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氷漬けの街
しおりを挟む箒の上から失礼します。ヴァイオレットです。
今日は、『物作りの聖地』と呼ばれる街へ行った時の話をしましょう。
私はヒュプノスで兄妹の仲直りを手伝ったあと、冒険者ギルドで貰った地図を元に、次の街へ向かっていました。
-------
「『物作りの聖地』ですか」
物作りの聖地とは、次に向かう街の別名のことです。その名の通り、生産技術が発展した街みたいです。特に、服飾やガラス細工がオススメだとヒュプノスの衛兵さんに聞きました。あと、氷像も有名みたいですね。
ガラス細工……『旅の足跡』にも登場していましたが、百聞は一見にしかず。本で100回読むよりも、一度実際に見たほうが得られるものは多いです。実はこれ、私の座右の銘なんですよ。
物作りの聖地、スティアはヒュプノスより北の、寒冷地帯にあります。1年の80%は雪が降っているそうです。よって私は、寒さを防ぐためのロングコートを準備しています。ヒュプノスにて事前に買っておきました。
「わぁー、大きな雪山ですね」
眼前に聳え立つ一対の巨大な雪山。その間は渓谷になっていて、渓谷を抜けた先にスティアがあるとのことです。
「この雪山、双子雪山なんて呼ばれてるらしいですが、本当に双子みたいですね。若干背の高い右の雪山がお兄さんでしょうか。なんだか微笑ましいですね」
ふと、先日別れたばかりの兄妹を思い出しました。あの二人は上手くやれているでしょうか?
私は双子の間を抜け、物作りの聖地、スティアへ向かうのでした。
---------
「……ふむ。これは一体どういうことでしょうか?」
渓谷を越え、やっとの思いでスティアの入り口へ到着しました。しかし……
「どうして正門が氷漬けになってるんですか!?」
スティアの正門は、青い氷によって塞がれていたのです。いくらここが寒冷地帯だとはいえ、こんなことが自然と起こる筈がありません。どう見ても異常事態です。
「この氷、炎魔法で溶かせますかね……」
物は試しと門に炎を放ちましたが、溶けた様子はありません。いや、でも水が滴っているので、どこか溶けているのでしょう。門同士の境目を狙って溶かせば、開けられるかもしれません。という訳で、連打です。
連打連打連打連打連打!!
炎魔法を連打し、なんとか門の氷を溶かすことに成功しました。石レンガで出来た冷たい門をゆっくりと開く。
「これは……!」
私が見たのは、氷漬けになった街。ありとあらゆる物が氷像と化し、街の一部になっていました。そして、生き物も例外ではありません。
街の人々が、柵の中の家畜が、連れていたペットが、皆同じように凍りついていました。これには少し恐怖を覚えました。私は、街の異様な姿に怯えながら、奥へ進みました。
「あ、明かりが付いてますね!」
街の中央にある広場。そこだけ明るく光っているのが見えました。
広場には、何人かの人たちが集まっていました。よかった、生き残った人がいて安心しました。この状態の街で一人ぼっちは流石に辛いです。私は広場に近づいて、近くにいたナイスガイな男性に声をかけてみました。
「すみませーん!」
「ん? 何だお前。ここに何しにきた!」
「え?」
話しかけると、急に槍を向けられました。なんだか物騒ですね!?
