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第37話 人心掌握
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シーンが楽しそうにラッパを吹くと、その音に反応して人々が集まってきた。
ビジュルの支配階級たちに虐げられた民たちで、疲れた顔をしていたが、シーンとエイミーが麦がゆを施すと、この新しく頼もしい領主に付き従った。
しばらく進むと、大きな平野に出たのでシーンは声高らかに休憩を宣言した。
人々が草原に腰を下ろすと、シーンとエイミーは例の小袋からパンと魚のフライを出して楽しそうに配給した。
それは一体どこから出てくるのかとチャーリーは疑問に思ったが、皆飢えているようでビジュルの民にとっては素晴らしいご領主との意識しかない。
そうしていると、ぞくぞくと飢えたビジュルの民が集まってきて百人ほどの人数になった。
その人々は口々にシーンを称える言葉を言う。シーンの横にはこの地の言葉が分かる男、ラリーが立ち言葉の意味を述べるとシーンはいつものようににこにことしていた。
だがその空気が一変する。シーンたちのいる平野の向こうに、ビジュルの民とは違う様相の男が立っていた。
明らかに高貴そうだ。その男は高らかに声を上げる。
「ワシはベルゴールさまの縁者でベルウィルという。我が領地に勝手に入ってきた敵め。奴隷ともども容赦せぬ!」
と叫んだ。ビジュルの民たちは恐れて散り散りに逃げたが、シーンとエイミーはキョトンとしており、顔を見合わせて笑い出した。
ベルウィルは笑われたことに腹を立てて訳を聞く。
「何が可笑しい! 皆殺しになると聞いて臆したか!?」
だがそれにも二人は笑っている。シーンが連れてきたチャーリーも使用人たちも笑う二人に唖然としていた。
そのうちに、エイミーがベルウィルを指差す。シーンも腹を抱えた。
「だって、だって可笑しいわ!」
「皆殺しになると聞いて臆したか──! だって! あははははは!」
ベルウィルは挑発されたと真っ赤になって怒り、腕を上げてなにやら唱えると、ベルウィルの周りに土の壁が出来上がる。それに、ぷつりぷつりと切れ目が入ると、手足が出来上がり土人形の出来上がりだ。
それは五体のゴーレム。それが諸手を上げてシーンに向けて突進してくる。
シーンはそれにも笑いながら、チャーリーのほうに手を向けた。
「チャーリー。槍だ」
「は、はい」
チャーリーは慌てて、言われるがままにシーンへと槍を渡すと、シーンはそこで二度片足でステップを踏んで、助走をつけて槍を放った。
槍は二体のゴーレムの腹を貫通して、遥か先のベルウィルに突き刺さった。ベルウィルは声を上げる間も無く討ち取られたのだった。
ベルウィルの作ったゴーレムは、術者がいなくなってその場に崩れ去った。
散り散りになったビジュルの民たちは、この光景を見て最初は声が出なかったが、やがて歓声に変わる。
わあ! わあ! という声の中でシーンは照れていた。
シーンはまたラリーを呼び、ベルウィルの術のことを聞いた。
「ご領主さま。あれはこのビジュルを仕切る賊の一人です。彼らの一族は遥か昔からビジュルを我が物としていたようで、現在の酋長の名はベルゴールと言います。今では不思議な術を使いビジュルはおろか、サイル州全土を取り、やがては天下を狙うつもりなのです」
「ふーん。みんなあんな術を使うのかい?」
「はい。ベルゴールは、たくさんの矢を操る万箭の術、そして今見た土人形の術、さらに瞬間移動の術を使い、我らに手出しさせないようそれらで脅します。彼らの親族はその術をそれぞれ伝授され、逆らうものには容赦はしません」
「なるほどねぇ」
「誰も太刀打ちできなかったのに、ご領主さまがお一人でベルウィルを倒してしまったことに、みな驚いていたおります。我らが解放される一筋の光が見えたようです」
「ああ解放? そんなことわけない、わけない。その連中に罰を与えればいいんだろ?」
