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第48話 お迎え
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王宮の近くには大臣たちの屋敷がある。王宮に近ければ近いほど、その役職が高いのだ。シーンは一番近い屋敷の門の前に立つ。
「頼もう」
というと、十人いる門衛の一人が剣や鎧をガチャガチャさせながら近づいて来た。シーンは正装して胸には大きな勲章をぶら下げていたので、高貴なかただと思い、門衛は笑顔だった。
「お客人ですか? お約束はございますか?」
「約束はないが、閣下にシーンが来たと伝えてくれたまえ」
それは宰相ムガルの屋敷だった。門衛は当然シーンの名を知っていた。この屋敷のご令嬢の意中の人である。門衛は飛び上がって門の中に入り、係のものに「シーンが来た」と伝えた。
そうなると屋敷は大騒ぎだ。実はムガル宰相は、先の「勇者称号を得ればサンドラを娶れる」騒ぎで体調を悪くしていたのだが、シーンが来たときいて床から飛び起きた。
門衛は門の前で立つシーンの元に駆け寄り伝言を伝える。
「旦那様がお会いになります。どうぞお入りください」
「うん。お役目ご苦労」
シーンが門の中に入ると、係が三人集まり案内する。剣や上着を預けるよう言われ、屋敷の扉はシーンが触れることなく中から使用人によって開かれた。
そこには屋敷の家宰が立っており、彼が先頭となって応接室に案内する。応接室にはすでにムガル宰相が待っていた。
「勇士シーンよ。よくぞ参った。トロル凱旋の折りに一瞥した以来であった」
「ええ閣下。ご健勝のご様子でなにより。閣下のご長命をご祈念申し上げます」
「うむ。しかし健勝ではなかった。ここのところ床に伏しておってな」
「おや何故です?」
「実は娘サンドラが、勇者称号を持つものの元に嫁ぐと噂になってしまってな。それでギリアム殿下が激しくそれを求めたのだ。余としてはそなたに婚約を打診しておったので、娘の気持ちと殿下の気持ちの板挟みになってしまってな。気鬱の病にかかったのよ」
「それはお気の毒でしたな。本日シーンはその処方薬を持って参りました」
「む。なにかね、それは。人参か?」
シーンは笑顔で手を振り否定した。
「実は私、先ほど陛下より勇者称号を賜りました。それにより公爵の叙爵を受けましたので、こうしてサンドラを迎えに上がったのです」
「な、なに!?」
宰相は驚きの余り後ろに仰け反ってしまった。
「さてサンドラの部屋はどこですかな? 早速連れて帰ります」
宰相は余りのことに声もでない。テーブルの上にある水差しを掴んで震えながら器に水を注ぎ、一気にそれをあおって一息。
「さ、左様であるか。今までが今までであるから、別の返事がくると思っておったので安心した。しかしどういう心境の変化かね?」
しかしシーンは宰相の言葉などもう関係ないように辺りをキョロキョロして、家宰にサンドラの部屋の場所を聞いていた。
家宰はどうしてよいかわからず困った顔をしたが、宰相が案内するように手で合図したので、綺麗に回れ右してシーンを案内した。
長い廊下を渡り、サンドラの部屋に近づくと扉の前にはいつもの護衛が四人。家宰の頭の上に背の高いシーンの顔が見えたので眉を吊り上げて横列に並び、これ以上進むことを拒んだ。
なにしろ先ほど自分の主君であるサンドラの横面を叩いたシーンである。こんな危険なものを近付けるわけがなかった。
家宰が怒気を含んで声を上げる。
「君たちなんの真似か。これは旦那様の客人ぞ!?」
しかし護衛もそれを押し返す。
「我々の主君はお嬢様です。お嬢様に危険なものは会わすわけにはいけません!」
