シーン・グラムーンがハンデを乗り越えて幸せになる

家紋武範

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第27話 城門の人

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 下男のトマスは、都へ到着していた。
 平民は城門をくぐる際、馬より降りて馬を引かなくてはいけない決まりになっているので、トマスは城門の近くで馬から下りて馬を引き出した。
 たくさんの人々が往来している。やはりバイバルのような田舎ではないと、久々の都に楽しくなった。今日はお使いを終らせて、グラムーン伯爵家に報告をしながら泊まらせてもらい、明日出立すれば、馬車とは違って一日の旅程でお屋敷へ戻れる。それまで都を目に焼き付けておこうと思い、城門に入った。
 すると、城門の入り口ですぐさま声をかけられた。

「ちょっと。そこを行くのはグラムーン家の下男じゃないの?」

 適格に自分を知っている人だと振り向いてみると、唾の大きな帽子に、高そうな淡いオレンジ色のドレスを着た貴族のお嬢様だ。どこのご令嬢かと思うと、彼女は顔を上げた。

「サ、サンドラ様」
「そうよ。この大貴族が自ら庶民如きに声を描けたことを生涯の誇りとなさい」

 全然性格は変わっていなかった。トマスは苦笑いをしながら冷や汗を垂らす。

「あのう。サンドラ様。私に何かご用でしょうか。主人の言いつけもありますのでここで失礼したのですが」
「用があるから呼んだに決まっているでしょ」

「ははぁ。如何いか用で?」

 そう聞くも、サンドラはもじもじしてなかなか聞いてこない。
 トマスは一礼して去ろうとするも、また呼び止められた。

「あのう。──シーンはどういう様子よ? 私のこと何か言ってなかった?」

 このお嬢様は一悶着起こしていながら、まだ坊っちゃんのことを思っているのかとトマスは呆れてため息をついた。しかしここでもう彼女にチャンスはないと思わせる方が良いと思い、答えた。

「シーン様のご様子は聞かれれば、領地での生活を楽んでいらっっしゃると言う感じですね。エイミー様を気遣い、それはそれは大変仲睦まじいです。サンドラ様のことは何も言っておられませんでしたよ」
「ホント? ホントに何も言ってない?」

「ええ。ひとっっことも」

 それを聞いてサンドラは安堵のため息を漏らした。

「ほーぅ。それじゃ私のことやお父様のことを怒って都から離れたわけじゃなかったのね。よかった」
「え? いや、そのう」

 サンドラはまるで恋をしたばかりの少女のような顔をして喜んでいるので、トマスもそれ以上何も言えなくなってしまった。仕方なく、一礼し、馬を引いてその場を離れることにすると、サンドラはまた城門からはるか遠くを眺めていた。
 もしもシーンを待っているならば帰ってくわけがないのにと思いながら、トマスは城門を後にした。

 そこからは畜産の商人と農具の商人に声をかけ、これくらい買いたいから、バイバルへと持って行ってくれと言うと、商人たちは久しぶりの上客と喜んで、すぐに向かいますとのことだった。
 用事が済んだトマスはグラムーン伯爵家へと戻ると、アルベルトとジュノンは大喜びで彼を迎えた。

「おお、トマス。シーンはどうだ。うまく生活しているか? 都を恋しがっているだろう」
「私たちのことを心配しているんじゃないかしら。寒がっていない? ちゃんと食べてる?」

「あのう。若様は都を恋しがるどころか領地の生活を楽しんでいらっしゃいます」

 そういうと、二人とも寂しそうな顔。親が思うほど子は親のことを思っていない。いつの世もそんなものである。

「お茶にするか」
「そうですわねぇ……」

 二人は使用人を呼んで、トマスを同席させお茶をふるまった。

「それで、トマス一人で都になんの用事だったのかね」
「ええ。若様に商人を呼んでくるよう頼まれまして」

 それを聞くとアルベルトは膝を叩いて喜んだ。

「ははーん。やはり都が恋しいか。衣服やアクセサリーは都のほうがいいものな」
「いえ。若様は衣服には無頓着でして、毎日汚して遊ばれるので、使用人たちは洗濯が大変だとうなっておりました。今回商人を呼びますのは、領民たちに家畜や農具をふるまうということです」

 また違っていた。シーンが都恋しさに商人を呼んだかと思ったのに、全く都や自分たちのことを思っていないと、またも寂しくなってしまった。

「なんと、領民への下賜品かね。しかし、莫大な金がかかるだろう」
「それは若様にもお考えがあるのでしょう。私にはわかりかねますが……」

「そうかね」

 アルベルトにはシーンの考えがよく分からない。領民に施しをしたところで見返りなど感じられない。無駄金を使うだけだ。
 しかし、それがシーンとエイミーなのだ。それで勉強することもあるだろう。貧乏になって辛く苦しい思いをするときもあるだろう。苦労は買ってでもしろだ。と思い、やりたいようにやらせることにした。
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