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第12話 男と女
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アルベルトはベスを下がらせると、今度は下男を呼び命じた。
「おいトマス。キミはすばしっこい。こっそりと、エイミー嬢の動向を探って欲しい。シーンの他に男を連れ込んでいるのかも知れない。分かったら報告してくれ」
「お任せ下さい旦那さま」
下男のトマスはすぐに行動を起こした。早朝からエイミーの別邸に赴いて彼女の動きを探ったのだ。壁や木の陰に隠れての偵察。
シーンとエイミーはトマスに気付かずにただいつものように遊ぶだけ。だがトマスは思った。
何かが少しだけ違う。坊ちゃんは昔からあんな動きだったろうか? あんな顔だったろうか? そういえば鼻水をたらしていないし、的確にエイミー嬢の手を握っている。そして木陰のベンチで彼女の肩を優しく抱いている。
「うほ、うほ、うほ」
「ああん。シーン様の意地悪ぅ」
トマスの見立て通りシーンはエイミーの髪を上手に優しく撫でる。今までの指の動きと大きく違う。
それまで見ている分には幼児同士のようだったが、大人の目で見てみると仲のよい若い恋人だ。
しかしそれはエイミー嬢の計略かもしれない。まだ信じられないと、トマスは疑いの目でエイミーのほころびを探した。
「静かですね。シーンさま」
「うお」
「まるでこの世界に、私とシーンさましかいないようですわ」
「あ、あ、あ、あ」
「それだったらどんなにいいのに。あら、小鳥の声だわ」
「うほうほ」
「また巣を探しましょうよ」
「うほー」
二人は楽しげに遊び、草原でしばらく昼寝をしたかと思うと、どちらがいうとなくシーンの部屋へ──。
表で遊ぶのが好きな二人が庭から部屋に入っていく姿。エイミーを先に進ませ、シーンは上着のフロックコートを脱ぎ、ベストを脱いでシャツだけになる。今までフロックコートに隠されていたが胸板や太ももが厚い。衣服がパンパンである。まるで力強い男神のような姿。
そんな男性的な身体をもつシーンはそっとエイミーの尻を押して部屋に入れた。
「な、なんかおかしいぞ?」
二人が部屋に入ると扉は閉じられた。一体部屋の中で何が行われるのかとトマスは閉じられた窓に近付く。そこにはカーテンが閉じられていたが、カーテンの隙間から部屋を覗くと、果たして二人は準備万端な睦み合いの直前。
その前にエイミーは小袋より丸薬を取り出し、大きく口を開けたシーンへと丸薬を飲ませると、「うう」とか「ああ」としか言えなかったシーンが、口を開く。
「う、う、う、う」
「はい。シーン様」
「え、え、え、ええええ、エイミー」
それに下男は驚いて尻もちをついてしまった。聞き違いか?
しかしそうではない。ハッキリと名前を呼んだのだ。下男はますますカーテンの隙間に張り付いた。
「良かった。薬効があなたを取り戻す時間が早くなってきてる。もうすぐよ」
「あ、愛してる。エイミー。また言葉を忘れてしまうのが怖いよ」
「大丈夫。薬は言葉を思い出させているわ。あと僅かよ」
間違いない。ご令息のシーン様は言葉を話している。エイミー嬢と立派に会話をしていなさる。しかしこれはどういうわけだとトマスは聞き耳を立てる。
すると、エイミーの声。嬉しそうに泣きながらシーンに抱き付いていた。
「ねぇシーンさま、あなたは前世で、死ぬ間際に頭を石でつぶされてしまったのです。その時の石のかけらがまだ脳に残っているのです。ですから、読むことも書くこともままならないのですわ。この丸薬を毎日飲んでいると、その内に、石は溶けてしまいますから」
「うん。だけど思い出せない。でも分かるよ。エイミーのことはとても大切な人だと──」
「はい。私……私があの時、あなたの咎めを聞いて岩の下になどいかなかったら、こんなことにならなかったのに。あなたは私を助けてそのまま……」
「ああ。でも今の生活も楽しい。君がいるから。これからも側にいてくれるかい?」
「ああ! なんて寛大なシーン様!」
シーンはそのままエイミーを抱き締め男女となる。
細かい部分は聞き取れなかったもののトマスはこれはもう間違いないだろうと見てはおれず、アルベルトのところへ戻り、その旨を話した。
「なんだと? ふむう。エイミーの不思議な薬を飲むとシーンが話せるようになるとな!?」
「は、はい。シーン様の目に光りがやどりまして、言葉を話せるようになったのです。そして、あの~。男と女のナニです」
「なるほど。不思議な話だ。しかも、間男のではなく、本当にシーンと睦み合うとは」
「まだ一日では分かりません。少し内偵する必要はあるとは思いますが」
「そうだな。引き続き調べてくれ」
「分かりました。旦那さま」
その薬も怪しいと感じながらも、エイミーは本物だった、間男の疑いも晴れ、シーンが言葉を話せるようになったのなら、それもまたいいのかも知れないとアルベルトはそのままにさせ、トマスに内偵を続けさせることにした。
