27 / 58
第27話 城門の人
しおりを挟む
下男のトマスは、都へ到着していた。
平民は城門をくぐる際、馬より降りて馬を引かなくてはいけない決まりになっているので、トマスは城門の近くで馬から下りて馬を引き出した。
たくさんの人々が往来している。やはりバイバルのような田舎ではないと、久々の都に楽しくなった。今日はお使いを終らせて、グラムーン伯爵家に報告をしながら泊まらせてもらい、明日出立すれば、馬車とは違って一日の旅程でお屋敷へ戻れる。それまで都を目に焼き付けておこうと思い、城門に入った。
すると、城門の入り口ですぐさま声をかけられた。
「ちょっと。そこを行くのはグラムーン家の下男じゃないの?」
適格に自分を知っている人だと振り向いてみると、唾の大きな帽子に、高そうな淡いオレンジ色のドレスを着た貴族のお嬢様だ。どこのご令嬢かと思うと、彼女は顔を上げた。
「サ、サンドラ様」
「そうよ。この大貴族が自ら庶民如きに声を描けたことを生涯の誇りとなさい」
全然性格は変わっていなかった。トマスは苦笑いをしながら冷や汗を垂らす。
「あのう。サンドラ様。私に何かご用でしょうか。主人の言いつけもありますのでここで失礼したのですが」
「用があるから呼んだに決まっているでしょ」
「ははぁ。如何用で?」
そう聞くも、サンドラはもじもじしてなかなか聞いてこない。
トマスは一礼して去ろうとするも、また呼び止められた。
「あのう。──シーンはどういう様子よ? 私のこと何か言ってなかった?」
このお嬢様は一悶着起こしていながら、まだ坊っちゃんのことを思っているのかとトマスは呆れてため息をついた。しかしここでもう彼女にチャンスはないと思わせる方が良いと思い、答えた。
「シーン様のご様子は聞かれれば、領地での生活を楽んでいらっっしゃると言う感じですね。エイミー様を気遣い、それはそれは大変仲睦まじいです。サンドラ様のことは何も言っておられませんでしたよ」
「ホント? ホントに何も言ってない?」
「ええ。ひとっっことも」
それを聞いてサンドラは安堵のため息を漏らした。
「ほーぅ。それじゃ私のことやお父様のことを怒って都から離れたわけじゃなかったのね。よかった」
「え? いや、そのう」
サンドラはまるで恋をしたばかりの少女のような顔をして喜んでいるので、トマスもそれ以上何も言えなくなってしまった。仕方なく、一礼し、馬を引いてその場を離れることにすると、サンドラはまた城門からはるか遠くを眺めていた。
もしもシーンを待っているならば帰ってくわけがないのにと思いながら、トマスは城門を後にした。
そこからは畜産の商人と農具の商人に声をかけ、これくらい買いたいから、バイバルへと持って行ってくれと言うと、商人たちは久しぶりの上客と喜んで、すぐに向かいますとのことだった。
用事が済んだトマスはグラムーン伯爵家へと戻ると、アルベルトとジュノンは大喜びで彼を迎えた。
「おお、トマス。シーンはどうだ。うまく生活しているか? 都を恋しがっているだろう」
「私たちのことを心配しているんじゃないかしら。寒がっていない? ちゃんと食べてる?」
「あのう。若様は都を恋しがるどころか領地の生活を楽しんでいらっしゃいます」
そういうと、二人とも寂しそうな顔。親が思うほど子は親のことを思っていない。いつの世もそんなものである。
「お茶にするか」
「そうですわねぇ……」
二人は使用人を呼んで、トマスを同席させお茶をふるまった。
「それで、トマス一人で都になんの用事だったのかね」
「ええ。若様に商人を呼んでくるよう頼まれまして」
それを聞くとアルベルトは膝を叩いて喜んだ。
「ははーん。やはり都が恋しいか。衣服やアクセサリーは都のほうがいいものな」
「いえ。若様は衣服には無頓着でして、毎日汚して遊ばれるので、使用人たちは洗濯が大変だとうなっておりました。今回商人を呼びますのは、領民たちに家畜や農具をふるまうということです」
また違っていた。シーンが都恋しさに商人を呼んだかと思ったのに、全く都や自分たちのことを思っていないと、またも寂しくなってしまった。
「なんと、領民への下賜品かね。しかし、莫大な金がかかるだろう」
「それは若様にもお考えがあるのでしょう。私にはわかりかねますが……」
「そうかね」
アルベルトにはシーンの考えがよく分からない。領民に施しをしたところで見返りなど感じられない。無駄金を使うだけだ。
しかし、それがシーンとエイミーなのだ。それで勉強することもあるだろう。貧乏になって辛く苦しい思いをするときもあるだろう。苦労は買ってでもしろだ。と思い、やりたいようにやらせることにした。
平民は城門をくぐる際、馬より降りて馬を引かなくてはいけない決まりになっているので、トマスは城門の近くで馬から下りて馬を引き出した。
