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第21話 vs トロル
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シーンのお供は二人は馬を御し、三人はシーンと同じ場所に陪乗したが皆不安そうな顔。
「若様、怖くはないのですか?」
「無論怖い。見たことない敵だからな。だが大丈夫。みんなは見ているだけでいい」
「は、はぁ」
城塞の兵士たちは、シーンはまだ若い。これは若さ故のもの知らず。勇気に似た無謀であろうと感じた。しかし、シーンと共に居ると楽しい。
将来の自分たちの上司だ。これを必死に守らねばなるまいと心の中で思っていた。
シーンは一週間の旅程でトロルが出没するヒューニア州へとたどり着いた。そこからさらに馬を走らせ、くだんの壊滅した村へと急ぐと、惨憺たる有様だ。
「ふむぅ。これはヒドい。そしてトロルはどこにいるのだろう」
「若様。壊れた建物の影、大樹の裏側、小山の裾などに潜んでおります。リーチが長いですからそこに入らないように」
「なるほど。ではあの小山辺りに潜んでいるかな?」
シーンが指差した小山をみんなで一斉に見る。たしかにいそうな小山だと思った途端、その山がグラリと動く。それは小山ではなく、くだんのトロルそのものだった。兵士たちは焦ったが、シーンに何かあってはアルベルトに申し訳が立たないと気持ちを持ち直し、馬車から飛び出した。
しかし、シーンはその脇を通り過ぎてトロルのもとへ行ってしまった。
「若様! ご自重なされませ!」
「我々の元にお引き下され!」
だがシーンは笑顔で振り向き、兵士たちにVサインを送り、トロルに話し掛けた。
「こんにちわ」
「おおう?」
大きなでっぷりとした体。雑な作りの大棍棒を携え、マヌケそうに舌を出して頭はツルツル。大きな口にはよだれを垂らしており、丁度昔の自分に似ているなと苦笑して続ける。
「キミは力が自慢なんだって? 私は都で一番力があるんだ。一つにゲームをしよう。力比べに負けた方は家来になる。どうだい?」
トロルはいやらしく笑い立ち上がった。棍棒を大きく振り下ろすと、打ち据えた大きな岩は粉々に砕けてしまった。
「ヒィ……!」
それに兵士たちは悲鳴を上げる。トロルはドヤ顔をしたが、シーンは涼しげな顔。
「なるほど強いね。でも死んでしまった岩を叩くなんて簡単さ。生きている岩を捕まえて殺さないと」
トロルも兵士たちもキョトンとした顔をしていたが、シーンは顔を左右に振る。
「ほら見えるかい? 生きている岩は早い。目で追えないくらい」
そう。シーンの目は何かを追っている。トロルも冷や汗を垂らしながら、シーンが見る方を見るが、そちらを見ると、シーンはすでに別な方を見ている。そちらを見ると別な方。生きている岩とはよほど早いのであろうとトロルは思った。
「よし! 捕まえてくるぞ!」
シーンはトロルに見えない何かを追いながら、あちこちを駆け、最後には馬車の後部にある荷台に飛び込み、手を突っ込んで、蓋付きの小さい水瓶を取り出した。
「こいつめ。ようやく捕まえたぞ! 覚悟しろ!」
シーンはそれを活きの良い魚を抱くように演技する。蓋を抑えて水がこぼれないように。そして兵士の横を通るときこっそり指示をした。
「私がすることに大きな歓声を送ってくれ」
そう言いながらトロルの元に進む。トロルは何が起こるのか興味津々。生きている岩とはどんなものか見たかったのだ。
「うお! こいつ暴れるなあ。すごく活きの良い岩だ」
さらに演技を続けるシーンにトロルは引き込まれる。シーンは丁度良い岩を見つけると手に持っていた小さい水瓶をそこに叩き付けた。
音を立てて水瓶は割れ、岩に水が付着し黒くなってる。そこでシーンは叫んだ。
「これは生きている岩の血だ。死んでいる岩なんて止まっているのだから壊すのは容易いが、生きている岩を殺すのは容易じゃないぞ?」
それを聞くとトロルは怯む。さらに五人の兵士たちが大きな歓声を上げたので、自分が負けたように感じてしまった。
トロルは悔しがって、足踏みし、転がっている岩を摑んで歯で砕いて見せ、またもやドヤ顔をした。お前に出来るかと挑発した目。兵士たちは怯えたが、またもやシーンは涼しい顔。
「ああもったいない。岩を歯で砕くだけなんて。私なら美味しく頂けるのに」
その時のトロルの驚いた顔。マヌケな顔がますますマヌケに。シーンはエイミーから借りた小袋にこっそりと手を入れて取り出したのは握りこぶし大の黒砂糖。
黒砂糖を知らないトロルには石に見えたであろう。シーンはそれを口に入れてバリバリ音を立てて食べてしまった。
トロルに戦慄が走る。この人間はたしかに都で一番の力持ちなのかも知れない。石を食べるくらいだから自分も食べられてしまうのかもと思った。
トロルに冷や汗が流れる。
だがシーンから新たな提案があった。
「うーん、しかし今までの勝負は引き分けかな? キミは大岩を砕いたし、岩を噛み砕いた。私は体が小さいから砕いた生きている岩は小さいし、食べたのも石コロだ。別な勝負で勝敗を決しよう」
引き分けと言われて、トロルの方では微笑んだ。これはいい。自分の負けと思ったがまだチャンスはありそうだ。そんなトロルの後ろには切り立った崖のある山があった。シーンはそれを指差す。
「どうだい。力あるものは勇気がなくてはダメだ。どちらが勇気があるか試そうじゃないか」
トロルも胸を叩いて同調した。二人は崖への道を見つけてそこを上がった。下を見下ろすとゆうに30メートルはある。トロルは身震いをしてシーンの方を見ると、余裕気にあくびをしている。
負けてはいられない。
「ここから飛び降りて、勇気を試そう。勇気がなければ飛び降りられないからな」
トロルは大きく頷いた。シーンは飛び込む気満々のようなので、負けてはいられない。二人は崖ギリギリに立った。シーンが号令をかける。
「それじゃいくぞ! いち、にーの、さんっ!」
と言ったところで、トロルはパッと飛び上がる。しかしシーンは飛ばなかった。トロルは、これは自分の勝ちだと空中で手を上げて大喜びしたが、下にある岩盤に身を打ち付けて絶命した。
シーンの計略勝ちだった。一兵も失わずにトロルを討ち取り、証拠にトロルの耳を切って大きな布に包み、都へと凱旋した。
「若様、怖くはないのですか?」
「無論怖い。見たことない敵だからな。だが大丈夫。みんなは見ているだけでいい」
「は、はぁ」
城塞の兵士たちは、シーンはまだ若い。これは若さ故のもの知らず。勇気に似た無謀であろうと感じた。しかし、シーンと共に居ると楽しい。
将来の自分たちの上司だ。これを必死に守らねばなるまいと心の中で思っていた。
シーンは一週間の旅程でトロルが出没するヒューニア州へとたどり着いた。そこからさらに馬を走らせ、くだんの壊滅した村へと急ぐと、惨憺たる有様だ。
「ふむぅ。これはヒドい。そしてトロルはどこにいるのだろう」
「若様。壊れた建物の影、大樹の裏側、小山の裾などに潜んでおります。リーチが長いですからそこに入らないように」
「なるほど。ではあの小山辺りに潜んでいるかな?」
シーンが指差した小山をみんなで一斉に見る。たしかにいそうな小山だと思った途端、その山がグラリと動く。それは小山ではなく、くだんのトロルそのものだった。兵士たちは焦ったが、シーンに何かあってはアルベルトに申し訳が立たないと気持ちを持ち直し、馬車から飛び出した。
しかし、シーンはその脇を通り過ぎてトロルのもとへ行ってしまった。
「若様! ご自重なされませ!」
「我々の元にお引き下され!」
だがシーンは笑顔で振り向き、兵士たちにVサインを送り、トロルに話し掛けた。
「こんにちわ」
「おおう?」
大きなでっぷりとした体。雑な作りの大棍棒を携え、マヌケそうに舌を出して頭はツルツル。大きな口にはよだれを垂らしており、丁度昔の自分に似ているなと苦笑して続ける。
「キミは力が自慢なんだって? 私は都で一番力があるんだ。一つにゲームをしよう。力比べに負けた方は家来になる。どうだい?」
トロルはいやらしく笑い立ち上がった。棍棒を大きく振り下ろすと、打ち据えた大きな岩は粉々に砕けてしまった。
「ヒィ……!」