「おいトマス。キミはすばしっこい。こっそりと、エイミー嬢の動向を探って欲しい。シーンの他に男を連れ込んでいるのかも知れない。分かったら報告してくれ」
「お任せ下さい旦那さま」
下男のトマスはすぐに行動を起こした。早朝からエイミーの別邸に赴いて彼女の動きを探ったのだ。壁や木の陰に隠れての偵察。
シーンとエイミーはトマスに気付かずにただいつものように遊ぶだけ。だがトマスは思った。
何かが少しだけ違う。坊ちゃんは昔からあんな動きだったろうか? あんな顔だったろうか? そういえば鼻水をたらしていないし、的確にエイミー嬢の手を握っている。そして木陰のベンチで彼女の肩を優しく抱いている。
「うほ、うほ、うほ」
「ああん。シーン様の意地悪ぅ」
トマスの見立て通りシーンはエイミーの髪を上手に優しく撫でる。今までの指の動きと大きく違う。
それまで見ている分には幼児同士のようだったが、大人の目で見てみると仲のよい若い恋人だ。
しかしそれはエイミー嬢の計略かもしれない。まだ信じられないと、トマスは疑いの目でエイミーのほころびを探した。
「静かですね。シーンさま」
「うお」
「まるでこの世界に、私とシーンさましかいないようですわ」
「あ、あ、あ、あ」
「それだったらどんなにいいのに。あら、小鳥の声だわ」
「うほうほ」
「また巣を探しましょうよ」
「うほー」
二人は楽しげに遊び、草原でしばらく昼寝をしたかと思うと、どちらがいうとなくシーンの部屋へ──。
表で遊ぶのが好きな二人が庭から部屋に入っていく姿。エイミーを先に進ませ、シーンは上着のフロックコートを脱ぎ、ベストを脱いでシャツだけになる。今までフロックコートに隠されていたが胸板や太ももが厚い。衣服がパンパンである。まるで力強い男神のような姿。
そんな男性的な身体をもつシーンはそっとエイミーの尻を押して部屋に入れた。
「な、なんかおかしいぞ?」
二人が部屋に入ると扉は閉じられた。一体部屋の中で何が行われるのかとトマスは閉じられた窓に近付く。そこにはカーテンが閉じられていたが、カーテンの隙間から部屋を覗くと、果たして二人は準備万端な睦み合いの直前。
その前にエイミーは小袋より丸薬を取り出し、大きく口を開けたシーンへと丸薬を飲ませると、「うう」とか「ああ」としか言えなかったシーンが、口を開く。
「う、う、う、う」
「はい。シーン様」
「え、え、え、ええええ、エイミー」
それに下男は驚いて尻もちをついてしまった。聞き違いか?
しかしそうではない。ハッキリと名前を呼んだのだ。下男はますますカーテンの隙間に張り付いた。
「良かった。薬効があなたを取り戻す時間が早くなってきてる。もうすぐよ」
「あ、愛してる。エイミー。また言葉を忘れてしまうのが怖いよ」
「大丈夫。薬は言葉を思い出させているわ。あと僅かよ」
間違いない。ご令息のシーン様は言葉を話している。エイミー嬢と立派に会話をしていなさる。しかしこれはどういうわけだとトマスは聞き耳を立てる。
すると、エイミーの声。嬉しそうに泣きながらシーンに抱き付いていた。
「ねぇシーンさま、あなたは前世で、死ぬ間際に頭を石でつぶされてしまったのです。その時の石のかけらがまだ脳に残っているのです。ですから、読むことも書くこともままならないのですわ。この丸薬を毎日飲んでいると、その内に、石は溶けてしまいますから」
「うん。だけど思い出せない。でも分かるよ。エイミーのことはとても大切な人だと──」
「はい。私……私があの時、あなたの咎めを聞いて岩の下になどいかなかったら、こんなことにならなかったのに。あなたは私を助けてそのまま……」
「ああ。でも今の生活も楽しい。君がいるから。これからも側にいてくれるかい?」
「ああ! なんて寛大なシーン様!」
シーンはそのままエイミーを抱き締め男女となる。
細かい部分は聞き取れなかったもののトマスはこれはもう間違いないだろうと見てはおれず、アルベルトのところへ戻り、その旨を話した。
「なんだと? ふむう。エイミーの不思議な薬を飲むとシーンが話せるようになるとな!?」
「は、はい。シーン様の目に光りがやどりまして、言葉を話せるようになったのです。そして、あの~。男と女のナニです」
「なるほど。不思議な話だ。しかも、間男のではなく、本当にシーンと睦み合うとは」
「まだ一日では分かりません。少し内偵する必要はあるとは思いますが」
「そうだな。引き続き調べてくれ」
「分かりました。旦那さま」
その薬も怪しいと感じながらも、エイミーは本物だった、間男の疑いも晴れ、シーンが言葉を話せるようになったのなら、それもまたいいのかも知れないとアルベルトはそのままにさせ、トマスに内偵を続けさせることにした。
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