迫害少女は世界を旅す

花依だんご

文字の大きさ
上 下
14 / 18

仮病と計画

しおりを挟む
 リースくんに案内され、やってきたのは中央の大樹。

 そりゃそうですよね。おじいさま、長老ですもんね。

 大樹には、昇降機が用意されていて、上階への行き来も簡単だそうです。丈夫な縄を付けた大きな籠を、魔道具を使って動かしているそうです。確か、エルフは魔法の扱いも上手と聞きますし、魔道具の技術力も高いみたいですね。

「ヴァイオレットさんも乗ってください。早く行きましょう」
「お邪魔しますね」

 昇降機の籠は大人四人がちょうど乗れるくらいの大きさで、リースくんと二人で乗っていますが、特段狭いとも思いませんでした。

 ゆっくりと昇っていく籠。その中からは、あの霧の森が見えました。霧が漂っているのは地上十メートルほどくらいで、それより上は澄み切っています。霧がまるで雲のようで、本でしか見たことのない、雲海、という景色にように見えました。

 この大樹は、周りから眺めても、昇って外を見ても、どちらも絶景を見せてくれました。本当に来てよかったです。

 そうこうしている間に長老様が住まう階についたらしく、昇降機を降りました。ここでも結構高いのですが、まだまだ半分くらいの高さのようで、上は遠そうです。

 扉を開けるや否や、リースくんは弾けるように部屋の中へ入っていきました。

「おじいちゃん、必要な薬草と黄金蝶の鱗粉、持ってきたよ!」
「おぉ、リース。お疲れ様。ん? そちらのお嬢さんはどなたかな?」
「あ、私はヴァイオレット、旅人です」
「ヴァイオレットさんは、ミストベアーから助けてくれたんだよ!」
「なんと……! うちのリースがお世話になりました」
「あぁ、いえいえ、お気になさらず」

 とわざわざベッドの上から頭を下げられました。さっきの白い熊、ミストベアーって言うんですね。白い毛で霧に紛れて襲ってくるから、でしょうか。

 ふむ。リースくんのおじいさま、すごく元気そうに見えます。まるで、黄金蝶の鱗粉が必要な程の重い病気になんてかかっていないような……?

 そう思っていると、ちょいちょい、と肩を叩かれました。振り返ると、エルフの男性がいました。

「すみません、長老らのことについて少しお話しがあります。こちらへ」
「へ? はい」

 手招きされて部屋の外へ。私はきょとんとしながらその方の話を聞きました。

「それで、長老さんがどうかしたんですか?」
「えぇ。リース様からイゼル様が重病を患っていて、薬の材料を取りに行っていた、と聞いていると思います」
「はい、そう聞いています」
「長老のイゼル様は、病気になどかかっておりません。本当に病に侵されている場合、緊急を要しますので、リース様ではなく、専門家に向かわせます」

 まぁ、そりゃぁそうですよね。本当に病気なら、子どもより大人がやった方が早く確実です。やはり、イゼルさんは健康体だったんですね。それならなぜ、リースくんに薬の材料を取りに行かせたのでしょうか。黄金蝶の鱗粉なんて、この辺りでは見ないですし。

「実は、これはエルフの習慣の一つで、成人の儀式のようなものです。上位の万能薬を作る材料を、自らの手で集め、調合することができれば一人前の実力があると認められます」

 ……ん? ということはもしかして、私が黄金蝶の鱗粉を提供しちゃったのってまずかった……?

「あのぉ……」
「言いたい事は分かります。鱗粉を提供してくださったのは貴女なのでしょう。あのような貴重品をポンと渡せるなんて、心の広い方なんですね」
「いえいえ、お気になさらず。それで、リースくんの儀式はどうなるんですか?」
「十分です。本来なら同世代の数人と一緒にクリアする課題なので、そのほとんどを一人でこなしてしまったリース様は合格ラインを超えていますからね」
「へぇー」

 ほぇー、そうだったんですか。パーティー用の課題を一人で達成するなんて……リースくんって結構優秀な人材だったんですね。将来有望株です。

「ちなみに、この後にもう一個だけ課題があって、ミストベアーを討伐する、というものなのですが……」
「それは芳しくない、と」

 どうも歯切れの悪い様子から、あまり良い調子では無いことが分かります。あの時ミストベアーから逃げていたのを見ても、戦うのは苦手なのかもしれませんね。

「そうです。ミストベアーは、弓矢や魔法で目を潰してから畳みかける、というのが定石です。しかし、リース様の魔法特性で、目という小さな的を狙うのに向いておりません。なので、必然的に弓矢を使うことになるのですが、弓矢が苦手なご様子で……材料の収集に家を出るまでは、この大樹の周辺からしばらく出ていなかったんですよ」

 なるほど。まぁ恐らくは、まだ材料が必要だと言ってミストベアーの素材を提示して、戦ってもらおう、という寸法でしょう。要するに、この話はご内密に、という訳ですね。

「どうかこの話は、リース様にはくれぐれもご内密にお願いします。ご助力願えますか?」
「えぇ、構いません」
「あ、申し遅れました。私はボードと申します。ヴァイオレットさん、ご協力感謝します」

 ボードさんと軽い握手を交わし、部屋に戻ると、やや困り顔のイゼルさんと、目をキラキラ輝かせたリースくんがいました。

「ヴァイオレットさん! 僕と一緒にミストベアーを倒してくれませんか?」
「え」

 ……この計画の先行きが不安です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

職人は旅をする

和蔵(わくら)
ファンタジー
別世界の物語。時代は中世半ば、旅する者は職人、旅から旅の毎日で出会いがあり、別れもあり、職人の平凡な日常を、ほのぼのコメディで描いた作品です。 異世界の神様って素晴らしい!(異神・番外編)

処理中です...