川の合流点に位置する。

チュメニから北東約250kmのところにある。

★説明了

1戸あたり50デシャチナを割り当て、小麦、ライむぎ

えんばく、大麦、キビ、エンドウなどの収穫を目的とした。

入植後10年間は無税とした。

★1デシャチナ=1.092ヘクタール

寡婦かふの家族の中に毛皮組合の手代をしている者が2名見つかった。


1人はノヴゴロドの毛皮商人の手代である。

エドムント13歳。

もう1人はロシアの蝋組合の手代である。

イザーク13歳。

もう1人アドリアンの同母の弟でアドルフ12歳。アドリアンの両親が

毛皮商人にさせるべくリトアニアの親戚に預けて5歳から手代見習いを

していたが、親方から虐待されて逃げてきたそうである。

3人の技術力を認め、年俸を金のインゴット2枚固定給で支給した。

利益のうち1%をインセンティブとして渡す契約を締結した。

当座の運用資金として金塊100kgずつ渡した。

重いので塩引えんいん手形の形で渡した。

塩引えんいん手形…クビライの始めた兌換紙幣

貴重な塩と交換できるが、アドリアンは金との交換も行った。

急遽きゅうきょヴィクトルとゲルマンを呼び、

マクシムとルキヤンも呼び出した。

1370年5月中旬の水曜日午後5時…カザン宮殿

カリーナの長男ヴィクトル、次男ゲルマンがやってきた。

マクシムとルキヤンの2人も来た。

今からチュメニまで行き、チュメニ・ハン国を攻める。

一般市民以外は皆殺しにせよ。

アドリアンは50万名の大軍を率いてチュメニに進軍した。

カザンからは1週間で到着する。

1370年5月下旬の金曜日朝5時…チンギ・チュラ

チュメニの宮殿を大軍で取り囲んだ。

降伏の白旗を掲げたがアドリアンは以前のこともあり、

許さなかった。兵隊もチュメニのハンも皆殺しにした。

妻妾たちは全員奴隷にした。アネックとムジョルを常駐させ、

反乱を起こすものは皆殺しにせよと命令した。

アネックをチュメニの守備隊長に任命した。

西シベリア都督に任命した。年俸を金のインゴット500枚支給した。

異例の待遇である。ムジョルには近隣の討伐を命じた。

カシリクからアンガラ川中流域を占領し、農耕地を確保せよ。

チュメニ・ハン国の残党のみを殺し、民衆には手を出すな。

勿論歯向かうやつは民衆ではなく敵だ。皆殺しにせよ。

カリーナの長男ヴィクトル、次男ゲルマンを呼び、

北ドヴィナ地方別名ユグラを掃討せよ。

チュメニの残党や河川賊ウシクイニクを掃討するのだ。

チュメニを起点としウラル山脈を越えて下図のウスチュグまで行くのだ。

途中で何か所か砦を築け。砦を築いた時は連絡せよ。

直ちに守備兵を派遣する。そのあとはウスチュグを起点として

北ドヴィナ河をさかのぼり各都市に砦を築くのだ。



★ユグラの地…北ドヴィナ河流域

ウラル山脈北部のペチョラ川流域からオビ川下流域までの一帯は

はじめ「ユグラ」の地という名称でよばれた。

シベリア史家バフルーシンによると、ユグラというのは

ズイリャンコミ語でオスチャク人の名称である。

オスチャク人ははじめウラルの西麓さいろく地方にも住んでいた。

その後ユグラの名称はウラル以東オビ川下流域のオスチャク人住地

を指すようになった。

ノヴゴロド人がユグラの国へ行ったことを伝える最古の記録は

年代記の1032年の冬にあらわれ、当時ペチョラ川を経てユグラの国へ往来した。

11世紀にはすでにウラルを越え、12世紀に入ると、ユグラの土民は「

ユグルシチナ」とよばれる「貢物みつぎもの毛皮、海豹かいひょうの牙など」

をノヴゴロド人に納めた。

「半ば夜の国」といわれたこの地にはおとぎ話のように毛皮が豊富で、

そこではリスや子鹿が露の中から飛び出してくるという物語がつたえられ、

企業心旺盛なノヴゴロドの狩猟起業家たちは

「越えがたい深淵や雪と密林に阻まれた山」を恐れずに進んでいった。

「また封建的なノヴゴロド国家も原住民から貢物を徴収する目的で

軍事遠征隊を組織し、例えば1364年にあったように、

ユグラの地深く侵入している。」…バフルーシン『シベリア植民史概説』

★アドリアン20歳
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