しばらく押し問答していたが、シーンは能天気である。
「やあ君たち。サンドラを嫁に迎えに来たのだ。道を開けてくれたまえ。おーい、サンドラー」
そう言われても、自分たちの主君への暴力は今の今の話である。四人ともシーンに襲いかかって四肢を押さえ付けた。
さてサンドラはというと、部屋の中で刺繍をして遊んでいた。ハンカチにはシーンの名前を縫っている。そこに廊下から自分の呼ぶ声。壁を挟んでいることなので、男性の声とは分かるが誰かは分からない。しかし呼び捨てである。
サンドラはハッと思い当たり、侍女のほうを向いた。
「きっとロットランお兄様だわ!」
「そうでしょうか? ロットラン様は領地の屋敷でございますし、来るとは聞いておりません」
「ではノーイ。ちょっと見てきて頂戴」
「かしこまりました」
ノーイという侍女長は、お上品にしずしずと歩いて扉を開けると、そこには護衛に捕まれたシーンである。
「ああ!?」
思わず下品な声を上げてしまったが口を押さえる。そしてサンドラの部屋に首だけ突っ込んで他に控える侍女を呼んだ。
「マーサとユーリ。ちょっと……」
「はい。ノーイさま」
二人とも優雅な足取りでノーイとともに廊下にでると、シーンの姿。驚いてマーサもユーリも飛び上がった。
護衛に続いてこの三人の侍女も両手を広げてシーンの侵入を阻む。
「ええい。君たちどかないか!」
「いいえ、どきません。お嬢様にあなたは近付けません!」
しかし怪力無双のシーンが両手を振るとみんな吹っ飛んで壁のほうに押しやられてしまった。
シーンは襟を整え扉を叩くものの、ノーイは他の護衛を呼んだ。
「ものども! であえ、であえー!」
「うるさいな。勝手に入るよ」
シーンが扉を開けると、サンドラと目があった。二人とも涙を流す。そして駆け寄って部屋の中央で抱き合った。
「懐かしいな、この部屋は。二人でおままごとをした……」
「ええ、そうだったわね……シーン」
「その時から君のことが好きだったのだ」
「シーン! いっぱいいっぱい意地悪してごめんなさい。許してちょうだい……」
「……うん。もういいんだ」
二人は顔を見合わせてキスをする。しかしそこに侍女と護衛がなだれ込んできた。
「けだもの! お嬢様から離れなさい!」
「そうだシーン! 先ほどお嬢様を張り倒しておいてなんだというのだ!」
そこに侍女長のノーイがサンドラに向かって進言する。
「お嬢様。この者はお嬢様にいじめられたことを未だに根に持ち復讐しようとしているのでございます。どうかみなの話を聞き入れてください」
そう言って平伏するも、シーンはサンドラを胸に抱く。
「我々は好き合っておるのに、妨害なさるな。私は本日陛下より勇者称号を賜り、公爵に叙爵されたのだ。家柄も釣り合い、なんの問題もなかろう」
「ええ? 勇者称号ですって?」
サンドラは赤い頬を押さえてシーンに訪ねた。シーンは微笑んで答える。
「ああそうさ。勇者称号をもつものは君を迎える資格があるのだとか」
そういってシーンはサンドラの前に跪いて片手をとりそれにキスをした。
「あなたをお迎えに上がりました。このシーンの元に来てくださいますね。断られてもさらうまでですが」
「まあ嬉しいわシーン。ほんとうに?」
「本当さ。こんなこと冗談で言わないよ」
その言葉に二人は微笑み合う。
しかし護衛も侍女たちも、顔を真っ赤にして決して許そうとはしなかった。
シーンはサンドラをヒョイと胸の前に抱え上げる。
「そんなに言われても貰っていくよ。君たちも心配ならついてきたまえ。禄は出すぞ?」
すると護衛も侍女も頷いた。
「当然。あなたにお嬢様を蔑ろにされたくありませんから。あなたじゃなくお嬢様に仕えるんですからね!」
