迫害少女は世界を旅す

花依だんご

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文通都市

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 歩くこと数時間。ようやく長い長い森を抜け、草原に出ました。全身で風を堪能しながら、小道を行きます。

 見渡す限り続く草原。道も伸びてはいますが、その先には何があるやら。

「うーん、あの村も田舎だと思ってたけど、ここまでとは……まぁ、完全に当てずっぽうな私が悪いんですけど」

 私の旅は完全当てずっぽう。だって、あの村には地図なんて物は無いですもん。周辺にある街なんて、何にも知らないんです。

「しかし……こんなにゆったりとした気持ちになれたのは、何年ぶりでしょうか」

 髪色が紫というだけで虐げられてきた、今までの可哀想な私とは違って、今はこんなにも晴れやかな気持ちなのです。自分から水を差すようなまねはすべきではないでしょう。日差しがとても暖かいです。

「どうせ長い旅路なんですし、気楽に行きましょう」

 それから私は、綺麗な花畑に寝転がったり、美味しそうな木の実を食べてみたら背筋が伸びるほどすっぱかったり、飛んでいた蝶をお花で釣ってみたり、と脇道に逸れつつも、道中を満喫しました。

「お、見えてきました!」

 なだらかな丘を越えた先に、城壁に囲まれた街が見えました。

「本でしか読んだことないですが、実際に見るとやっぱりすごい……」

 百聞は一見にしかず。本で何度も読んだ世界よりも、実際に見た世界の方が100倍興味深いです。

「早速、行ってみましょう!」

 逸る気持ちのまま、小走りで城壁の入り口を目指しました。

「はい、止まってください」

 と、いきなり衛兵の方に呼び止められてしまいました。無視して通ろうとしたんですから、そりゃ当然ですよね。大人しく話を聞くことにします。

「はい、止まりました」
「身分証明書と入国理由をお願いします」
「ええっと、私ゼタの村出身なのですが……身分証明書を持っていないので、どこかで作ろうかと思い、ここを訪れました」

 あの村はゼタの村というのですが、何でも過去に現れた魔族を倒した勇者様の名前なのだそう。正直、何の興味も湧きませんね。

「ゼタの村の出身なんですか?」
「はい、そうですけど……?」
「大丈夫だったんですか!? あなたの紫色の髪、とても綺麗ですが、あの村では忌むべき色だったはずです。とても酷い扱いを受けていたことでしょう……」

 話す途中で衛兵さんの私を見る目が同情の視線に変わっていました。今までの自分の境遇を振り返ると、なるほど。同情されても仕方ないような暮らしですね。

 魔族に対する執着という言葉で、確信した。

「どうかこの文通の街、『ヒュプノス』で、ゆっくりして行って下さいね」
「はい、ぜひそうさせて頂きます」
「じゃ、もう通っても大丈夫ですよ。身分証明書、作るのをお忘れなく」
「ありがとうございます。では失礼しますね」

 と言って私はペコリと頭を下げ、城門へ歩を進める。街の名前も知れたし、あの衛兵さんには感謝しなきゃですね。

 私はこうして、『ヒュプノス』への入国を果たしました。初めての街に、私の心はウキウキ最高潮です!

「あ、そうそう、満月堂、ってところのクリームパンが有名だから、一度食べてみるといいよー!」
「後で寄ってみます!」

 あの衛兵さんは、意外と世話焼きなのかも知れませんね。

 城門を潜り、初めて中の景色を目の当たりにした。

「わぁ……」

 思わず感嘆の声が漏れたのも仕方ないだろう。まず目に入ったのは、目の前の広場を彩る噴水。こんな物、あの村に暮らしていては一生見れなかったでしょう。他にも、等間隔に並べられたタイルの床、焼きたてのパンを売っている屋台。綺麗に組まれた石造りの家々には、全てに赤く塗られた箱が備え付けられていました。

 一体あの箱は何なのでしょう?

 その場で街の様子に見惚れていると、いつの間にか街の人たちに注目されていました。咳払いをして、すぐさまその場を離れました。大人数に注目されると、案外恥ずかしいものですね。

「それにしても、文通の街、ですか」

 文通とはつまり、手紙のことでしょう。街の様子を見ている限り、家の前にある赤い箱に手紙を入れているようです。なるほど、手紙を受け取るための箱だったんですね。それならほとんどの家についているのも納得です。

 何がともあれ、初めての街ですし、楽しまなきゃ損です!


「と、意気込んだのはいいんですが……」

 しばらく歩いた後、私は呆然と立ち尽くしました。何故かって? 迷子だからですよ。

「私としたことが、完全にノープランでした……」

 私としたことがも何も、村を飛び出した時点でノープランだったので、今更ですね。

 私は今、よくわからない路地の中。どうしてここに入ってしまったのかは永遠の謎です。

「とりあえずここから出て、大人しく道を聞きましょうか」

 と歩き始めたものの、結局路地を抜け出すことがで来ませんでした。ここまで来ると才能なのでしょうか。こんな才能は要りませんよ……私は一人、悶々としていたのでした。

「おや? おーい、お嬢さーん!」

 そんな私に声をかけてくれたのは、赤いベレー帽を斜めに被った青年でした。

「どうしてこんなところに人が?」
「それはこっちのセリフですよ。お嬢さん、こんなところで何をしてるんですか?」
「いえ、道に迷ってしまったもので……」
「なるほど。ということは旅人さんか。僕はセイル。郵便配達員さ。ここは届け先への近道だから通ったんだけど、まさか誰かに出会うなんてね」

 どうやら彼は通りすがりの郵便配達員みたいですね。配達員ならば街の地理にも詳しいでしょうし、案内を頼みたいところです。

「私はヴァイオレットと言います。この街に来たばかりで何もわからないので、もしよければ、街の案内をしてくださいませんか?」
「おーけー任せて。僕はセイル。この後お昼休憩だから、その時に。でも、先にこの手紙を届けさせて。すぐそこだからさ」
「分かりました。ついて行きます」

 セイルさんについていくと、すぐに路地を抜けることができました。その後程なくして目的の家へ到着。ポストの中へ手紙を入れています。

 どうやら、ここはどこか貴族様の邸宅のようですね。煌びやかといえば聞こえがいいですが、正直、ゴテゴテしていて趣味が悪いなと思いました。口には出しませんけど。

 貴族の屋敷から離れ、最初に来た広場に戻った私は、セイルさんに街を案内してもらうことにしました。

 旅に出て早速ですが、色んな人に頼りっぱなしですね。私は思わず苦笑いが溢れました。
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