「ちょ、ちょっと待ってください。私は旅人で、旅の途中にこの街に立ち寄ったんですが、街全体が氷漬けになっていて、ここに灯りが見えたのでやってきました。身分証明書もあります!」
と言って冒険者ギルドで作ったカードを見せる。彼は怪訝な顔をしていましたが、すぐに槍を下ろして謝罪してくれました。
「そうか、旅人か。済まなかったな。ちょっとピリピリしてたんだ。許して欲しい」
「えぇ。それは構いませんが、これは一体、どういう状況なのですか?」
「正直なところ、俺たちにも分からん。俺はパスタの店をやってたんだが、仕入れのために街を出てた。帰ってきたらこの有様さ。こんなタイミングでくるなんて、運が悪かったな。あとあんた、旅人なんだよな。どうやってこの街に入ってきた? 正門は氷漬けになってた筈だが」
「それなら、炎魔法で溶かしてきました。一応、魔法が使えるので」
そう言って指先に火を灯す。すると、彼は驚き目を見張って、わずかに高揚とした声で言った。
「炎魔法が使えるのか!? 旅人、あんたは街の希望だ!」
「へ?」
「おーいお前ら、魔法を使える奴が来たぞ!」
私は広場の中央に招かれ、他の方々に紹介されました。話の内容から察するに、私がこの中で唯一、炎魔法を使えるのでしょう。しかし、誰か一人くらい、他にも使える人はいなかったんでしょうか。
そこには、男女問わず色んな人がいました。
「自己紹介を忘れてたな。俺はガイル。『彩りパスタ』の店長をやってる。よろしくな」
先程事情を聞かせてくださったナイスガイの方です。
『彩りパスタ』とはお店の名前だそうです。……なんというか、意外です。
「あ、俺はレストって言うっす。ガイルさんのお店で弟子やらせて貰ってます。よろしくっす」
ガイルさんのお店で弟子をやってるというレストさん。歳の頃は20歳くらいでしょうか。ガイルさんの仕入れに着いて行っていたため、氷漬けの難を逃れたそうです。
「次は私ね。私はローズ。氷像の彫刻師よ。全く、氷を調達しに出てなかったら、私も今頃氷像だったかもね。よろしく、旅人さん」
ローズさんはお若い女性で、彫刻道具を幾つか持っていました。彫刻道具で氷を削ってなんとか門を開けたり出来ないかと試してみたそうですが、如何せん氷が硬くて無理だったそうです。
「……私はエリン。占い師をやってるわ。占いの依頼があってこの街に来たけど、氷漬けになっているなんて……」
エリンさんは占い師らしく、水晶玉やカードを持っていました。普段は別の街に居て、たまにこうして依頼を受けて訪問するそう。
「僕はノアって言います。よろしくお願いします……」
ノアくんは10歳ぐらいの男の子で、どうやらちょっと街の外に遊びに出て、帰ってきたらこうなっていたとのこと。この年なのに、と不憫でなりませんでした。
「私はヴァイオレット。通りすがりの旅人です。魔法は使えますが、全て初等レベルなので悪しからず。皆さんよろしくお願いします」
最後は私。イケてる美少女ヴァイオレットです。いつもの服装の上にロングコートを羽織っているのですが、足元が寒いです。準備不足でした。
自己紹介を済ませた私たちは、今後の計画について話し合うことにしました。
今日は、『物作りの聖地』と呼ばれる街へ行った時の話をしましょう。
私はヒュプノスで兄妹の仲直りを手伝ったあと、冒険者ギルドで貰った地図を元に、次の街へ向かっていました。
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「『物作りの聖地』ですか」
物作りの聖地とは、次に向かう街の別名のことです。その名の通り、生産技術が発展した街みたいです。特に、服飾やガラス細工がオススメだとヒュプノスの衛兵さんに聞きました。あと、氷像も有名みたいですね。
ガラス細工……『旅の足跡』にも登場していましたが、百聞は一見にしかず。本で100回読むよりも、一度実際に見たほうが得られるものは多いです。実はこれ、私の座右の銘なんですよ。
物作りの聖地、スティアはヒュプノスより北の、寒冷地帯にあります。1年の80%は雪が降っているそうです。よって私は、寒さを防ぐためのロングコートを準備しています。ヒュプノスにて事前に買っておきました。
「わぁー、大きな雪山ですね」
眼前に聳え立つ一対の巨大な雪山。その間は渓谷になっていて、渓谷を抜けた先にスティアがあるとのことです。
「この雪山、双子雪山なんて呼ばれてるらしいですが、本当に双子みたいですね。若干背の高い右の雪山がお兄さんでしょうか。なんだか微笑ましいですね」
ふと、先日別れたばかりの兄妹を思い出しました。あの二人は上手くやれているでしょうか?
私は双子の間を抜け、物作りの聖地、スティアへ向かうのでした。
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「……ふむ。これは一体どういうことでしょうか?」
渓谷を越え、やっとの思いでスティアの入り口へ到着しました。しかし……
「どうして正門が氷漬けになってるんですか!?」
スティアの正門は、青い氷によって塞がれていたのです。いくらここが寒冷地帯だとはいえ、こんなことが自然と起こる筈がありません。どう見ても異常事態です。
「この氷、炎魔法で溶かせますかね……」
物は試しと門に炎を放ちましたが、溶けた様子はありません。いや、でも水が滴っているので、どこか溶けているのでしょう。門同士の境目を狙って溶かせば、開けられるかもしれません。という訳で、連打です。
連打連打連打連打連打!!