そう言って、部屋を出て澄ました顔で二人が出てくるの整列して待ち、シーンがサンドラを抱えあげたまま出てくるとその後ろに従って行った。
「頼もう」
というと、十人いる門衛の一人が剣や鎧をガチャガチャさせながら近づいて来た。シーンは正装して胸には大きな勲章をぶら下げていたので、高貴なかただと思い、門衛は笑顔だった。
「お客人ですか? お約束はございますか?」
「約束はないが、閣下にシーンが来たと伝えてくれたまえ」
それは宰相ムガルの屋敷だった。門衛は当然シーンの名を知っていた。この屋敷のご令嬢の意中の人である。門衛は飛び上がって門の中に入り、係のものに「シーンが来た」と伝えた。
そうなると屋敷は大騒ぎだ。実はムガル宰相は、先の「勇者称号を得ればサンドラを娶れる」騒ぎで体調を悪くしていたのだが、シーンが来たときいて床から飛び起きた。
門衛は門の前で立つシーンの元に駆け寄り伝言を伝える。
「旦那様がお会いになります。どうぞお入りください」
「うん。お役目ご苦労」
シーンが門の中に入ると、係が三人集まり案内する。剣や上着を預けるよう言われ、屋敷の扉はシーンが触れることなく中から使用人によって開かれた。
そこには屋敷の家宰が立っており、彼が先頭となって応接室に案内する。応接室にはすでにムガル宰相が待っていた。
「勇士シーンよ。よくぞ参った。トロル凱旋の折りに一瞥した以来であった」
「ええ閣下。ご健勝のご様子でなにより。閣下のご長命をご祈念申し上げます」
「うむ。しかし健勝ではなかった。ここのところ床に伏しておってな」
「おや何故です?」
「実は娘サンドラが、勇者称号を持つものの元に嫁ぐと噂になってしまってな。それでギリアム殿下が激しくそれを求めたのだ。余としてはそなたに婚約を打診しておったので、娘の気持ちと殿下の気持ちの板挟みになってしまってな。気鬱の病にかかったのよ」
「それはお気の毒でしたな。本日シーンはその処方薬を持って参りました」
「む。なにかね、それは。人参か?」
シーンは笑顔で手を振り否定した。
「実は私、先ほど陛下より勇者称号を賜りました。それにより公爵の叙爵を受けましたので、こうしてサンドラを迎えに上がったのです」
「な、なに!?」
宰相は驚きの余り後ろに仰け反ってしまった。
「さてサンドラの部屋はどこですかな? 早速連れて帰ります」
宰相は余りのことに声もでない。テーブルの上にある水差しを掴んで震えながら器に水を注ぎ、一気にそれをあおって一息。
「さ、左様であるか。今までが今までであるから、別の返事がくると思っておったので安心した。しかしどういう心境の変化かね?」
しかしシーンは宰相の言葉などもう関係ないように辺りをキョロキョロして、家宰にサンドラの部屋の場所を聞いていた。
家宰はどうしてよいかわからず困った顔をしたが、宰相が案内するように手で合図したので、綺麗に回れ右してシーンを案内した。
長い廊下を渡り、サンドラの部屋に近づくと扉の前にはいつもの護衛が四人。家宰の頭の上に背の高いシーンの顔が見えたので眉を吊り上げて横列に並び、これ以上進むことを拒んだ。
なにしろ先ほど自分の主君であるサンドラの横面を叩いたシーンである。こんな危険なものを近付けるわけがなかった。
家宰が怒気を含んで声を上げる。
「君たちなんの真似か。これは旦那様の客人ぞ!?」
しかし護衛もそれを押し返す。
「我々の主君はお嬢様です。お嬢様に危険なものは会わすわけにはいけません!」
しばらく押し問答していたが、シーンは能天気である。
「やあ君たち。サンドラを嫁に迎えに来たのだ。道を開けてくれたまえ。おーい、サンドラー」
そう言われても、自分たちの主君への暴力は今の今の話である。四人ともシーンに襲いかかって四肢を押さえ付けた。
