夕暮れゾンビのお日様音頭

ケチャップかみ

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「アンタのそれって演技なの?それとも素なの?」

「ぞんびー?」

「それよ、それ、その語尾はどう考えてもおかしいでしょ、何よぞんびーって」

「何かおかしいぞんびー?」

「いやいや、ゾンビだから語尾にぞんびーってロボットの語尾がロボぐらいおしいわよ」

「ぞんびはゾンビじゃないぞんびー」

「ガムテープで口塞ぐわよ」

「ひーん、それは嫌ぞんびー、止めてほしいぞんびー」

「はぁ…もういいわ、疲れたし休ませて」

「ぞんぞんびー!」


世界を照らす太陽に憧れ、焦がれ、影を掴んだ頃には時間切れ。
物語の出番を終えた主演女優は焼け落ち、灰となり、チリとして終焉を迎える筈だったのに。
少しの間、佇んでいたせいでお節介焼きに掴まり首輪をかけられ、この屋敷の番犬として飼われている。

難しい言葉でごまかそうとしても『身分不相応な夢見たガキが破滅した』の一言で片付くのだが、見栄ぐらいは張らせて頂きたい。
今までの人生、人間関係を疎かにし続けたせいで話しかけてくる人間も、話す人間も一人しかいないのだが。


「やることないぞんびー、暇ぞんびー」


ドタドタと足音を鳴らし、甲高い声が響いてくる。
部屋を出て行って、一分も立っていない。
ゾンビをペットにして初めて解ったが、人間は死ぬと脳みそが死に絶え、欲望を抑えきれなくなるらしい。
子供みたいな図体だから、死ぬ前から子供みたいな性格でそのままの可能性はあるが、他のゾンビがいないため検証はできそうに無い。


「遊んでほしいぞんびー」


部屋に戻ってソファーに座る私に飛びついて来た無礼者の首をもぎ取り、ハンカチを口に詰める。
ここ一か月、睡眠の邪魔をされ続け思いついた対策であるが、随分と手際が良くなってきたと思う。
コツは一切の慈悲を与えない事と思い切り良くやることである。じゃないと逃げられる。


「ひぎゅゅう、ふらひそんひー、はふふてそんひー」


まだうるさいので、追加でタオルも詰め込む。
このゾンビ、死んでるだけあって睡眠を必要としないらしい。
そのせいで朝昼晩、ずっとうるさい。本当にうるさい、そして静かにしろと言っても我慢しない。

他に方法はあるかも知れないが、私はこの方法しか思いつかなかった。


「ふー…ふー…」


まだ何か喋ろうとしてるがこれぐらいなら、別に良い。


「寝るから朝まで静かにしてなさい」

「ぇぅー…」

「じゃあおやすみなさい、朝まで静かにね」


忘れやすく、認識も鈍いため、二度言いつけ
ゾンビの頭を抱き枕代わりに、首無し死体にもたれかかり、目を瞑る。
頭も、身体も、死体らしく冷たく、丁度良い大きさだから気持ち良く寝れるのだ。

夢は見ず、朝までぐっすりと。
ゾンビと一緒に寝る事が、これ程安らぐとは知らなかった。
生きた人間は生暖かいため、安眠妨害になる事は知っていたが、死体だとこうも変わるのか。

この事実を知っていれば、私は、もっと早くに…。




五時間後目が覚めた。
外はまだ暗く、まだ何か話そうとするゾンビの首をソファーに投げ置き、時計を見ると四時だった。
首無し死体にくっつけると動き回って、うるさいため太陽が昇り切るまで放置が安定である。

外が暗いうちに、さっさと鍛錬を済ませてしまおう。
もう身体を鍛える目的が消滅し、鍛錬なんて無意味であるがそれでも惰性で続けている。
無意味な事は嫌いだったが、ゾンビが住み着いてからは無意味な事もするようになってきた。

そもそもあのゾンビの存在が家では無駄しか無いから当然かもしれない。

本当に無駄な事が嫌なら。
あの日、私はゾンビの事を見捨てて、こいつを捜索してたっぽい自衛隊か警察にでも突き出している。

けど、何度考えてもよくわからない。
無駄な事が嫌いな私は、何故ゾンビを匿うことにしたのか。

一か月前の私に何があったのかが、判らないのだ。




鍛錬を終え、シャワーを浴び、朝ご飯を食べている最中にゾンビの首の存在を思い出し、首をつける。
簡単にもげるし、簡単にひっつく、よくわからない首だ。


「ひどいぞんびー!クロは鬼ぞんびー!悪魔ぞんびー!ペンギンぞんびー!」


ペンギンとは何ぞや




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