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第15話 紹介状

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 城塞を守護する仕事に就いたシーンは細剣を携えて威風堂々にアルベルトの背中に並んで城壁の上を視察する。その後ろには同じく副官の三人が続き、さらにその後ろには役割を持った者が二十名ほど続く。
 今まで間抜けのウスノロと噂され、一度も城塞に立ち寄らなかった司令官の跡取りの姿の見事なこと。部下たちはその偉容に息を飲んだ。

 背筋を伸ばしたシーンはアルベルトよりも頭が一つ高かった。どこからどう見ても美丈夫である。この美男の噂はあっという間に都中に広がった。
 それを見ようと、各名家のご令嬢がたは城壁に馬車を並べてアルベルトの後ろに控える青年に黄色い声援を送った。

「あの美丈夫はどなたかしら?」
「どこの名家のご令息かしらね?」
「ああ、あんな方と結婚したいわぁ」

 と言い合った。

 それを聞きつけたのは、この国の宰相であるムガル大公爵のご令嬢サンドラだった。

「その噂の姿はあのかたに違いないわ!」

 急いで自分専用の馬車を引っ張りださせ、城壁までやって来て、その美男の姿を探す。すると、アルベルトの後ろに高身長で筋骨隆々な美男が、凛々しく眉を上げて整然と歩いている。
 サンドラは顔を真っ赤にして彼を見つめた。まさにあの時の天使。その姿に、学校で老婆に占われたことを思い出す。
 高身長で金髪。そして自分を助けてくれた運命の天使。占いに結びつけるに充分であった。

「──お嬢様?」

 御者に尋ねられてハッと我に返る。彼女にとってはこんなことはじめてだ。男を好きになるなどと。

「も、もういいわ。車を出しなさい」
「はい。お嬢様」

 馬車が公爵家に向けて進み出すとサンドラは回りには自分以外にもシーンを見つめる少女たちがたくさんいると気付いた。
 もしもまかり間違って、その中の一人をあの人が見初めたら大変だ。彼は自分のもの。サンドラは宰相である父親に頼み込み、権力を行使して他のギャラリーに対し、城塞は危険だから近づかないようにとの命令書を出し、自分は父親に頼んで、アルベルトに紹介状と名刺を送ったのである。

「はて?」
「お父上、どうされましたか?」

 屋敷で家族水入らずお茶を飲んでいるところに、宰相よりの使者。アルベルトは紹介状と名刺を受け取り、即座に開けると驚きの声を上げたのだ。

「う~ん。宰相様がな、仕事中に近くにいるお方はどこの良家の坊ちゃんだと聞いてこられたのだ」
「はぁ。わたくしのことですかねぇ?」

「それがサンドラご令嬢がことのほか気に入り、吉日を見て顔合わせをしたいと言っておられる」
「は、はぁ? さ、サンドラが? わたくしにはエイミーがおります」

「分かっているし、前にサンドラ嬢にはシーンに嫁いで下さるように宰相にお願いし、断られたこともある」
「わたくしだってお断りです! それに彼女に、学校で扇でぶたれたこともありますよ!」

 シーンは貴族学校でのことを思い出す。サンドラの権威をかさにきたいじめ。率先していじめていたではないかと憤慨した。

「しかし、宰相さまが正式な使者を送って面談したいというものを無下にはできん。第二夫人の座という手もあるが、宰相は正妻でなくては納得すまい」
「ちょ、ちょっと、お父上。わたくしにはエイミーの他は考えられませんよ。それにサンドラなど絶対にありえません!」

「うむむ。だからこそ悩むのだ」
「お父上、しっかりしてください。私の病気が治ったのはどうしてです。エイミーの看病があったからではありませんか。私の恩人、ひいては伯爵家の恩人ですよ!」

「分かっている。分かっている」

 アルベルトとシーンの話は互いに平行線。
 シーンがエイミーを愛するのは分かるが、宰相の権威に逆らうことは出来ない。
 ここはシーンの病も治ったことだし、エイミーに第二夫人の座に引いてもらえれば丸く治まるのではないかとアルベルトが思った時。
 エイミーはシーンのフロックコートの大きく折り曲げられた袖をそっと引いて部屋の外に。二人で何か話しているようだったがすぐに戻って来た。その時のシーンの顔は悩みが解決したように晴れ晴れとしていた。

「それではお父上。今度の城壁の巡察の際に、サンドラ嬢に面会して頂きましょう」

 と笑顔でいうので、アルベルトもひょっとしてエイミーが引き下がって説得してくれたと思い、そのように宰相に返書した。
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