さてサンドラはというと、部屋の中で刺繍をして遊んでいた。ハンカチにはシーンの名前を縫っている。そこに廊下から自分の呼ぶ声。壁を挟んでいることなので、男性の声とは分かるが誰かは分からない。しかし呼び捨てである。
サンドラはハッと思い当たり、侍女のほうを向いた。
「きっとロットランお兄様だわ!」
「そうでしょうか? ロットラン様は領地の屋敷でございますし、来るとは聞いておりません」
「ではノーイ。ちょっと見てきて頂戴」
「かしこまりました」
ノーイという侍女長は、お上品にしずしずと歩いて扉を開けると、そこには護衛に捕まれたシーンである。
「ああ!?」
思わず下品な声を上げてしまったが口を押さえる。そしてサンドラの部屋に首だけ突っ込んで他に控える侍女を呼んだ。
「マーサとユーリ。ちょっと……」
「はい。ノーイさま」
二人とも優雅な足取りでノーイとともに廊下にでると、シーンの姿。驚いてマーサもユーリも飛び上がった。
護衛に続いてこの三人の侍女も両手を広げてシーンの侵入を阻む。
「ええい。君たちどかないか!」
「いいえ、どきません。お嬢様にあなたは近付けません!」
しかし怪力無双のシーンが両手を振るとみんな吹っ飛んで壁のほうに押しやられてしまった。
シーンは襟を整え扉を叩くものの、ノーイは他の護衛を呼んだ。
「ものども! であえ、であえー!」
「うるさいな。勝手に入るよ」
シーンが扉を開けると、サンドラと目があった。二人とも涙を流す。そして駆け寄って部屋の中央で抱き合った。
「懐かしいな、この部屋は。二人でおままごとをした……」
「ええ、そうだったわね……シーン」
「その時から君のことが好きだったのだ」
「シーン! いっぱいいっぱい意地悪してごめんなさい。許してちょうだい……」
「……うん。もういいんだ」
二人は顔を見合わせてキスをする。しかしそこに侍女と護衛がなだれ込んできた。
「けだもの! お嬢様から離れなさい!」
「そうだシーン! 先ほどお嬢様を張り倒しておいてなんだというのだ!」
そこに侍女長のノーイがサンドラに向かって進言する。
「お嬢様。この者はお嬢様にいじめられたことを未だに根に持ち復讐しようとしているのでございます。どうかみなの話を聞き入れてください」
そう言って平伏するも、シーンはサンドラを胸に抱く。
「我々は好き合っておるのに、妨害なさるな。私は本日陛下より勇者称号を賜り、公爵に叙爵されたのだ。家柄も釣り合い、なんの問題もなかろう」
「ええ? 勇者称号ですって?」
サンドラは赤い頬を押さえてシーンに訪ねた。シーンは微笑んで答える。
「ああそうさ。勇者称号をもつものは君を迎える資格があるのだとか」
そういってシーンはサンドラの前に跪いて片手をとりそれにキスをした。
「あなたをお迎えに上がりました。このシーンの元に来てくださいますね。断られてもさらうまでですが」
「まあ嬉しいわシーン。ほんとうに?」
「本当さ。こんなこと冗談で言わないよ」
その言葉に二人は微笑み合う。
しかし護衛も侍女たちも、顔を真っ赤にして決して許そうとはしなかった。
シーンはサンドラをヒョイと胸の前に抱え上げる。
「そんなに言われても貰っていくよ。君たちも心配ならついてきたまえ。禄は出すぞ?」
すると護衛も侍女も頷いた。
「当然。あなたにお嬢様を蔑ろにされたくありませんから。あなたじゃなくお嬢様に仕えるんですからね!」
そう言って、部屋を出て澄ました顔で二人が出てくるの整列して待ち、シーンがサンドラを抱えあげたまま出てくるとその後ろに従って行った。
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