炎魔法を連打し、なんとか門の氷を溶かすことに成功しました。石レンガで出来た冷たい門をゆっくりと開く。
「これは……!」
私が見たのは、氷漬けになった街。ありとあらゆる物が氷像と化し、街の一部になっていました。そして、生き物も例外ではありません。
街の人々が、柵の中の家畜が、連れていたペットが、皆同じように凍りついていました。これには少し恐怖を覚えました。私は、街の異様な姿に怯えながら、奥へ進みました。
「あ、明かりが付いてますね!」
街の中央にある広場。そこだけ明るく光っているのが見えました。
広場には、何人かの人たちが集まっていました。よかった、生き残った人がいて安心しました。この状態の街で一人ぼっちは流石に辛いです。私は広場に近づいて、近くにいたナイスガイな男性に声をかけてみました。
「すみませーん!」
「ん? 何だお前。ここに何しにきた!」
「え?」
話しかけると、急に槍を向けられました。なんだか物騒ですね!?
「ちょ、ちょっと待ってください。私は旅人で、旅の途中にこの街に立ち寄ったんですが、街全体が氷漬けになっていて、ここに灯りが見えたのでやってきました。身分証明書もあります!」
と言って冒険者ギルドで作ったカードを見せる。彼は怪訝な顔をしていましたが、すぐに槍を下ろして謝罪してくれました。
「そうか、旅人か。済まなかったな。ちょっとピリピリしてたんだ。許して欲しい」
「えぇ。それは構いませんが、これは一体、どういう状況なのですか?」
「正直なところ、俺たちにも分からん。俺はパスタの店をやってたんだが、仕入れのために街を出てた。帰ってきたらこの有様さ。こんなタイミングでくるなんて、運が悪かったな。あとあんた、旅人なんだよな。どうやってこの街に入ってきた? 正門は氷漬けになってた筈だが」
「それなら、炎魔法で溶かしてきました。一応、魔法が使えるので」
そう言って指先に火を灯す。すると、彼は驚き目を見張って、わずかに高揚とした声で言った。
「炎魔法が使えるのか!? 旅人、あんたは街の希望だ!」
「へ?」
「おーいお前ら、魔法を使える奴が来たぞ!」
私は広場の中央に招かれ、他の方々に紹介されました。話の内容から察するに、私がこの中で唯一、炎魔法を使えるのでしょう。しかし、誰か一人くらい、他にも使える人はいなかったんでしょうか。
そこには、男女問わず色んな人がいました。
「自己紹介を忘れてたな。俺はガイル。『彩りパスタ』の店長をやってる。よろしくな」
先程事情を聞かせてくださったナイスガイの方です。
『彩りパスタ』とはお店の名前だそうです。……なんというか、意外です。
「あ、俺はレストって言うっす。ガイルさんのお店で弟子やらせて貰ってます。よろしくっす」
ガイルさんのお店で弟子をやってるというレストさん。歳の頃は20歳くらいでしょうか。ガイルさんの仕入れに着いて行っていたため、氷漬けの難を逃れたそうです。
「次は私ね。私はローズ。氷像の彫刻師よ。全く、氷を調達しに出てなかったら、私も今頃氷像だったかもね。よろしく、旅人さん」
ローズさんはお若い女性で、彫刻道具を幾つか持っていました。彫刻道具で氷を削ってなんとか門を開けたり出来ないかと試してみたそうですが、如何せん氷が硬くて無理だったそうです。
「……私はエリン。占い師をやってるわ。占いの依頼があってこの街に来たけど、氷漬けになっているなんて……」
エリンさんは占い師らしく、水晶玉やカードを持っていました。普段は別の街に居て、たまにこうして依頼を受けて訪問するそう。
「僕はノアって言います。よろしくお願いします……」
ノアくんは10歳ぐらいの男の子で、どうやらちょっと街の外に遊びに出て、帰ってきたらこうなっていたとのこと。この年なのに、と不憫でなりませんでした。
「私はヴァイオレット。通りすがりの旅人です。魔法は使えますが、全て初等レベルなので悪しからず。皆さんよろしくお願いします」
最後は私。イケてる美少女ヴァイオレットです。いつもの服装の上にロングコートを羽織っているのですが、足元が寒いです。準備不足でした。
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