たくさんの人々が往来している。やはりバイバルのような田舎ではないと、久々の都に楽しくなった。今日はお使いを終らせて、グラムーン伯爵家に報告をしながら泊まらせてもらい、明日出立すれば、馬車とは違って一日の旅程でお屋敷へ戻れる。それまで都を目に焼き付けておこうと思い、城門に入った。
すると、城門の入り口ですぐさま声をかけられた。
「ちょっと。そこを行くのはグラムーン家の下男じゃないの?」
適格に自分を知っている人だと振り向いてみると、唾の大きな帽子に、高そうな淡いオレンジ色のドレスを着た貴族のお嬢様だ。どこのご令嬢かと思うと、彼女は顔を上げた。
「サ、サンドラ様」
「そうよ。この大貴族が自ら庶民如きに声を描けたことを生涯の誇りとなさい」
全然性格は変わっていなかった。トマスは苦笑いをしながら冷や汗を垂らす。
「あのう。サンドラ様。私に何かご用でしょうか。主人の言いつけもありますのでここで失礼したのですが」
「用があるから呼んだに決まっているでしょ」
「ははぁ。如何用で?」
そう聞くも、サンドラはもじもじしてなかなか聞いてこない。
トマスは一礼して去ろうとするも、また呼び止められた。
「あのう。──シーンはどういう様子よ? 私のこと何か言ってなかった?」
このお嬢様は一悶着起こしていながら、まだ坊っちゃんのことを思っているのかとトマスは呆れてため息をついた。しかしここでもう彼女にチャンスはないと思わせる方が良いと思い、答えた。
「シーン様のご様子は聞かれれば、領地での生活を楽んでいらっっしゃると言う感じですね。エイミー様を気遣い、それはそれは大変仲睦まじいです。サンドラ様のことは何も言っておられませんでしたよ」
「ホント? ホントに何も言ってない?」
「ええ。ひとっっことも」
それを聞いてサンドラは安堵のため息を漏らした。
「ほーぅ。それじゃ私のことやお父様のことを怒って都から離れたわけじゃなかったのね。よかった」
「え? いや、そのう」
サンドラはまるで恋をしたばかりの少女のような顔をして喜んでいるので、トマスもそれ以上何も言えなくなってしまった。仕方なく、一礼し、馬を引いてその場を離れることにすると、サンドラはまた城門からはるか遠くを眺めていた。
もしもシーンを待っているならば帰ってくわけがないのにと思いながら、トマスは城門を後にした。
そこからは畜産の商人と農具の商人に声をかけ、これくらい買いたいから、バイバルへと持って行ってくれと言うと、商人たちは久しぶりの上客と喜んで、すぐに向かいますとのことだった。
用事が済んだトマスはグラムーン伯爵家へと戻ると、アルベルトとジュノンは大喜びで彼を迎えた。
「おお、トマス。シーンはどうだ。うまく生活しているか? 都を恋しがっているだろう」
「私たちのことを心配しているんじゃないかしら。寒がっていない? ちゃんと食べてる?」
「あのう。若様は都を恋しがるどころか領地の生活を楽しんでいらっしゃいます」
そういうと、二人とも寂しそうな顔。親が思うほど子は親のことを思っていない。いつの世もそんなものである。
「お茶にするか」
「そうですわねぇ……」
二人は使用人を呼んで、トマスを同席させお茶をふるまった。
「それで、トマス一人で都になんの用事だったのかね」
「ええ。若様に商人を呼んでくるよう頼まれまして」
それを聞くとアルベルトは膝を叩いて喜んだ。
「ははーん。やはり都が恋しいか。衣服やアクセサリーは都のほうがいいものな」
「いえ。若様は衣服には無頓着でして、毎日汚して遊ばれるので、使用人たちは洗濯が大変だとうなっておりました。今回商人を呼びますのは、領民たちに家畜や農具をふるまうということです」
また違っていた。シーンが都恋しさに商人を呼んだかと思ったのに、全く都や自分たちのことを思っていないと、またも寂しくなってしまった。
「なんと、領民への下賜品かね。しかし、莫大な金がかかるだろう」
「それは若様にもお考えがあるのでしょう。私にはわかりかねますが……」
「そうかね」
アルベルトにはシーンの考えがよく分からない。領民に施しをしたところで見返りなど感じられない。無駄金を使うだけだ。
しかし、それがシーンとエイミーなのだ。それで勉強することもあるだろう。貧乏になって辛く苦しい思いをするときもあるだろう。苦労は買ってでもしろだ。と思い、やりたいようにやらせることにした。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2024.8.2)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる