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獣人の奴隷
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「さて、まずは床から行きますよ!」
「キュ!」
一度濡らしてある雑巾を構え、木製の床を磨いていきます。ある程度簡単に拭き終わったら、今度は乾いた方の雑巾で水分を拭き取ります。木の床にあまり水を吸わせすぎると、劣化が早くなってしまいますからね。ですが、結局一番効果的なのは水拭きなので、水分を取りつつ、拭き掃除を続けていきます。
ちなみに、アイラはメイド服のポケットに収まっています。私が腕を動かすと、一緒に腕をフリフリしていて可愛いです。超可愛い。
その後も、通りかかったメイドさんの顔を覚えながら、手際よく作業を進めていました。ある時、屋敷の貴族様と思われる男の人が通りかかりました。
「やぁ、君が新しく来たメイドだね? 僕がこの屋敷の主、カール=バゲージだ。 ……うん、君なかなか可愛い顔をしてるじゃないか。どうだい? 一時使用人と言わず、正式に勤めてみないか? 給料も弾もう」
「……いえ、大変申し訳ありませんが、遠慮させて頂きます。私も別にすべきことがございますので」
「ふーん……まぁいいや、どうせここに残りたくなるだろうし。おいベル、行くぞ」
「……はい」
去っていくカールさんの後ろには、くすんだ灰色の髪の女の子がいました。リースくんより更に下、7、8歳といったところでしょうか。フードを深く被っています。メイド服を着ているところをみると、彼女も使用人の一人なのでしょう。暗い表情が少々気にかかりますが。
というか、カールさんは苦手なタイプの人ですね。どことなくチャラチャラしてると言うか、嫌な感じです。それに、どうせここに残りたくなるだろうし、とは一体どう言うことでしょうか。いくら魅力的な職務でも、正式に勤める気はカケラもありません。旅を続けたいですから。
「さて、窓の方もやらなきゃですね」
私は先ほどの二人を脳裏にチラつかせながらも、陽が傾き始めた頃には、廊下の掃除を終えました。隅々まで綺麗にしてやりました。与えられた仕事は完璧にこなさなければ気が済まない性分なのです。
私は、メイド用の空き部屋を一つ借りていますが、食事は貴族様たちが食べ終わった後に交代で取るようです。私は19時頃が食事なので、それまでは食器洗いです。他何名かのメイドと一緒の仕事でした。隣のメイドさんの拭き残しも綺麗にしたくなるのも性分でしょうか。
「いただきます」
仕事終わりの食事と言うのは中々良いものですね。献立は、根菜のスープと、少量の牛肉でした。野菜の甘さが身に染みるようです。野営では、暖かい食事も難しいですから、こういうスープは大好きです。
夕食後、観葉植物などの水やりを命じられたので井戸から水を汲み、屋敷内を回っていた時。とぼとぼと歩く小さな影が見えました。よくみると、昼間に見たベル、と呼ばれていた女の子でした。昼間と同様、フードを被っています。
少し興味が湧いたので、話しかけてみることにしました。
「こんばんは。どこへ向かってるんですか?」
「……ッ、こんばんは。ご主人様の部屋に行ってる」
彼女は、私の姿を確認するとすぐにフードを深く被り、警戒しながらも答えてくれました。屋敷の中でフードを被っている理由を聞きたいですが、触れない方が良さそうなのでそっとしておきましょう。
「そうですか、引き止めてごめんなさい」
「ううん、じゃ私は行くね」
相変わらず、フードの箸を抑えながら走っていきました。
「うーん、一体どうしたんでしょうか……」
フードを押さえる彼女の手は、アザだらけで青くなっている箇所がありました。あの子に一体何があったのか。
若干のモヤモヤを抱えながら、私は部屋へ戻るのでした。
翌朝。朝早くから倉庫の清掃です。倉庫は屋敷の外にあり、定期的に掃除をしているそう。頭と口元に布を巻いて、箒雑巾を携え、いざ掃除開始。
「……結構埃っぽいですね。ちゃちゃっとやっちゃいますか」
幾らでも出てくる埃を掃除しながらも、考えるのはあの子のこと。どうして一人だけフードを被っているのか。もしかすると、可愛いケモミミでもあるんじゃないでしょうか。仮にそうなら納得できます。王都では獣人は奴隷のような扱いを受けていると聞いたことがあります。ならば、それを隠したくなるのも分かります。
……ですが、それはつまりこの屋敷で奴隷扱いをされている可能性がある、ということです。彼女を見かける時、毎回カールさんが絡んでいることが多いです。
私は倉庫の掃除を終えた後、彼女を探すことにしました。しかし、それも一筋縄では行きません。見かけたメイドさん全員に聞きましたが、皆口を揃えて『お教えできません』の一辺倒。知らない、と言わない辺り、きっと暗黙の了解のようなものがあるのでしょう。
彼女が獣人でなくとも、良い扱いを受けていない可能性が高くなってきました。出来るだけ屋敷内を歩きつつでもできる仕事をこなしつつ、屋敷中を探し回りました。
「ベルさん、一体どこにいるのでしょうか……?」
私は屋敷を調べ尽くしましたが、結局彼女は見つかりませんでした。あと一箇所だけ、調べていない部屋があります。
「カール=バゲージの部屋……」
彼の部屋にはあまり近づくなと言われているので行きませんでしたが、こうなった以上は確かめなければ。疑問は解消、問題は解決すべきなのです。
中に人の気配がするので、ドアから何とか会話を聞き取れないかと耳を澄まします。
「おい、ベル。獣人であるお前を『保護』してやったんだからヨォ……俺様が好きにしてもいいンダよなぁ! いつも通りだろォ? 何を今更怖がってんだ、あぁ!? ……決めた。今日はお前に夜伽をさせてやる。慰み者にされたくなけりゃ、俺を満足させて見せろよ?」
「あ、うぅ……」
「……最っ低のクズですね……」
会話から推測するに、やはりベルさんは獣人で奴隷として売られており、それを買ったあのクズが毎日彼女を酷い目に合わせているようですね。それに慰み者なんて、最低な言葉を言っていました。
きっと、メイドさんたちにも口封じをしているのでしょう。逆らえば━━とか言って脅しているのかもしれません。あんなクズなら有り得ない話では無いですし。
決めました。
「このクソ貴族は、私が潰してやります」
「キュ!」
一度濡らしてある雑巾を構え、木製の床を磨いていきます。ある程度簡単に拭き終わったら、今度は乾いた方の雑巾で水分を拭き取ります。木の床にあまり水を吸わせすぎると、劣化が早くなってしまいますからね。ですが、結局一番効果的なのは水拭きなので、水分を取りつつ、拭き掃除を続けていきます。
ちなみに、アイラはメイド服のポケットに収まっています。私が腕を動かすと、一緒に腕をフリフリしていて可愛いです。超可愛い。
その後も、通りかかったメイドさんの顔を覚えながら、手際よく作業を進めていました。ある時、屋敷の貴族様と思われる男の人が通りかかりました。
「やぁ、君が新しく来たメイドだね? 僕がこの屋敷の主、カール=バゲージだ。 ……うん、君なかなか可愛い顔をしてるじゃないか。どうだい? 一時使用人と言わず、正式に勤めてみないか? 給料も弾もう」
「……いえ、大変申し訳ありませんが、遠慮させて頂きます。私も別にすべきことがございますので」
「ふーん……まぁいいや、どうせここに残りたくなるだろうし。おいベル、行くぞ」
「……はい」
去っていくカールさんの後ろには、くすんだ灰色の髪の女の子がいました。リースくんより更に下、7、8歳といったところでしょうか。フードを深く被っています。メイド服を着ているところをみると、彼女も使用人の一人なのでしょう。暗い表情が少々気にかかりますが。
というか、カールさんは苦手なタイプの人ですね。どことなくチャラチャラしてると言うか、嫌な感じです。それに、どうせここに残りたくなるだろうし、とは一体どう言うことでしょうか。いくら魅力的な職務でも、正式に勤める気はカケラもありません。旅を続けたいですから。
「さて、窓の方もやらなきゃですね」
私は先ほどの二人を脳裏にチラつかせながらも、陽が傾き始めた頃には、廊下の掃除を終えました。隅々まで綺麗にしてやりました。与えられた仕事は完璧にこなさなければ気が済まない性分なのです。
私は、メイド用の空き部屋を一つ借りていますが、食事は貴族様たちが食べ終わった後に交代で取るようです。私は19時頃が食事なので、それまでは食器洗いです。他何名かのメイドと一緒の仕事でした。隣のメイドさんの拭き残しも綺麗にしたくなるのも性分でしょうか。
「いただきます」
仕事終わりの食事と言うのは中々良いものですね。献立は、根菜のスープと、少量の牛肉でした。野菜の甘さが身に染みるようです。野営では、暖かい食事も難しいですから、こういうスープは大好きです。
夕食後、観葉植物などの水やりを命じられたので井戸から水を汲み、屋敷内を回っていた時。とぼとぼと歩く小さな影が見えました。よくみると、昼間に見たベル、と呼ばれていた女の子でした。昼間と同様、フードを被っています。
少し興味が湧いたので、話しかけてみることにしました。
「こんばんは。どこへ向かってるんですか?」
「……ッ、こんばんは。ご主人様の部屋に行ってる」
彼女は、私の姿を確認するとすぐにフードを深く被り、警戒しながらも答えてくれました。屋敷の中でフードを被っている理由を聞きたいですが、触れない方が良さそうなのでそっとしておきましょう。
「そうですか、引き止めてごめんなさい」
「ううん、じゃ私は行くね」
相変わらず、フードの箸を抑えながら走っていきました。
「うーん、一体どうしたんでしょうか……」
フードを押さえる彼女の手は、アザだらけで青くなっている箇所がありました。あの子に一体何があったのか。
若干のモヤモヤを抱えながら、私は部屋へ戻るのでした。
翌朝。朝早くから倉庫の清掃です。倉庫は屋敷の外にあり、定期的に掃除をしているそう。頭と口元に布を巻いて、箒雑巾を携え、いざ掃除開始。
「……結構埃っぽいですね。ちゃちゃっとやっちゃいますか」
幾らでも出てくる埃を掃除しながらも、考えるのはあの子のこと。どうして一人だけフードを被っているのか。もしかすると、可愛いケモミミでもあるんじゃないでしょうか。仮にそうなら納得できます。王都では獣人は奴隷のような扱いを受けていると聞いたことがあります。ならば、それを隠したくなるのも分かります。
……ですが、それはつまりこの屋敷で奴隷扱いをされている可能性がある、ということです。彼女を見かける時、毎回カールさんが絡んでいることが多いです。
私は倉庫の掃除を終えた後、彼女を探すことにしました。しかし、それも一筋縄では行きません。見かけたメイドさん全員に聞きましたが、皆口を揃えて『お教えできません』の一辺倒。知らない、と言わない辺り、きっと暗黙の了解のようなものがあるのでしょう。
彼女が獣人でなくとも、良い扱いを受けていない可能性が高くなってきました。出来るだけ屋敷内を歩きつつでもできる仕事をこなしつつ、屋敷中を探し回りました。
「ベルさん、一体どこにいるのでしょうか……?」
私は屋敷を調べ尽くしましたが、結局彼女は見つかりませんでした。あと一箇所だけ、調べていない部屋があります。
「カール=バゲージの部屋……」
彼の部屋にはあまり近づくなと言われているので行きませんでしたが、こうなった以上は確かめなければ。疑問は解消、問題は解決すべきなのです。
中に人の気配がするので、ドアから何とか会話を聞き取れないかと耳を澄まします。
「おい、ベル。獣人であるお前を『保護』してやったんだからヨォ……俺様が好きにしてもいいンダよなぁ! いつも通りだろォ? 何を今更怖がってんだ、あぁ!? ……決めた。今日はお前に夜伽をさせてやる。慰み者にされたくなけりゃ、俺を満足させて見せろよ?」
「あ、うぅ……」
「……最っ低のクズですね……」
会話から推測するに、やはりベルさんは獣人で奴隷として売られており、それを買ったあのクズが毎日彼女を酷い目に合わせているようですね。それに慰み者なんて、最低な言葉を言っていました。
きっと、メイドさんたちにも口封じをしているのでしょう。逆らえば━━とか言って脅しているのかもしれません。あんなクズなら有り得ない話では無いですし。
決めました。
「このクソ貴族は、私が潰してやります」
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