それに兵士たちは悲鳴を上げる。トロルはドヤ顔をしたが、シーンは涼しげな顔。
「なるほど強いね。でも死んでしまった岩を叩くなんて簡単さ。生きている岩を捕まえて殺さないと」
トロルも兵士たちもキョトンとした顔をしていたが、シーンは顔を左右に振る。
「ほら見えるかい? 生きている岩は早い。目で追えないくらい」
そう。シーンの目は何かを追っている。トロルも冷や汗を垂らしながら、シーンが見る方を見るが、そちらを見ると、シーンはすでに別な方を見ている。そちらを見ると別な方。生きている岩とはよほど早いのであろうとトロルは思った。
「よし! 捕まえてくるぞ!」
シーンはトロルに見えない何かを追いながら、あちこちを駆け、最後には馬車の後部にある荷台に飛び込み、手を突っ込んで、蓋付きの小さい水瓶を取り出した。
「こいつめ。ようやく捕まえたぞ! 覚悟しろ!」
シーンはそれを活きの良い魚を抱くように演技する。蓋を抑えて水がこぼれないように。そして兵士の横を通るときこっそり指示をした。
「私がすることに大きな歓声を送ってくれ」
そう言いながらトロルの元に進む。トロルは何が起こるのか興味津々。生きている岩とはどんなものか見たかったのだ。
「うお! こいつ暴れるなあ。すごく活きの良い岩だ」
さらに演技を続けるシーンにトロルは引き込まれる。シーンは丁度良い岩を見つけると手に持っていた小さい水瓶をそこに叩き付けた。
音を立てて水瓶は割れ、岩に水が付着し黒くなってる。そこでシーンは叫んだ。
「これは生きている岩の血だ。死んでいる岩なんて止まっているのだから壊すのは容易いが、生きている岩を殺すのは容易じゃないぞ?」
それを聞くとトロルは怯む。さらに五人の兵士たちが大きな歓声を上げたので、自分が負けたように感じてしまった。
トロルは悔しがって、足踏みし、転がっている岩を摑んで歯で砕いて見せ、またもやドヤ顔をした。お前に出来るかと挑発した目。兵士たちは怯えたが、またもやシーンは涼しい顔。
「ああもったいない。岩を歯で砕くだけなんて。私なら美味しく頂けるのに」
その時のトロルの驚いた顔。マヌケな顔がますますマヌケに。シーンはエイミーから借りた小袋にこっそりと手を入れて取り出したのは握りこぶし大の黒砂糖。
黒砂糖を知らないトロルには石に見えたであろう。シーンはそれを口に入れてバリバリ音を立てて食べてしまった。
トロルに戦慄が走る。この人間はたしかに都で一番の力持ちなのかも知れない。石を食べるくらいだから自分も食べられてしまうのかもと思った。
トロルに冷や汗が流れる。
だがシーンから新たな提案があった。
「うーん、しかし今までの勝負は引き分けかな? キミは大岩を砕いたし、岩を噛み砕いた。私は体が小さいから砕いた生きている岩は小さいし、食べたのも石コロだ。別な勝負で勝敗を決しよう」
引き分けと言われて、トロルの方では微笑んだ。これはいい。自分の負けと思ったがまだチャンスはありそうだ。そんなトロルの後ろには切り立った崖のある山があった。シーンはそれを指差す。
「どうだい。力あるものは勇気がなくてはダメだ。どちらが勇気があるか試そうじゃないか」
トロルも胸を叩いて同調した。二人は崖への道を見つけてそこを上がった。下を見下ろすとゆうに30メートルはある。トロルは身震いをしてシーンの方を見ると、余裕気にあくびをしている。
負けてはいられない。
「ここから飛び降りて、勇気を試そう。勇気がなければ飛び降りられないからな」
トロルは大きく頷いた。シーンは飛び込む気満々のようなので、負けてはいられない。二人は崖ギリギリに立った。シーンが号令をかける。
「それじゃいくぞ! いち、にーの、さんっ!」
と言ったところで、トロルはパッと飛び上がる。しかしシーンは飛ばなかった。トロルは、これは自分の勝ちだと空中で手を上げて大喜びしたが、下にある岩盤に身を打ち付けて絶命した。
シーンの計略勝ちだった。一兵も失わずにトロルを討ち取り、証拠にトロルの耳を切って大きな布に包み、都へと凱旋した。
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