「その通りです」
シーンはそんなこと朝飯前だと胸を叩くと、みんな平伏して懇願した。シーンは細剣を抜いて、鼻歌交じりに進み出したので、みんなも慌ててその背中を追った。
そのうちに、だんだんと道が狭くなり、崖の間を通るような山道となった。
シーンは不便そうに言った。
「こりゃ、危険がない道をそのうち作る必要があるなチャーリー」
「おっしゃる通りで……」
「領民たちがここを通って農地に行かなくちゃならないなんて不憫だよ。くだんの酋長を捕えたら人を雇って土木工事をしよう」
「ご英断です。ですが今はこの道を通らなくてはなりません。岩がゴロゴロした悪路です。敵に襲われたら危険ですからご注意してください」
「そうだな。ま、なんとかなるだろう」
シーンがそう言って崖の中を進み出すと、その後ろに槍持ちのチャーリーと通訳のラリー。縄と網を持った使用人が二人。輿を持った使用人が四人。その輿の上に日傘をさしたエイミー。さらにその後ろにはビジュルの民たちが続いた。
山道を半ばまで来たとき、またもや前方に男が現れた。今度は二人だ。ベルウィルと似たような服装をしている。おそらくベルゴールの縁者で、このビジュルを牛耳る連中だと分かった。
それを見てラリーがシーンに向かって叫ぶ。
「あれはベルガムとベルスラです。ベルゴールの可愛がる親族の二人です。万箭の術を使います」
「へー! 見てみたい」
すると二人のほうから、何千何万という矢が真っ直ぐにシーンに飛んでくる。シーンもエイミーもきゃっきゃと手を叩いた。
そうしているうちに矢はこちらに飛んでくる。
だがシーンはその辺にゴロゴロしている自分の身長の二倍はあろう大岩を引っ付かんで、道の真ん中に置くとそれが盾となって矢は全てそれに突き刺さった。
岩の先でベルガムとベルスラの悔しがるような声が聞こえたが、シーンは間髪入れずに、頭くらいの岩を掴んでボーイ、ボーイと放り投げると、岩の向こうから叫び声が二つ。
盾となった岩をどけてから、その場所に行ってみると頭の砕けた二つの遺体があり、またまたビジュルの民から歓声が上がった。
ビジュルの支配階級たちに虐げられた民たちで、疲れた顔をしていたが、シーンとエイミーが麦がゆを施すと、この新しく頼もしい領主に付き従った。
しばらく進むと、大きな平野に出たのでシーンは声高らかに休憩を宣言した。
人々が草原に腰を下ろすと、シーンとエイミーは例の小袋からパンと魚のフライを出して楽しそうに配給した。
それは一体どこから出てくるのかとチャーリーは疑問に思ったが、皆飢えているようでビジュルの民にとっては素晴らしいご領主との意識しかない。
そうしていると、ぞくぞくと飢えたビジュルの民が集まってきて百人ほどの人数になった。
その人々は口々にシーンを称える言葉を言う。シーンの横にはこの地の言葉が分かる男、ラリーが立ち言葉の意味を述べるとシーンはいつものようににこにことしていた。
だがその空気が一変する。シーンたちのいる平野の向こうに、ビジュルの民とは違う様相の男が立っていた。
明らかに高貴そうだ。その男は高らかに声を上げる。
「ワシはベルゴールさまの縁者でベルウィルという。我が領地に勝手に入ってきた敵め。奴隷ともども容赦せぬ!」
と叫んだ。ビジュルの民たちは恐れて散り散りに逃げたが、シーンとエイミーはキョトンとしており、顔を見合わせて笑い出した。
ベルウィルは笑われたことに腹を立てて訳を聞く。
「何が可笑しい! 皆殺しになると聞いて臆したか!?」
だがそれにも二人は笑っている。シーンが連れてきたチャーリーも使用人たちも笑う二人に唖然としていた。
そのうちに、エイミーがベルウィルを指差す。シーンも腹を抱えた。
「だって、だって可笑しいわ!」
「皆殺しになると聞いて臆したか──! だって! あははははは!」
ベルウィルは挑発されたと真っ赤になって怒り、腕を上げてなにやら唱えると、ベルウィルの周りに土の壁が出来上がる。それに、ぷつりぷつりと切れ目が入ると、手足が出来上がり土人形の出来上がりだ。
それは五体のゴーレム。それが諸手を上げてシーンに向けて突進してくる。
シーンはそれにも笑いながら、チャーリーのほうに手を向けた。
「チャーリー。槍だ」
「は、はい」
チャーリーは慌てて、言われるがままにシーンへと槍を渡すと、シーンはそこで二度片足でステップを踏んで、助走をつけて槍を放った。
槍は二体のゴーレムの腹を貫通して、遥か先のベルウィルに突き刺さった。ベルウィルは声を上げる間も無く討ち取られたのだった。
ベルウィルの作ったゴーレムは、術者がいなくなってその場に崩れ去った。
散り散りになったビジュルの民たちは、この光景を見て最初は声が出なかったが、やがて歓声に変わる。
わあ! わあ! という声の中でシーンは照れていた。
シーンはまたラリーを呼び、ベルウィルの術のことを聞いた。
「ご領主さま。あれはこのビジュルを仕切る賊の一人です。彼らの一族は遥か昔からビジュルを我が物としていたようで、現在の酋長の名はベルゴールと言います。今では不思議な術を使いビジュルはおろか、サイル州全土を取り、やがては天下を狙うつもりなのです」
「ふーん。みんなあんな術を使うのかい?」
「はい。ベルゴールは、たくさんの矢を操る万箭の術、そして今見た土人形の術、さらに瞬間移動の術を使い、我らに手出しさせないようそれらで脅します。彼らの親族はその術をそれぞれ伝授され、逆らうものには容赦はしません」
「なるほどねぇ」
「誰も太刀打ちできなかったのに、ご領主さまがお一人でベルウィルを倒してしまったことに、みな驚いていたおります。我らが解放される一筋の光が見えたようです」
「ああ解放? そんなことわけない、わけない。その連中に罰を与えればいいんだろ?」
「その通りです」
シーンはそんなこと朝飯前だと胸を叩くと、みんな平伏して懇願した。シーンは細剣を抜いて、鼻歌交じりに進み出したので、みんなも慌ててその背中を追った。
そのうちに、だんだんと道が狭くなり、崖の間を通るような山道となった。
シーンは不便そうに言った。
「こりゃ、危険がない道をそのうち作る必要があるなチャーリー」
「おっしゃる通りで……」
「領民たちがここを通って農地に行かなくちゃならないなんて不憫だよ。くだんの酋長を捕えたら人を雇って土木工事をしよう」
「ご英断です。ですが今はこの道を通らなくてはなりません。岩がゴロゴロした悪路です。敵に襲われたら危険ですからご注意してください」
「そうだな。ま、なんとかなるだろう」
シーンがそう言って崖の中を進み出すと、その後ろに槍持ちのチャーリーと通訳のラリー。縄と網を持った使用人が二人。輿を持った使用人が四人。その輿の上に日傘をさしたエイミー。さらにその後ろにはビジュルの民たちが続いた。
山道を半ばまで来たとき、またもや前方に男が現れた。今度は二人だ。ベルウィルと似たような服装をしている。おそらくベルゴールの縁者で、このビジュルを牛耳る連中だと分かった。
それを見てラリーがシーンに向かって叫ぶ。
「あれはベルガムとベルスラです。ベルゴールの可愛がる親族の二人です。万箭の術を使います」
「へー! 見てみたい」
すると二人のほうから、何千何万という矢が真っ直ぐにシーンに飛んでくる。シーンもエイミーもきゃっきゃと手を叩いた。
そうしているうちに矢はこちらに飛んでくる。
だがシーンはその辺にゴロゴロしている自分の身長の二倍はあろう大岩を引っ付かんで、道の真ん中に置くとそれが盾となって矢は全てそれに突き刺さった。
岩の先でベルガムとベルスラの悔しがるような声が聞こえたが、シーンは間髪入れずに、頭くらいの岩を掴んでボーイ、ボーイと放り投げると、岩の向こうから叫び声が二つ。
盾となった岩をどけてから、その場所に行ってみると頭の砕けた二つの遺体があり、またまたビジュルの民から歓声が上がった。
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