26 / 58
第26話 使用人
しおりを挟む
シーンとエイミーは、たくさんある部屋を見て、今日はここで寝ると決めていた場所に下男と御者に持ってきた荷物を運ばせていた。そこには、一抱えほどの大きさの箱が三つ。中には金貨が入っていた。
これはトロル討伐のご褒美でもらった金貨の箱。シーンはアルベルトから持っていくようにと三箱渡されていた。
この国の貨幣は三種類に分かれている。銅貨、銀貨、金貨の順で価値が高い。
銀貨一枚で小麦が5キログラム入った袋が一つ。
鶏なら4羽。豚一頭で銀貨三枚。
銅貨は銀貨の10分の一。
金貨は銀貨の10倍で、牛一頭三枚で取引される。
領民たちは主に物々交換で、昔グラムーン家から与えられた農具や家畜を大事に扱っているのだろう。
金貨の箱には一箱720枚入っていた。それが三つ。相当な量だ。シーンはお金を自分のために使おうなんてこれっぽっちも思っていなかった。
領地経営など考えず、領民のためになることにお金を使ってしまおうと思っていたのだ。
次の日からシーンとエイミーは大忙しだった。屋敷にしまわれていた小さなオモチャみたいな馬車を引っ張り出して御者に運転させて領地の端から端まで家々を回った。
領民は領主の巡察ということで、おのおの出迎えて歓待した。
シーンはそれぞれの家々を見て回り、農作業用の牛や馬のいない家には、それを入れる柵を作っておきなさいと命じ、鶏小屋や豚を入れる小屋を作るように言って回った。
これには領民たちも、あの約束を本当に守られるつもりなのだと目を丸くしたものの、まさか守られるわけはあるまいと思うものが大半だった。
一週間もすると、都から使用人たちが集まってきた。顔なじみのものもいれば、新しく来たものもいる。シーンとエイミーは、それぞれを楽しそうに下男部屋に案内した。
初めて来たものは、自ら部屋に案内するなんてこんなご主人は初めてと驚いていた。
しかし、一人だけ雰囲気が違うものがいた。
細いメガネに、尖ったヒゲ。痩せ型のスーツ姿で眉間に皺が寄っている。見た目がすでに厳しそうだが、シーンとエイミーは同じように歓待した。
「ウオッホン。ご主人さまでいらっしゃいますか。私はウォールと申します」
「ようこそ、ウォール」
「グラムーン伯爵さまより、こちらの家宰を任すと言われて参ったのです。当年とって29歳。前はトニウェル子爵のお屋敷で厄介になっておりましたが、紹介を受け参りました。屋敷の管理は私にお任せ下さい。また領地経営も私が勤めます」
「そうか。よろしく頼むよ」
ウォールが来たことで、シーンとエイミーはそれにまかせて、都と同じように駆け回って遊んだ。といっても領民がしている仕事に気付くと、そこに駆けて行って手伝いをするのだ。干し草をまとめたり、農作業へ行く、牛の尻を棒で叩いたり。領民たちは、あれが国の英雄。それが子どものように手伝いをしてくれると、恐れ入りながらも微笑ましく見ていたのだ。
家宰のウォールは良く家をまとめた。しかし領地の経営は今のままでも充分に収益があると関心を示さなかった。
その裏で、シーンは領民との約束を果たすべく、都から商人を呼ぶ算段をしていた。下男のトマスに馬を貸し、畜産の商人や、農具の商人をつれてくるよう命じたのである。
トマスは早速馬に乗り、都を目指して走っていった。
これはトロル討伐のご褒美でもらった金貨の箱。シーンはアルベルトから持っていくようにと三箱渡されていた。
この国の貨幣は三種類に分かれている。銅貨、銀貨、金貨の順で価値が高い。
銀貨一枚で小麦が5キログラム入った袋が一つ。
鶏なら4羽。豚一頭で銀貨三枚。
銅貨は銀貨の10分の一。
金貨は銀貨の10倍で、牛一頭三枚で取引される。
領民たちは主に物々交換で、昔グラムーン家から与えられた農具や家畜を大事に扱っているのだろう。
金貨の箱には一箱720枚入っていた。それが三つ。相当な量だ。シーンはお金を自分のために使おうなんてこれっぽっちも思っていなかった。
領地経営など考えず、領民のためになることにお金を使ってしまおうと思っていたのだ。
次の日からシーンとエイミーは大忙しだった。屋敷にしまわれていた小さなオモチャみたいな馬車を引っ張り出して御者に運転させて領地の端から端まで家々を回った。
領民は領主の巡察ということで、おのおの出迎えて歓待した。
シーンはそれぞれの家々を見て回り、農作業用の牛や馬のいない家には、それを入れる柵を作っておきなさいと命じ、鶏小屋や豚を入れる小屋を作るように言って回った。
これには領民たちも、あの約束を本当に守られるつもりなのだと目を丸くしたものの、まさか守られるわけはあるまいと思うものが大半だった。
一週間もすると、都から使用人たちが集まってきた。顔なじみのものもいれば、新しく来たものもいる。シーンとエイミーは、それぞれを楽しそうに下男部屋に案内した。
初めて来たものは、自ら部屋に案内するなんてこんなご主人は初めてと驚いていた。
しかし、一人だけ雰囲気が違うものがいた。
細いメガネに、尖ったヒゲ。痩せ型のスーツ姿で眉間に皺が寄っている。見た目がすでに厳しそうだが、シーンとエイミーは同じように歓待した。
「ウオッホン。ご主人さまでいらっしゃいますか。私はウォールと申します」
「ようこそ、ウォール」
「グラムーン伯爵さまより、こちらの家宰を任すと言われて参ったのです。当年とって29歳。前はトニウェル子爵のお屋敷で厄介になっておりましたが、紹介を受け参りました。屋敷の管理は私にお任せ下さい。また領地経営も私が勤めます」
「そうか。よろしく頼むよ」
ウォールが来たことで、シーンとエイミーはそれにまかせて、都と同じように駆け回って遊んだ。といっても領民がしている仕事に気付くと、そこに駆けて行って手伝いをするのだ。干し草をまとめたり、農作業へ行く、牛の尻を棒で叩いたり。領民たちは、あれが国の英雄。それが子どものように手伝いをしてくれると、恐れ入りながらも微笑ましく見ていたのだ。
家宰のウォールは良く家をまとめた。しかし領地の経営は今のままでも充分に収益があると関心を示さなかった。
その裏で、シーンは領民との約束を果たすべく、都から商人を呼ぶ算段をしていた。下男のトマスに馬を貸し、畜産の商人や、農具の商人をつれてくるよう命じたのである。
トマスは早速馬に乗り、都を目指して走っていった。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
アリア
桜庭かなめ
恋愛
10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。
それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。
様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。
※完結しました!(2020.9.24)
聖女戦士ピュアレディー
ピュア
大衆娯楽
近未来の日本!
汚染物質が突然変異でモンスター化し、人類に襲いかかる事件が多発していた。
そんな敵に立ち向かう為に開発されたピュアスーツ(スリングショット水着とほぼ同じ)を身にまとい、聖水(オシッコ)で戦う美女達がいた!
その名を聖女戦士 ピュアレディー‼︎
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる